雨宮課長に甘えたい

コハラ

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守ってくれた人

《2》

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阿久津はイタリア製のスーツを好み、いつもマフィアファッションだ。強面の濃い顔立ちで会社員には到底見えない。

片や久保田は目がパッチリとしていて男性アイドルグループにいそうな可愛らしい顔立ち。だからか阿久津に睨まれていると心配になる。

久保田がこっちに視線を向けてくる。
助けて下さいの合図だ。

私が宣伝部にいるうちは守ってやらなければ。

「阿久津部長。あれとは何ですか?」

久保田を睨んでいた阿久津の目がギロリとこっちを向く。

「中島、でしゃばるな。俺は久保田に訊いてるんだよ」
「お言葉ですが、まだ私は『ラストヒロイン』の担当者ですから私にも発言権があると思いますが」
「担当者ね」

バカにしたように阿久津が鼻で笑った。
自分以外の人間はバカだと思っている態度はいちいち腹が立つ。

なぜ阿久津が宣伝部の部長で配給プロデューサーまで兼任する権力者になれたのか未だにわからない。

こんな環境で宣伝部の仕事がうまく行くはずないと思っていたけど、阿久津が配給プロデューサーになってから送り出した映画の興行収入は右肩あがりに上がっている。映画がヒットしてくれるのは嬉しい事だが、阿久津の手柄のように言われるのは悔しい。



阿久津の重箱の隅をつくような質問に何とか答え、会議は終わった。

久保田が心配。
私がいなくなったあと、大丈夫なんだろうか。

「久保田、コーヒー行かない?」

声をかけると、久保田がムスッとした表情を浮かべた。

「中島さんと違って忙しいんです。中島さんの担当を僕が全部引き受ける事になりましたから」

久保田がうんざりしたようなため息をついた。
物凄くピリピリしている。大分、煮詰まっているな。こういう時は外に連れ出さないと。

「いいから。久保田。行こう」

久保田の腕を掴んで、宣伝部のオフィスを出た。

向かうのは社内にあるカフェバー。
部署を越えた社員たちの交流を持てる場所を作って欲しいという声に応えて、雨宮課長が作ってくれた我が社自慢の憩いの場所だった。

宣伝部のある10階からカフェバーがある12階でエレベーターを降りると、エレベーターホールの辺りで、もう芳ばしいコーヒーの香りを感じる。

渋々な様子の久保田の背中を押して、カフェバーまで歩いた。
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