雨宮課長に甘えたい

コハラ

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雨宮課長と温泉旅館

《9》

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「ねえ、成瀬君、私たちってどうやって始まったの?」

二杯目のビールを飲みながら聞いた。
十年ぶりに成瀬君に会ったけど、どんな始まりだったか覚えていない。

「どうやってって。大学で同じ講義を取っていて、それでバイト先も一緒で」
「ああ、DVDレンタルのお店! そういえば閉店後のお店でよく映画の話をしていたよね。成瀬君の解釈が面白かったんだ」
「そう。それで、どっちが詳しいかとか競ってさ」
「そうだった。成瀬君に負けたくなくて、レンタルしまくった」
「それで俺の家でも映画鑑賞会をしてただろう?」
「そうだね」

なんとなく思い出した。
成瀬君の家の方がバイト先に近かったから、帰りによく寄っていた。

「奈々子が三度目に俺の家に来た時、自然とそういう空気になってさ。それでキスして、そのまま奈々子のバージンもらった」

思い出したら恥ずかしくなる。
若気の至りって言葉が当てはまるような始まり方だったんだ。

「俺たち体の関係から始まったんだよ」

成瀬君が笑った。

体の関係から始まるなんて、雨宮課長とは絶対にありえない。

いくらなんでも私から雨宮課長を押し倒してって訳にはいかない。上司だし、会社で顔を合わせるし、拒絶された時の事を考えると……。

はあ。

深いため息が出た。

ビール3杯でバーは引き上げた。

奈々子が危なっかしいから部屋まで送るよと、成瀬君がついてくる。酔っているから断るのも面倒くさい。だから成瀬君の好きにさせた。

302号室の前まで来た。

じゃあねと言おうとした時、私の手から成瀬君が鍵を抜き取る。酔っていたから反応できなかった。それからはあっという間に部屋に連れ込まれた。

6畳間にはふかふかの布団が敷かれている。その上にいきなり押し倒された。これはマズイと思った時、唇が重なって、背筋がゾッとした。

「いやだ! 成瀬君やめて!」

抵抗しても成瀬君はやめない。

「いいじゃないか。久しぶりに会ったんだし。奈々子、彼氏いないんだろ?」
「彼氏がいないからって、なんでこうなるの?」
「誘っただろ?」
「誘ってない」
「さっきバーで俺たちの始まりを聞いただろ? あれは誘いの文句にしか聞こえなかった」
「勝手に解釈しないで! やめて!」

私の上に馬乗りになっている成瀬君に抵抗するけど、ビクともしない。

力では敵わない。

悔しい。

成瀬君が浴衣の上から私の胸に触れる。
あまりの嫌悪に悲鳴をあげた。

「やめて! いやだ!」

精一杯叫んだ。

隣の部屋の雨宮課長に声が届くように。
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