推しの速水さん

コハラ

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3話 推しの為にできる事

《10》

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「ふーん、それで速水さんへのお礼の品を買いに来たって訳か」

隣に座るいくちゃんがじっとこっちを見る。

風邪も治った土曜日。いくちゃんに付き合ってもらいデパートに来た。
まずは話を聞こうかと、いくちゃんにデパート内のカフェに連れ込まれ、速水さんに家まで送ってもらった事を話した。

「速水さんには沢山、迷惑をかけてしまったから」
「ちゃんと速水さんと進展してるじゃん」

いくちゃんが肘でくいっと私の肘をつく。

「進展って何の事?」
「速水さんとの恋愛の進展度だよ」

ぼんっと頬が熱くなる。

「は、はあ? 何言ってるの。速水さんは全然そういうのじゃないし」
「まだ恋愛感情じゃないって言うんだ」
「恋愛感情だなんて畏れ多い! 速水さんはあくまでも私に潤いを与えてくれる推しなの」
「そう言いながら顔が真っ赤だよ? 本当に恋愛感情ないの?」
「ない! 私は遠くから速水さんを見ていたいだけなの! もう、変な事言ってないで行くよ」

なぜかこれ以上、速水さんの話をしているのが恥ずかくてカフェを出た。
速水さんに恋愛感情があるかどうか聞かれた事がどうしてこんなに心を揺らすんだろう?

火照った頬の熱も中々冷めない。
まだ風邪が完全に治ってなかったのかな?

「で、何を買うの?」

隣を歩くいくちゃんに聞かれた。

「お菓子にしようかと」
「私だったら残る物を贈りたいけどな。それを見る度に私の事を思い出して欲しいもん」
「残る物は迷惑になるからダメだよ。人から頂いた物って処分する時に困るでしょ?」
「私は困らないけど。趣味に合わなかったら誰かにあげたり、リサイクルのお店で売ったりするから」
「えー! 頂きものを売るの?」
「当然でしょう」
「じゃあ、私がプレゼントした物は売られてたりするんだ」
「美樹からもらった物は大事に取ってあるよ」

ニッと調子よくいくちゃんが笑みを浮かべる。
少し疑わしいが、これ以上は追及しないでおこう。

「速水さんを困らせたくないの。速水さんの趣味もわからないし」
「ずーっと速水さんを観察しているくせにわからないんだ」

うっ。いくちゃんの意地悪。

「スーツの趣味はわかるもん! 速水さんは派手な物を好まないでいつもシンプルで上品な物を身に着けてるから」

「じゃあシンプルで上品なデザインの物が好きなんじゃないの? ハンカチとかどう?」

ハンカチか……。

そう言えば、私の涙を拭いたハンカチ、速水さんそのままスラックスのポケットに仕舞っていた。

普通は洗濯してお返しするのが礼儀なのでは……。

ああ……、やってしまった……。

「ハンカチにする」

せめて新しいハンカチを贈らせて頂こう。

「という事は服飾雑貨だよね。こっちだ」

いくちゃんに腕を掴まれてデパートの中を歩く。
さすが全てのショップが頭の中にインプットされているいくちゃん。頼もしい。

素敵なハンカチが見つかるといいな。
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