推しの速水さん

コハラ

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3話 推しの為にできる事

《14》

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いくちゃんが鼻唄まじりで、私の顔にメイクをしていく。

「美樹はお肌綺麗だよね。顔立ちも目が大きくて可愛いから、やりがいがある。今日は可愛い系に仕上げちゃおうかな」

いくちゃん家に泊まりに来るといつも顔をいじられる。いつもはお風呂に入る前にメイクをされるから、すぐに流す事が出来るけど、今日はこのまま速水さんと会うと思ったら心配になってくる。

「大げさな感じにはしないでよ」
「わかってるって。ナチュラル美人にしてあげるから」

いくちゃんにいろいろといじられて一時間。普段の私とは別人のようにお洒落な子が鏡に映っている。

メイクをした顔を見て、派手な感じになっていなかったのでほっとした。

髪型は右サイド一本のふんわりとした三つ編みで、ゆるゆる感が女性らしくて可愛い。ファッション誌から出て来たみたい。

「やっぱ美樹は可愛いね。こんなに可愛いのに、お洒落しないのがもったいない。速水さんもきっと可愛いって思ってくれるよ」

いくちゃんが嬉しそうに言う。

「速水さんに可愛いと思われたいって思ってないし」
「どうして?」
「どうしてって……」

もやっとした感情が胸を締め付ける。
この先は考えていけないと心の声が訴えてくる。

「美樹、まだ中学の時の事、引きずってるの?」

――キモイ。

そう私に言った男子が浮かび、ズキッと胸が痛くなる。

「引きずってないよ。目立つのが嫌いなだけ」

今まで目立っていい事はなかった。

「可愛いのにもったいないなって、その言葉を聞く度に私は思うけどな」
「可愛くないし」
「美樹は可愛くて魅力的だよ。自信持ちな」

いくちゃんが鏡の中の私に向かって言ってくれる。

「今日はね、私が魔法かけといたから、特に可愛いよ」

魔法か……。

確かに、少しシンデレラになった気分。
地味な私が今日は少しだけ可愛く見える。
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