9 / 179
深夜のファミレスで
《6》
しおりを挟む
「もう空が明るいね」
雨宮課長が窓の外に視線を向ける。
本当だ。いつの間にか夜が明けている。
何時? えっ、六時!
うそ。
私、一晩中、雨宮課長と映画の話をしていた。
感覚的には一時間ぐらいだと思っていたけど、五時間も経っていたんだ。
「まさかファミレスでオールナイトをするとは思わなかった」
雨宮課長が笑った。
「そうですね。映画館で過ごす予定が。あ、でも、課長は途中で席を立ちましたよね?」
「『ショーシャンクの空に』を観たら帰ろうと思っていたんだ」
という事は私が引きとめてしまったという事?
「す、すみません! 長々とお付き合いをさせて」
「気にしないで。コーヒーを飲もうと誘ったのは僕だし。それに帰ったって誰か待っている訳でもないしね。でも、眠いな。中島さんと違っておじさんだからそろそろ限界」
「おじさんだなんて、そんな」
「37歳。立派なおじさんだよ」
おじさんだなんて、とんでもない。雨宮課長からは色気がだだ漏れている。
今だってテーブルに肘をついて、こっちを見る何気ない表情が色っぽく見えて困る。
映画の話で夢中になって気づかなかったけど、雨宮課長は魅力的な男性だ。
※
ファミレスを出て、雨宮課長の隣を歩く。
土曜日の朝、夜は煌々としていた繁華街も眠りについたように静か。
昨夜は思いがけない事が続いたせいか、気持ちが高揚している。ふと雨宮課長の広い肩が目についた。
男らしくて頼りがいのありそうな肩。
雨宮課長の肩に寄り掛かって眠ったらよく眠れそう。
雨宮課長の肩……。
って、何、考えているの!
男の人の肩に寄り掛かって眠りたいなんて私らしくない。私はそんなキャラじゃない。
「奈々子は強すぎて可愛げがないんだよ。守ってあげたい感ゼロ。俺、無理だわ」
初めてつき合った人に言われた言葉だった。
十年前の事なのに、呪いの言葉のように私の中に残っている。
可愛げがない。
守ってあげたい感ゼロ。
それが私。
しっかりしなきゃ。
雨宮課長の肩に寄り掛かりたいなんて思っちゃいけない。部署は違うけど上司。プライベートを一緒に過ごす人じゃない。
線引きしなきゃ。
雨宮課長が窓の外に視線を向ける。
本当だ。いつの間にか夜が明けている。
何時? えっ、六時!
うそ。
私、一晩中、雨宮課長と映画の話をしていた。
感覚的には一時間ぐらいだと思っていたけど、五時間も経っていたんだ。
「まさかファミレスでオールナイトをするとは思わなかった」
雨宮課長が笑った。
「そうですね。映画館で過ごす予定が。あ、でも、課長は途中で席を立ちましたよね?」
「『ショーシャンクの空に』を観たら帰ろうと思っていたんだ」
という事は私が引きとめてしまったという事?
「す、すみません! 長々とお付き合いをさせて」
「気にしないで。コーヒーを飲もうと誘ったのは僕だし。それに帰ったって誰か待っている訳でもないしね。でも、眠いな。中島さんと違っておじさんだからそろそろ限界」
「おじさんだなんて、そんな」
「37歳。立派なおじさんだよ」
おじさんだなんて、とんでもない。雨宮課長からは色気がだだ漏れている。
今だってテーブルに肘をついて、こっちを見る何気ない表情が色っぽく見えて困る。
映画の話で夢中になって気づかなかったけど、雨宮課長は魅力的な男性だ。
※
ファミレスを出て、雨宮課長の隣を歩く。
土曜日の朝、夜は煌々としていた繁華街も眠りについたように静か。
昨夜は思いがけない事が続いたせいか、気持ちが高揚している。ふと雨宮課長の広い肩が目についた。
男らしくて頼りがいのありそうな肩。
雨宮課長の肩に寄り掛かって眠ったらよく眠れそう。
雨宮課長の肩……。
って、何、考えているの!
男の人の肩に寄り掛かって眠りたいなんて私らしくない。私はそんなキャラじゃない。
「奈々子は強すぎて可愛げがないんだよ。守ってあげたい感ゼロ。俺、無理だわ」
初めてつき合った人に言われた言葉だった。
十年前の事なのに、呪いの言葉のように私の中に残っている。
可愛げがない。
守ってあげたい感ゼロ。
それが私。
しっかりしなきゃ。
雨宮課長の肩に寄り掛かりたいなんて思っちゃいけない。部署は違うけど上司。プライベートを一緒に過ごす人じゃない。
線引きしなきゃ。
0
お気に入りに追加
34
あなたにおすすめの小説
まずはお嫁さんからお願いします。
桜庭かなめ
恋愛
高校3年生の長瀬和真のクラスには、有栖川優奈という女子生徒がいる。優奈は成績優秀で容姿端麗、温厚な性格と誰にでも敬語で話すことから、学年や性別を問わず人気を集めている。和真は優奈とはこの2年間で挨拶や、バイト先のドーナッツ屋で接客する程度の関わりだった。
4月の終わり頃。バイト中に店舗の入口前の掃除をしているとき、和真は老齢の男性のスマホを見つける。その男性は優奈の祖父であり、日本有数の企業グループである有栖川グループの会長・有栖川総一郎だった。
総一郎は自分のスマホを見つけてくれた和真をとても気に入り、孫娘の優奈とクラスメイトであること、優奈も和真も18歳であることから優奈との結婚を申し出る。
いきなりの結婚打診に和真は困惑する。ただ、有栖川家の説得や、優奈が和真の印象が良く「結婚していい」「いつかは両親や祖父母のような好き合える夫婦になりたい」と思っていることを知り、和真は結婚を受け入れる。
デート、学校生活、新居での2人での新婚生活などを経て、和真と優奈の距離が近づいていく。交際なしで結婚した高校生の男女が、好き合える夫婦になるまでの温かくて甘いラブコメディ!
※特別編3が完結しました!(2024.8.29)
※小説家になろうとカクヨムでも公開しています。
※お気に入り登録、感想をお待ちしております。
日給10万の結婚〜性悪男の嫁になりました〜
橘しづき
恋愛
服部舞香は弟と二人で暮らす二十五歳の看護師だ。両親は共に蒸発している。弟の進学費用のために働き、貧乏生活をしながら貯蓄を頑張っていた。 そんなある日、付き合っていた彼氏には二股掛けられていたことが判明し振られる。意気消沈しながら帰宅すれば、身に覚えのない借金を回収しにガラの悪い男たちが居座っていた。どうやら、蒸発した父親が借金を作ったらしかった。
その額、三千万。
到底払えそうにない額に、身を売ることを決意した途端、見知らぬ男が現れ借金の肩代わりを申し出る。
だがその男は、とんでもない仕事を舞香に提案してきて……
警察官は今日も宴会ではっちゃける
饕餮
恋愛
居酒屋に勤める私に降りかかった災難。普段はとても真面目なのに、酔うと変態になる警察官に絡まれることだった。
そんな彼に告白されて――。
居酒屋の店員と捜査一課の警察官の、とある日常を切り取った恋になるかも知れない(?)お話。
★下品な言葉が出てきます。苦手な方はご注意ください。
★この物語はフィクションです。実在の団体及び登場人物とは一切関係ありません。
OL 万千湖さんのささやかなる野望
菱沼あゆ
キャラ文芸
転職した会社でお茶の淹れ方がうまいから、うちの息子と見合いしないかと上司に言われた白雪万千湖(しらゆき まちこ)。
ところが、見合い当日。
息子が突然、好きな人がいると言い出したと、部長は全然違う人を連れて来た。
「いや~、誰か若いいい男がいないかと、急いで休日出勤してる奴探して引っ張ってきたよ~」
万千湖の前に現れたのは、この人だけは勘弁してください、と思う、隣の部署の愛想の悪い課長、小鳥遊駿佑(たかなし しゅんすけ)だった。
部長の手前、三回くらいデートして断ろう、と画策する二人だったが――。
10 sweet wedding
国樹田 樹
恋愛
『十年後もお互い独身だったら、結婚しよう』 そんな、どこかのドラマで見た様な約束をした私達。 けれど十年後の今日、私は彼の妻になった。 ……そんな二人の、式後のお話。
会社の後輩が諦めてくれません
碧井夢夏
恋愛
満員電車で助けた就活生が会社まで追いかけてきた。
彼女、赤堀結は恩返しをするために入社した鶴だと言った。
亀じゃなくて良かったな・・
と思ったのは、松味食品の営業部エース、茶谷吾郎。
結は吾郎が何度振っても諦めない。
むしろ、変に条件を出してくる。
誰に対しても失礼な男と、彼のことが大好きな彼女のラブコメディ。
ネカフェ難民してたら鬼上司に拾われました
瀬崎由美
恋愛
穂香は、付き合って一年半の彼氏である栄悟と同棲中。でも、一緒に住んでいたマンションへと帰宅すると、家の中はほぼもぬけの殻。家具や家電と共に姿を消した栄悟とは連絡が取れない。彼が持っているはずの合鍵の行方も分からないから怖いと、ビジネスホテルやネットカフェを転々とする日々。そんな穂香の事情を知ったオーナーが自宅マンションの空いている部屋に居候することを提案してくる。一緒に住むうち、怖くて仕事に厳しい完璧イケメンで近寄りがたいと思っていたオーナーがド天然なのことを知った穂香。居候しながら彼のフォローをしていくうちに、その意外性に惹かれていく。
ご先祖さまの証文のせいで、ホテル王と結婚させられ、ドバイに行きました
菱沼あゆ
恋愛
ご先祖さまの残した証文のせいで、ホテル王 有坂桔平(ありさか きっぺい)と戸籍上だけの婚姻関係を結んでいる花木真珠(はなき まじゅ)。
一度だけ結婚式で会った桔平に、
「これもなにかの縁でしょう。
なにか困ったことがあったら言ってください」
と言ったのだが。
ついにそのときが来たようだった。
「妻が必要になった。
月末までにドバイに来てくれ」
そう言われ、迎えに来てくれた桔平と空港で待ち合わせた真珠だったが。
……私の夫はどの人ですかっ。
コンタクト忘れていった結婚式の日に、一度しか会っていないのでわかりません~っ。
よく知らない夫と結婚以来、初めての再会でいきなり旅に出ることになった真珠のドバイ旅行記。
ちょっぴりモルディブです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる