雨宮課長に甘えたい

コハラ

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幻の映画

《4》

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「望月先生、この度はうちの久保田が失礼を致しました。私、久保田の上司でウエストシネマズの宣伝部部長阿久津と申します」

いつもマフィアみたいなスーツを着ている阿久津が珍しくネイビーの大人しいデザインのスーツを着ていた。

まさか阿久津自らが出てくるとは思わなかった。
阿久津の顔を見て頬がひきつる。

「部長さんまで来たんですか。しかし、部長さん、入ってくるタイミングが絶妙ですね。もしかしてドアの外で話を聞いていましたか?」

「とんでもないです。たった今、駆けつけた所でございます。来るのが遅くなってしまい申し訳ございませんでした。中島にではなく、私に何なりとお申し付けください」

「いや、俺は中島さんに心を動かされたんです。中島さんにこの件はお願いしたい。でなければ、プロモーション活動には参加しません」

阿久津がこっちを見下ろして睨む。
余計な事をしてくれたなと、その顔に書いてあるよう。

「中島さん、今、俺はどうしても観たい映画があってね。15年前の作品なんだが、出版社のツテを使っても見つけられなくて困っている」

望月先生が土下座したままの私の腕を取り、立たせてくれる。

「その映画を見つけたらプロモーション活動に戻ってくれるんですか?」
「ああ、戻ろう」
「承知いたしました。私が責任を持って探してきます」





「中島はここで降りろ」

成り行き上、望月先生の家から阿久津と久保田と同じタクシーに乗っていたけど、タクシーが先生の家を出た所で、いきなり阿久津が車を停めた。

言われなくたって、阿久津と同じタクシーになんか乗りたくない。

「阿久津部長、失礼します」

助手席から降りた。

後部座席の窓が開き、阿久津が強面の顔を出す。

望月先生と同じ年だとは思えないぐらい阿久津は腹黒そうな顔をしている。顔立ちはそんなに悪くないから、悪役俳優としての需要がありそうだ。

なんて、つい意地の悪い事を思ってしまう。

「中島、月曜日までに見つけろ。それ以上かかるとプロモーション活動に支障が出る。しくじったら今度こそ久保田とセットで札幌に飛ばすからな」

月曜日……。

今日は金曜日だから、今日を入れて猶予は3日。

「中島、どうなんだ? できるか?」

圧力をかけるように阿久津が凄んでくる。

阿久津に負けるもんか。

絶対に見つけてみせる。

「はい。月曜日までに見つけます」
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