推しの速水さん

4話 速水さんとデート？

《4》

シアタールームが暗くなり、映画の上映が始まる。

ヒロインの女子大生はアルバイト先の店長に片思いをしていて、密かな楽しみは店長をこっそりと観察する事だった。

ある日、ヒロインは店長に好きな人がいる事に気づく。なんと、店長が好きな人はヒロインのお姉ちゃんだった。

ヒロインは店長にお姉ちゃんとの仲を取り持つように頼まれてしまう。

自分の気持ちを押し殺して店長の為に頑張るヒロインの姿は切なくて堪らない。そして、ラストシーンで店長に告白しようとしたヒロインに店長はヒロインのおかげでお姉ちゃんと付き合う事になったと打ち明ける。

ヒロインは泣きそうな気持ちを我慢して、笑顔で店長におめでとうございますと伝える。もうそのシーンが切なさのピークで、じんわりと涙が滲んだ。

エンドロールが流れ、BGMにかかった音楽はヒロインの店長への切ない恋心をつづったような歌詞で、涙を我慢する事が出来なかった。

今日は泣かないようにしようと思っていたのに、溢れる涙が止まらない。まさか映画に感動して泣く事になるなんて……。

眼鏡を外してハンカチで涙を拭いていると、シアタールームが明るくなる。速水さんに泣き顔を見られるのが恥ずかしいと思いながら、速水さんを見ると、速水さんもハンカチで目を覆っている。

思いがけない速水さんの姿に心臓が大きく跳ねた。

もしかして速水さんも映画に感動して泣いたの？

レアな速水さんのお姿に釘付けになっていると、ハンカチを外した速水さんが照れくさそうな笑みを浮かべた。

「お恥ずかしい所をお見せしました」
「いえ。私も泣きましたから。とっても切なかったですよね」
「はい。特に最後のシーンは切なさのピークでした」

同じような事を速水さんも思ったんだ。なんか嬉しい。同じ物を見て、同じように感じるっていいな。