推しの速水さん

コハラ

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5話 速水さんとバーベーキュー。

《11》

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「もう『月村蜜柑』は引退したって言ってるじゃない。今は図書館で働く普通の主婦よ」

バシバシとゆりさんが速水さんの肩を叩く。

知らなかった。月村蜜柑先生って引退していたんだ。

それよりも、図書館という言葉を聞いて、心臓が飛び出そうになる。
ゆりさん、私が図書館に通っている事に気づいていないよね? 初めましてって挨拶されたし。

「卯月ちゃん、そんなにおどおどしないで」

卯月ちゃん?
親し気な呼び方にさらにびっくり。

ゆりさんって、フレンドリーな人なの?

「あ、すみません。月村蜜柑先生にお会いできると思っていなかったので緊張してしまって。そうだ。あのこれ、つまらない物ですがお土産です」

リュックからデパートで買った菓子折りを取り出し、ゆりさんに差し出す。中身はチョコレートの詰め合わせだ。

「卯月ちゃん、ありがとう。チョコレートは大好きよ」

ゆりさんが菓子折りの入った紙袋を受け取る。

受け取ってもらえて良かった。

「卯月ちゃんって可愛いわね」

うふっとゆりさんが笑う。

可愛いと言われてどう返していいかわからず、あたふたしていると、「あやちゃん」という聞き覚えのある男性の声がした。

「あやちゃんはやめろ」

速水さんが近づいて来た黒パーカーの男性に言い返す。
男性の顔を見た瞬間、呼吸が止まりそうになった。

速水さんに親し気な表情を向けているのはタクヤ君……。

え? 何? そっくりさん?
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