推しの速水さん

コハラ

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6話 速水さんの気持ち

《8》

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「卯月先生! 無事ですか? 卓也に変な事されてませんか?」

速水さん、私がタクヤ君に襲われると思ったから慌てて来たの?

「だ、大丈夫です」
「良かった」

ほっとしたように速水さんが息をつく。
よく見ると、速水さんの額には汗が滲んでいて、呼吸も乱れているよう。

全力で走って来たんだ。

いつかも公園で待っていたら速水さんは走って来てくれた。

ギュッと胸が締め付けられる。

速水さんの行動がわからない。ゆりさんに私を追い払わせといて、なんで心配するの? 私を遠ざけたいんでしょ? 私も刃物を向けるようなヤバイ奴だと思ったんでしょ?

「卯月先生、やっぱり卓也に何かされたんですか?」

唇を噛みしめていると、心配そうに速水さんが眉間に皺を刻むけど、腹が立つ。私の事なんか本当は心配していないくせに! 

「速水さんが心配するような事は何もされてませんから!」

苛立ちが声に出た。
速水さんの形のいい両眉が驚いたように上がる。

「もしかして怒ってますか?」

ゆりさんを使って私を追い払ったくせに白々しい。

「怒っているから僕に何も言わずに帰ったんですか? 電話に出なかったのも怒っているから?」

切れ長の目がさっきよりも心配そうに見ている。
なんでそんな目で見るの? 私の事なんかどうでもいいくせに。

「そうですよね。怒りますよね。バーベキューに連れて行っといて、僕は卯月先生の傍にいなかったし……」

心の中にある事を言い当てられて、ぐにゃっと目の前の速水さんが歪む。
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