雨宮課長に甘えたい

守ってくれた人

《8》

「どうして雨宮課長が出てくるの？」
　直属の上司でもない雨宮課長が私の異動を食い止めたってどういう事？

「今週の月曜日だったかな。その場に私もいたから聞いていたんだけどさ。小宮部長と阿久津部長が奈々子を札幌営業所に行かせようみたいな話をしていたんだよね。そんなタイミングで雨宮課長が来てさ、宣伝部のエースの奈々子をグループ会社に出向させるのは我が社の損失になるって2人に進言したんだ。もう私、それ聞いてスカッとした」
　桃子が興奮したようにテーブルを叩いた。

「まさか雨宮課長が乗り込んでくるとは思わなかったのか、阿久津部長がポカンとしちゃってさ。それで有能な奈々子を総務部に回して欲しいって2人に頭を下げて頼んでいたの。奈々子の為に雨宮課長が頭を下げてくれたんだよ。その時の雨宮課長カッコ良かったな」

　あっ。だから今週の火曜日に人事部から出た内示に総務部総務課に異動って書いてあったんだ。
　全然知らなかった。映画館で会った時、宣伝部から外される事は話さなかったのに。
　どうして雨宮課長は異動話が出ている事がわかったんだろう？　直属の上司でもないし、あまり関わりもないのに私の為に頭まで下げて。今日、カフェバーで会った時だって何も言ってなかった。

「私ね、今夜はこの話を奈々子にしたかったの」
「桃子」
「うん？」
「教えてくれてありがとう」
　ニッと笑った桃子の笑顔が滲んで見える。胸が熱い。嬉しくて泣きそう。先週は悔し涙だったけど、今日は感謝の涙だ。知らない所でも、雨宮課長は私を助けてくれた。
　雨宮課長を好きになりそうで怖い。直属の上司になるのに。