推しの速水さん

コハラ

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2話 速水さんからのオファー

《22》

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速水さんと会ったあとは、データ入力のバイトに行った。今日は午後2時から午後8時までのシフトだった。

カタカタとキーボードを打ちながら、気を抜くとにやけそうになる。速水さんに涙を拭いて頂いたり、頭を撫でて頂いたのが忘れられない。思い出すたびに嬉しさが込み上げてくる。

しかも速水さん、私が落ち着くまで隣に座ってくれていたし……。

あーもう、幸せ過ぎる!

「内田さん、なんか楽しそうね」

隣の席の坂本さんに言われて、にやけていたのが恥ずかしくなる。

四十代の主婦でいつも飴をくれるいい人だ。

「彼氏の事でも考えていたの?」
「か、彼氏!……いえ、全然、そういうのではなく、私が一方的に憧れているだけで」
「片思いって事?」

坂本さんの言葉に顔が熱くなる。

「片思いだなんて、滅相もない。ただ見ているだけで幸せになれる存在の方で。私は遠くから見ているだけでいいんです」

私のような者が速水さんに片思いだなんて不敬にも程がある。

「そういうのを片思いって言うんじゃないの?」
「いえ。決して恋心ではないです。その方は私の推しなので」
「推し?」
「自分のお気に入りのアイドルとか俳優さんを推しって言いますよね? その推しです」
「ああ。その推しね。ふーん、内田さん、推しの事考えてにやにやしてたんだ」
「はい。今日は推しのスペシャルイベントがあったので」

速水さんとの公園イベントを思い出して、また頬が緩みそうになる。

「今の子は推しがいれば彼氏はいらないのね」

クスッと坂本さんが笑った。

「はい。推しがいれば幸せです」

もう図書館での推し活は出来ないけど、今日の思い出を胸に生きて行こう。
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