推しの速水さん

6話 速水さんの気持ち

《4》

「速水さん、何があったんですか？」

タクヤ君が元の位置に座り、こっちを見た。

「あやちゃんが集学館に入ったばかりの頃、新人の女性作家の担当になったんだよ。あやちゃんって真面目で仕事熱心だからさ、その作家さんに取材に付き合って欲しいって言われれば、どこでもついて行ったの。遊園地とか、映画館とか、デートでいくような場所にさ。それで一緒にいて欲しいと言われれば朝まで話を聞いてあげてさ。あ、体の関係はないよ。さすがにそれは拒んだらしい」

か、体の関係――！

「速水さん、体の関係を求められたんですか？」
「小説を書く為に抱いて欲しいと言われたんだとさ。それであやちゃんはおかしい事に気づいて、彼女と距離を取るようにしたんだ。そしたら、その女、あやちゃんを付け回してさ。あやちゃんの自宅まで行って、なんで会ってくれないのってあやちゃんに刃物を向けて、最後は警察沙汰になったんだ」

あ。

この話、図書館のカフェで速水さんとゆりさんが話していたのを聞いた事がある。

そうか。図書館にいる速水さんを私が追いかけていたから、刃物の女性と同類だと思われたんだ。

酷い……。

絶対に速水さんを傷つけるような事はしないのに。私は推し活をしていただけなのに。