あなたと私のウソ

コハラ

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《1》

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日曜日、秋川から映画に行かないかって誘われて、映画館まで行った。紺色のジャケットに黒いチノパン姿の秋川がスーツの時よりも若く見えて、心臓がドキってした。

シアタールームで隣に座った秋川からはいい匂いがして、ドキドキする。香水つけているのかな。この香りはバニラ? そう言えば予備校でも、秋川の近くに行くとこの匂いがしていた気がする。今まで全く意識していなかった。

あっ、映画の時は秋川、眼鏡かけるんだ。鼻筋が通っているから眼鏡も似合う。こうして見ると秋川はカッコイイ。

塩顔なんて全然タイプじゃないのに、どんどん秋川がカッコ良く見えてくる。

「面白かったな」

映画が終わって、眼鏡姿のまま秋川がこっちを見る。目が合って鼓動が大きく脈打った。息がつまりそうな、胸が締め付けられるような、そんな気持ちが鳩尾の奥に溢れて、秋川から逃げるように席を立った。

うわっ。

足を一歩踏み出した時、何かに引っかかって、転ぶ。

「理桜!」

転びそうになった私を秋川が支えてくれた。
名前を呼ばれた瞬間、かあっと顔中が熱くなる。

支えてくれる秋川の硬い手が熱い。
男の人の手なんだ。大きくて、骨張っていて。

「理桜はそそっかしいな」

また理桜って呼ばれた。現代文の授業で、朗読する時のあのちょっといい声で呼ばれるとときめいてしまう。

これはヤバい。本当に好きになっちゃう。
帰らなきゃ。秋川から早く離れなきゃ。

そう思うのに、カフェに誘われて断れなかった。

気づけば毎週日曜日、秋川と会っていた。動物園に行ったり、遊園地に行ったり、秋川の運転する車で海にも行った。

浜辺を歩いている時、秋川に「せっかくだから定番のやつやるか」って言われて、何の事かわからず首を傾げていたら、いきなり秋川が走り出した。「理桜、遅いぞ」なんて煽ってくる。ムッとした。これでも元陸上部。足には自信がある。

秋川を追いかけて、ジャケットの裾を掴もうとしたら、あと一歩の所でかわされる。悔しくてムキになって秋川を追いかける。今度こそと思ったら、また逃げられる。そんな事を繰り返していたら、海が茜色に染まる。

あまりにも綺麗だったから、思わず立ち止まって見てしまう。

……きれい。でも、何だか切なくなってくる。

秋川も立ち止まって眩しそうに目を細めて海を見ていた。

チャンス! 秋川に飛びついた。

秋川が転んで仰向けになった、その上に私が重なる。バニラの香りがして、キスしそうな距離に秋川の顔があって、心臓が飛び出そうになった。
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