雨宮課長に甘えたい

コハラ

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雨宮課長のマンション

《2》

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7階の角部屋が雨宮課長の部屋だった。

課長が出してくれたグレーのスリッパを履いて廊下を進む。廊下の先には広々としたリビングとダイニングキッチンがあった。
 
部屋の間取りは4LDKだと課長が教えてくれた。私が住む1DKの部屋より全然広い。
グレーで統一されたインテリアもお洒落。それにスッキリと片付いている。テーブルの上に積まれた読みかけの本が唯一生活感を感じる。

「今、コーヒー淹れるから、適当にくつろいで」と、大きなテレビの前のソファを勧めてもらった。
「あの、お構いなく」
キッチンに立つ課長に言う。
課長はスーツ姿のままコーヒーの用意をしてくれる。

お疲れの所、申し訳ない。お手伝いした方がいいのかな。それとも大人しく待っていた方がいいのかな。


「中島さん。心配しすぎ」
じっと課長を見ていたら言われた。

「こう見えて、家事は得意なんだ。一人が長いしね。だから、コーヒーぐらい淹れられるよ」
「あ、いえ。何かお手伝いした方がいいのかと」
「大丈夫。ほら、終わった」

白いコーヒーカップを二つ持った課長がこっちに来る。

「どうぞ」

私の前に置いてもらった。

「いただきます」

コーヒーカップを掴んで飲もうとしたら、「あ、待って」と課長に言われた。

「まだ熱いかも。中島さん、猫舌でしょ?」
「なんで知ってるんですか?」
「この間、みんなで居酒屋で飲んだ時に言っていたから」

確かにそんな話をした。課長、覚えていてくれたんだ。

「それで、中島さんの用事って?」

課長がこっちを見る。

「『フラワームーンの願い』という映画をご存じでしょうか?」

眼鏡の奥の瞳が驚いたように大きく揺れた。今まで見たどの課長よりも驚いているよう。

「懐かしいタイトルだ。もちろん知っている」

リカコさんが言っていた通りだった。雨宮課長は映画の事を知っている。
手がかりを見つけられて嬉しいのに、なんか落ち込む。なんでだろう。

それから望月先生が探している事、月曜日までに映画のフィルムを見つけなければいけない事、佐伯リカコさんから課長の名前を聞いた事などを話した。

雨宮課長は真剣な表情で聞いてくれた。

「事情はわかった。一つ確認したい事があるが、もし月曜日まで映画を見つける事ができなかったら、中島さんはどうなるんだ? 阿久津部長に何か言われてない?」

雨宮課長、鋭い。

「いえ。特には」

また雨宮課長に守ってもらう訳にはいかない。阿久津に睨まれて雨宮課長の立場が悪くなったりしたら困る。

「なら、良かった」

雨宮課長がほっとしたように息をついた。
嘘をついた事が心苦しい。
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