雨宮課長に甘えたい

コハラ

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雨宮課長と温泉旅館

《8》

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思えば貸切風呂の件から、雨宮課長の様子がよそよそしくなった気がする。

一緒に行動しようと言い出したのは課長のくせに、そばに寄ると一定の距離を取るように離れられてしまう。

これは警戒されているのだろうか?

そんなに私、肉食系に見える?

レストランで夕食を食べている時も、テーブルの向こうに座る雨宮課長がぎこちない。私の話に対する反応は物凄く素気ないし、心ここにあらずって感じ。

私と一緒にいてつまらないのかな。

そうだよね。今日は朝から一緒にいるものね。そろそろ私といる事に疲れるよね。

なんか落ち込む。

せっかくの地元の名産を使ったお料理が全然美味しく感じられない。

課長と夕飯、楽しみだったのにな。

うじうじと茶わん蒸しをスプーンで突っついていたら、「奈々子?」といきなり声をかけられた。

「えっ」

顔を上げると、私の事を可愛げがないと言った男が立っていた。

「成瀬……くん?」

大学生の時につき合った人で、初めての彼氏だ。

夕食後、一人旅で退屈なんだと成瀬君にバーに誘われた。でも、と渋っていると、課長が「俺に構わず楽しんでおいで」なんて言った。

課長は一緒に行動しようと言ったくせに、あっさり私を一人にするの? もしかして私が邪魔? 

突き放したような態度の課長に腹が立つ。

今さら成瀬君と話す事なんてないけど、つい「行く」と言ってしまった。

「彼氏さんはほっといて大丈夫なの?」

バーカウンターに座って、一杯目のビールを飲むと、成瀬君が言った。
30歳になっても鼻筋の通った横顔がなかなかのイケメン。成瀬君の横顔が好きだった事を思い出す。

「彼氏じゃない。上司。一緒に出張に来ているの」
「ふーん、上司ね」

成瀬君が疑うような目で見てくる。

「何?」
「ただの上司には見えなかった」
「はあ?」
「奈々子、あの上司の事好きなんだろ」
「な、な、何言ってんの。そんな訳ないじゃない」
「そうかな。男と女って感じにしか見えなかったけどな」
「だから違うって。一ミリもそんな気持ちありませんから」

男と女って言葉に頬が熱くなる。
そうなれたらどんなにいいんだろう。

そもそも、どうやってそういう関係に持ち込むんだっけ?

思えば成瀬君と別れて以降、つき合った人はいない。

恋愛よりも仕事に夢中だった。だから雨宮課長を好きになった後はどうしたらいいのかわからない。

仕事ではガンガン行くけど、恋愛は臆病になる。
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