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6話 速水さんの気持ち
《10》
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眼鏡を外して、子どもみたいに声を上げて泣いた。
速水さんは落ち着くまでずっと抱きしめてくれていた。大丈夫だよって言ってもらっているみたいな安心感があった。
泣き虫だった子どもの頃を思い出した。男の子にいじめられて帰ってくると、お母さんが泣き止むまで抱きしめてくれた。ここは安全地帯なんだってほっと出来た。その時と同じ気持ちを感じる。
速水さんはゆりさんを使って、私を追い払うような人じゃない。そう思った方が自分が楽だったんだ。
私は速水さんを悪者にして逃げていた。図書館でずっと速水さんを見ていました。そう言ったら速水さんに心から軽蔑されそうで怖かったんだ。
「……ごめんなさい」
「え」
隣に座って私の背中を撫でてくれている速水さんに言った。速水さんは私の言葉を否定するように首を左右に振る。
「ごめんなさいは僕です。なんで卯月先生が謝るんですか」
違う。速水さんは悪くない。
「私、速水さんに沢山謝らなきゃいけない事があるんです。聞いてくれますか?」
涙を拭って速水さんを見ると、速水さんは私の想いを受け取るようにゆっくりと頷いた。
もう逃げない。ちゃんと伝えよう。ギュッと拳を握り、背筋を伸ばす。
心臓がバクバクしていた。速水さんの反応が怖い。でも、言わなきゃ。
速水さんは落ち着くまでずっと抱きしめてくれていた。大丈夫だよって言ってもらっているみたいな安心感があった。
泣き虫だった子どもの頃を思い出した。男の子にいじめられて帰ってくると、お母さんが泣き止むまで抱きしめてくれた。ここは安全地帯なんだってほっと出来た。その時と同じ気持ちを感じる。
速水さんはゆりさんを使って、私を追い払うような人じゃない。そう思った方が自分が楽だったんだ。
私は速水さんを悪者にして逃げていた。図書館でずっと速水さんを見ていました。そう言ったら速水さんに心から軽蔑されそうで怖かったんだ。
「……ごめんなさい」
「え」
隣に座って私の背中を撫でてくれている速水さんに言った。速水さんは私の言葉を否定するように首を左右に振る。
「ごめんなさいは僕です。なんで卯月先生が謝るんですか」
違う。速水さんは悪くない。
「私、速水さんに沢山謝らなきゃいけない事があるんです。聞いてくれますか?」
涙を拭って速水さんを見ると、速水さんは私の想いを受け取るようにゆっくりと頷いた。
もう逃げない。ちゃんと伝えよう。ギュッと拳を握り、背筋を伸ばす。
心臓がバクバクしていた。速水さんの反応が怖い。でも、言わなきゃ。
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