推しの速水さん

コハラ

文字の大きさ
上 下
89 / 150
5話 速水さんとバーベーキュー。

《7》

しおりを挟む
「お腹すきましたね」

お店を出ると速水さんが言った。
もう十二時半だ。

「すみません。余計な事に付き合わせてしまって」
「いいんですよ。バーベキューが待ってますよ。行きましょうか」
「はい」

コクンと頷くと、速水さんが手を差し出した。

「あの?」
「卯月先生、迷子になりそうだから」

速水さんがまた私の手を握ってくれた。

うそ……。
さすがにこれは夢?

キュッと頬をつねると痛みがあった。

夢じゃない。

速水さんの大きな手がまた私の左手をつないでいる!

なんか速水さんとの距離が前回よりも近くなっているような……。

夢見心地で駅前の通りを進むと、速水さんがコインパーキングに入って行く。そこには美しい青に包まれたセダンが停まっている。

スポーティーさと優雅さを感じさせるカッコいい車だと思って見ていたら、速水さんがガチャと助手席側のドアを開けたから驚いた。

この美しい車は速水さんの車……!

「卯月先生、どうぞ」
「は、はい」

恐縮しながら乗車させて頂くと車内はお洒落な感じの甘い匂いがする。
お兄ちゃんの車もセダンだけど、雰囲気が全然違う。速水さんの車はときめきが沢山詰まっている!

生きていて良かった。
神様、ありがとう。

静かな感動に胸を震わせていると、「シートベルト閉めて下さい」と、
運転席に座りエンジンをかけた速水さんに言われた。

「はい。すぐに」

ショルダーベルトを掴んで、腰元のバックルにはめ込もうとするけど、緊張で指先が震えて上手く出来ない。

ガチャガチャと音を立てれば立てる程、焦る。

なんで、こんな時に限ってハマってくれないの……。

この、この。

バックルと格闘していると、運転席から速水さんの手が伸びてシートベルトを締めてくれた。

一瞬、抱きしめられたみたいな恰好になり、心臓が止まりそうになった。

「これでOK」

とどめを刺すようにニコッと速水さんが微笑んだ。

うわー!

速水さん、素敵すぎる!

一生速水さんについて行きます!

思わずそう口走りそうになり、慌てて言葉を飲み込んだ。

変な事を言って、速水さんに引かれたら困る。

少し落ち着こう。

速水さんに気づかれないように深呼吸をし、前を見ると、車はゆっくりとコインパーキングを出た。

速水さんとのドライブの始まりだと思ったらまたドキドキしてくる。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

ヤクザと捨て子

幕間ささめ
BL
執着溺愛ヤクザ幹部×箱入り義理息子 ヤクザの事務所前に捨てられた子どもを自分好みに育てるヤクザ幹部とそんな保護者に育てられてる箱入り男子のお話。 ヤクザは頭の切れる爽やかな風貌の腹黒紳士。息子は細身の美男子の空回り全力少年。

戦うヒーローたちは小料理屋で大忙し! ~真面目な悪と不真面目な正義のバトル~

神ノ木
ライト文芸
主人公、樹神 健(こだま たける)25歳。両親から受け継いだ小料理屋の“いつでも小料理屋”を経営している。その片手間に“戦士エコーズ”の4人のメンバーのリーダーとして、“悪の組織・デビルグリード”と戦っている。しかし、健とメンバーたちは“いつでも小料理屋”の売り上げのことばかりを気にして、戦いに身が入らない毎日だった。戦士運営団体とは店の仕入れや設備の費用を借りるために提携した。それに、毎月スズメの涙のバイト料をもらっていた。そして、対する“悪の組織・デビルグリード”の頭領(とうりょう)と戦闘員は“戦士エコーズ”の動向を探るため常連客として“いつでも小料理屋”に潜入していた。それに対して、健たちは全く気が付いていなかった!

蛍地獄奇譚

玉楼二千佳
ライト文芸
地獄の門番が何者かに襲われ、妖怪達が人間界に解き放たれた。閻魔大王は、我が次男蛍を人間界に下界させ、蛍は三吉をお供に調査を開始する。蛍は絢詩野学園の生徒として、潜伏する。そこで、人間の少女なずなと出逢う。 蛍となずな。決して出逢うことのなかった二人が出逢った時、運命の歯車は動き始める…。 *表紙のイラストは鯛飯好様から頂きました。 著作権は鯛飯好様にあります。無断転載厳禁

雨に濡れた犬の匂い(SS短文集)

ねぎ(ポン酢)
ライト文芸
思いついた文章を徒然に書く短文・SS集。400文字前後の極SSから1000文字程度の短い話。思い付きで書くものが多いのであまり深い意味はないです。 (『stand.fm』にて、AI朗読【自作Net小説朗読CAFE】をやっております。AI朗読を作って欲しい短編がありましたらご連絡下さい。)

青春チャンプルー(4/6更新)

狂言巡
ライト文芸
『青春』と『恋愛』がテーマの短編連作です。 楽しくて、残酷で、下らない、誰かのアオハル物語。    ――青春は素敵なものと下らない何かで出来てるよ

となりのソータロー

daisysacky
ライト文芸
ある日、転校生が宗太郎のクラスにやって来る。 彼は、子供の頃に遊びに行っていた、お化け屋敷で見かけた… という噂を聞く。 そこは、ある事件のあった廃屋だった~

【完結】ぎゅって抱っこして

かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。 でも、頼れる者は誰もいない。 自分で頑張らなきゃ。 本気なら何でもできるはず。 でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。

その後の愛すべき不思議な家族

桐条京介
ライト文芸
血の繋がらない3人が様々な困難を乗り越え、家族としての絆を紡いだ本編【愛すべき不思議な家族】の続編となります。【小説家になろうで200万PV】 ひとつの家族となった3人に、引き続き様々な出来事や苦悩、幸せな日常が訪れ、それらを経て、より確かな家族へと至っていく過程を書いています。 少女が大人になり、大人も年齢を重ね、世代を交代していく中で変わっていくもの、変わらないものを見ていただければと思います。 ※この作品は小説家になろう及び他のサイトとの重複投稿作品です。

処理中です...