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雨宮課長のスキャンダル
《4》
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午後は雨宮課長も参加する創立50周年パーティーの企画会議だった。
会議は庶務係の私たちの他に総務課の社員が4名参加するものだった。会議室には先に雨宮課長以外の総務課の社員が来ていて、何やらひそひそと話していた。
明らかにこちらに視線を向けられている。何か敵意のような物も感じる。
さっきの社食での事だろうか? 庶務係に戻って来たらまりえちゃんに噂になっていますよと言われて驚いた。しかもその噂には男性社員の事は出て来ず、私が雨宮課長に一方的に謝罪させた事になっていた。鬼ような剣幕で中島が雨宮課長にくってかかって、土下座させる勢いだったという尾ひれまで付いていた。誰かが面白おかしく脚色したんだろう。宣伝部にいた頃から上司に噛み付いて来たので、中島ならやりそうだというのもあったかもしれない。
後先考えず、あの男性社員に噛み付いたのは失敗だった。みんなの前で雨宮課長に頭を下げさせてしまった事が申し訳ない。
社食を出ていく雨宮課長の背中を思い出して胸がズキッと痛む。雨宮課長はどんな思いで男性社員と私に頭を下げたんだろう。思わず大きなため息が出た。
会議の資料を確認していると、「中島さん、コーヒーお願い」と栗原さんに頼まれた。
まりえちゃんではなく、私に頼んだのは気を遣ってくれたんだ。栗原さんはいつも空気を読んでくれる。ありがたいと思いながら、会議室を出て、同じ階にある給湯室に行った。
10名分のコーヒーの準備を始める。
カップにコーヒーを注いでいると、今日の会議に参加する疋田さんが「手伝うね」って来てくれた。
疋田さんは総務部に配属になった初日に、最初に声をかけた女性だった。顔を合わせれば雑談ぐらいはするようになった。
「雨宮課長が遅れていて、ごめんね」
『うちの課長』って表現に違和感を覚える。雨宮課長は総務課全体の課長だから、私たち庶務係の課長でもある。
「いえ」
「なんか緒方専務に呼び出されているみたい。週刊誌の事だと思うけどね。社内でこれだけ噂になっているから」
心配になる。雨宮課長、大丈夫かな。
「中島さん、うちの課長を謝らせたらしいじゃない。公衆の面前で上司に恥をかかせるのはどうかと思うけど」
アイシャドウの濃い目がジロリとこっちを向いた。
敵意のある視線。さっき会議室で感じたものだ。
疋田さんが手伝いに来たのは、社食での件を注意したかったからだ。
事実は少し違うけど、私が原因になった事は変わらない。
「すみません」
「中島さん、宣伝部にいた時は阿久津部長に噛み付いたんだって? 凄いよね。上司に意見するって。だけど、総務部ではやめて。総務は平和なの。上司に意見するとかってないから。波風立つような事はしないで。今度うちの課長を侮辱するような事をしたら許さないから」
最後の言葉が強く響いた。
疋田さんの強い怒りを感じる。
私に怒りを持つ疋田さんの立場はわかる。
雨宮課長は上司として慕われているんだな。
「本当にすみませんでした」
雨宮課長をみんなの前で謝罪させた事が申し訳なくて、頭を下げた。
会議は庶務係の私たちの他に総務課の社員が4名参加するものだった。会議室には先に雨宮課長以外の総務課の社員が来ていて、何やらひそひそと話していた。
明らかにこちらに視線を向けられている。何か敵意のような物も感じる。
さっきの社食での事だろうか? 庶務係に戻って来たらまりえちゃんに噂になっていますよと言われて驚いた。しかもその噂には男性社員の事は出て来ず、私が雨宮課長に一方的に謝罪させた事になっていた。鬼ような剣幕で中島が雨宮課長にくってかかって、土下座させる勢いだったという尾ひれまで付いていた。誰かが面白おかしく脚色したんだろう。宣伝部にいた頃から上司に噛み付いて来たので、中島ならやりそうだというのもあったかもしれない。
後先考えず、あの男性社員に噛み付いたのは失敗だった。みんなの前で雨宮課長に頭を下げさせてしまった事が申し訳ない。
社食を出ていく雨宮課長の背中を思い出して胸がズキッと痛む。雨宮課長はどんな思いで男性社員と私に頭を下げたんだろう。思わず大きなため息が出た。
会議の資料を確認していると、「中島さん、コーヒーお願い」と栗原さんに頼まれた。
まりえちゃんではなく、私に頼んだのは気を遣ってくれたんだ。栗原さんはいつも空気を読んでくれる。ありがたいと思いながら、会議室を出て、同じ階にある給湯室に行った。
10名分のコーヒーの準備を始める。
カップにコーヒーを注いでいると、今日の会議に参加する疋田さんが「手伝うね」って来てくれた。
疋田さんは総務部に配属になった初日に、最初に声をかけた女性だった。顔を合わせれば雑談ぐらいはするようになった。
「雨宮課長が遅れていて、ごめんね」
『うちの課長』って表現に違和感を覚える。雨宮課長は総務課全体の課長だから、私たち庶務係の課長でもある。
「いえ」
「なんか緒方専務に呼び出されているみたい。週刊誌の事だと思うけどね。社内でこれだけ噂になっているから」
心配になる。雨宮課長、大丈夫かな。
「中島さん、うちの課長を謝らせたらしいじゃない。公衆の面前で上司に恥をかかせるのはどうかと思うけど」
アイシャドウの濃い目がジロリとこっちを向いた。
敵意のある視線。さっき会議室で感じたものだ。
疋田さんが手伝いに来たのは、社食での件を注意したかったからだ。
事実は少し違うけど、私が原因になった事は変わらない。
「すみません」
「中島さん、宣伝部にいた時は阿久津部長に噛み付いたんだって? 凄いよね。上司に意見するって。だけど、総務部ではやめて。総務は平和なの。上司に意見するとかってないから。波風立つような事はしないで。今度うちの課長を侮辱するような事をしたら許さないから」
最後の言葉が強く響いた。
疋田さんの強い怒りを感じる。
私に怒りを持つ疋田さんの立場はわかる。
雨宮課長は上司として慕われているんだな。
「本当にすみませんでした」
雨宮課長をみんなの前で謝罪させた事が申し訳なくて、頭を下げた。
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