推しの速水さん

5話 速水さんとバーベーキュー。

《17》

庭に出て、速水さんを見ると、お友達と楽しそうに話していた。

私の存在なんか忘れたみたいに。
何のためにここにいるのかわからなくなった。

もう帰ろう。

速水さんに気づかれないようにこっそりと白いベンチの上に置いておいたリュックを持って出て行く。

速水さんに何も言わずに出て来た事は悪いと思うけど、今、速水さんの顔を見たら感情的に当たってしまいそう。

――速水くんはね、私の事が好きなのよ。
――あなたのしている事は犯罪よ
――もう二度と速水くんに近づかないでちょうだい！

ゆりさんの言葉が次々と心臓に突き刺さる。
言葉の刃が痛すぎる。

一刻も早くゆりさんと速水さんがいる場所から遠ざかりたい。瀕死の私に出来る事は逃げる事だ。

やっぱり私みたいな地味な子がこんな場所、来ちゃいけなかったんだ。

速水さん、なんで私にゆりさんを会わせたの？
もしかして私にわからせる為？

あの夜、やっぱり速水さんは私の告白を聞いていて、私の事を気持ち悪いと思って、私を遠ざけたかったのかも。

そう考えると辻褄が合う。ゆりさんは速水さんに頼まれて私に厳しい事を言ったのかもしれない。

酷いよ。速水さん。

なんで頭を撫でたり、手をつなぐの？

なんで優しくするの？

私と関わりたくないならハッキリそう言えばいいのに。

速水さんのバカ。