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妖と泉
四・堕ちた妖
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逃げ出すためにはどうにかして身体を動かせるようにしたい。藍夏は時間を稼ごうと星舟に話しかけた。
「人の道を外れたと言ったな。……俺は、もう人間ではないのか?」
「いや、まだ死んでないと言っただろう。こちらとあちらのあわいをさまよっているところだよ」
「……どっちだ」
「おぬしの魂は儂の手に握られているということだ」
「…………」
村の翁が何度も言っていた「魂」とは、このことかと思った。
「妖は人の魂を吸い取るのか」
「そうとも。人はどのように生きてきたかによって魂の色が変わる。藍夏は善人ゆえ、混じり気のないあたたかな色をしておる。貴重なものだぞ。さぞかし美味いのだろうな」
「妖にも薬を作る知恵があるんだな。どこで覚えたんだ」
「おや、儂のことが知りたいか?」
「ああ」
星舟は飼い猫を撫でるような手つきで藍夏の肌の感触を楽しんでいた。着物は乱され、隠さなければいけない場所もすでにあらわになり、青年のしなやかな指で弄ばれている。
星舟は泉の水音に耳をかたむけながら話をした。
「聞いても面白くないぞ。そうさな、二百年くらい前か。仙人をやっておった。今は落ちぶれて妖に成り果てたが。人の魂を吸わねば消滅してしまう、儚い闇の残滓よ」
「この山には仙人もいるのか」
「うん。いるにはいるが、逢える可能性は極めて低い。妖はこの逢魔が時を好んで外に出てくるが、仙人はふだん『あちら』に棲んでいる。やつらに逢うためには、まずは人をやめねばならん」
人をやめる。どういう意味なのか藍夏にはまだわからなかった。
「ああ、やめよう。本当に面白くない話だ」
「待て、その仙人というのは……」
「黙っていろ。薬が効きすぎたかな?」
星舟の目が鋭くなった。無遠慮に藍夏の抜き身をつまんで強く扱く。
「ふああっ!?」
完全に油断していた。藍夏は情けない声を出して天を仰いだ。それを見た星舟は満足そうに息をつく。
「そろそろ良いか。若い娘の柔肌もよいが、活きのいい小僧を征服したときの満足感はひと味違う」
本性を現した星舟は低く美しい声でくつくつと笑った。
星舟から愛おしそうに腹を撫でられ続け、藍夏の奥底でうずうずと何かが目覚めようとしていた。必死で抑えようとしてきたが、妖の力によるものか、それは身体の内側から引きずり出されそうになる。
耳元で美しい声がした。星舟がぐっと顔を近づけたのだ。
「藍夏、おぬしの魂を儂におくれ。わるいようにはせん」
「いやだ……放せ」
「放さぬよ。厭なら自分の力で逃げてみせよ」
できるのならすでにやっていた。藍夏はいまだふにゃふにゃと身体の力が抜けている。
ぬるぬるしたものが肌に触れた。ひとつではなく、長い蛇のようなものが腹をぐるりと取り巻き、腕を縛りつけたりした。
星舟の体重で押し倒された藍夏は柔らかな草に仰向けになった。黄昏の空はまだ明るく、藍夏が仕事の終わりに道の途中で見上げた空と同じ色をしていた。やわらかな藍色と、うすい橙色。まるで時が止まっているかのような。
そこでようやく藍夏は「何かおかしい」ということに気がついた。
星舟が自分の着物を脱いでいるところをにらみながらたずねる。
「お前と出遭ってから、空はずっと夕暮れのままだ。なぜだ?」
「幻覚だ。ここではおぬしの見たいと思う世界が見えている」
太ももを這い上がってくるおぞましい気配にめまいがする。ぴちゃぴちゃという泉の水とは違う音がやけにはっきり聞こえる。それでも藍夏は思考を止めずに抵抗する態度を見せていた。
妖となった星舟は暗がりの中でほほ笑んだ。人の形をしている指が少年の中心部をなぞり、藍夏はぞくぞくする刺激に腰が跳ねた。
「儂が仙人だったころ、師に言われたな。幻覚は人を助けるために、善の術として使えと」
うぶな少年の反応に気をよくしたのか、星舟は途中でやめた話を再び聞かせようとしてくれた。
藍夏は気をまぎらわせようとして荒い吐息混じりに声をしぼり出した。
「あやかしには……師の教えをまもる道理は、ないと……?」
「儂は霞を食っていたときから好きなように術を使っていたぞ。師はだいぶ石頭だった。それをかち割ったときの、何かから解放されたという気持ちが今の儂を生かしておる。しかし、思い出を食っても腹はふくれぬのでな」
耳に心地よい声で話す星舟が憎らしかった。残酷な話でさえつい聞き入ってしまう。
「大罪を犯したゆえ、複数の上老からひどい仕打ちを受けた。異形の姿になりはしたが、触手とはなかなか便利なものだぞ。こんなふうに……」
「ぅうっっ!?」
星舟の邪悪な触手がするりと伸びてきた。身動きがとれない藍夏の胸を覆い、ピンと硬くなった突起を包みこんでゆるゆると動く。強弱のつけ方が的確すぎる。藍夏は快感を得ていることを認めたくなかった。身体をのけぞらせる。
「力を抜け。おぬしはなかなか面白い男だ。何でも欲しいものを与えてやろう」
細い触手がわらわらと少年の抜き身にまとわりつき、先端からピュッと粘液を吐き出して擦りつける。特に敏感な場所へ念入りにすり込んではときどきギュウーッと締め上げた。
「っ、ふ……、ッッ!!」
グッと歯を食いしばって声を出さないように我慢するが、どうしても息がもれる。
いっそ身を任せてしまえば楽になるのだろう、その方が……と頭のすみで葛藤しながらも、今にもちぎれそうな理性が「ダメだ」と言う。
「苦しいか? おぬしの身体はだいぶ喜んでいるのになあ」
「はっ、……そんな、こ……っ」
「我慢せずともよい。ほら、身体を動かしてみよ」
ぬちっ
ぐちゅちゅちゅ!
「んんああああ!!!」
雷に打たれたかのような衝撃が藍夏を強制的に堕落させた。
藍夏は悲鳴を上げながら星舟のたくましい身体に抱きついた。何かにすがりついていないと意識を手放しそうで怖かった。星舟の力によってか、身体が自由に動くようになった。触手は星舟の背中からまるで木の枝のようにぞろぞろと生えていた。藍夏は星舟に抱きしめられていたが、触手なのか人の腕に抱かれているのか違いがわからない。星舟が木の枝に引っかかれてケガをしたとき、腕に手ぬぐいを巻いてやった。その一本の腕だけが人の形を教えてくれる。
太いのや細いのや、色々な触手が少年の身体を容赦なく蹂躙していった。ベトベトした粘液をまき散らしては身体の敏感な場所を狙って絡みつく。腹の底が熱い。飲まされた薬が何に効いているのか考える余裕はなかった。藍夏は一度では足りないことを自覚してついに腰を揺らした。触手たちが応えて真っ赤な抜き身にしゃぶりつく。
「可愛いな。素直な子は好きだよ。藍夏の魂は美味いのう」
星舟は最後まで穏やかな口調で藍夏を責めあげた。ぐちゃぐちゃにされながら、藍夏の股の間にひときわ熱いかたまりが押し当てられる。心臓がバクバクしてはち切れそうだ。早く楽になりたかった。藍夏は涙にかすんだ藍色の空を見つめていた。
………………
「……か……らんか! おい、藍夏!」
「…………ん……?」
父親の怒鳴り声で目が覚めた。やけに背中が痛い。ずいぶんかたい寝床だ。
「……ぅぅ」
「藍夏!」
いや、ここは寝床ではない。藍夏はかたい地面に横たわっていた。白髪が多くなってきた父親が必死に息子を揺り起こしている。
「……父さん?」
「ああ。生きてるか」
「うん、たぶん……」
空は青く澄んでいた。太陽は東にあり、畑仕事に出なければいけない時間をだいぶ過ぎている。
起きられるようになってから、藍夏は山の中でふしぎな青年に逢ったことを話した。何をされたのかは「覚えていない」で隠し通した。
「たぶん、お前は神隠しに遭ったのかもしれん。ちゃんと子どもを返してくださるなんて、ありがたい神様がいたものだ」
「神隠しって、小さい子が連れていかれるものなんじゃないのか?」
「いくつだって同じだ。まさかお前がやられるとは思わなかった……」
夢を見ていたのだと思いたい。しかし妙に腰が痛くて立ち上がるのがおっくうだ。藍夏は父親に肩をかしてもらいながら下山することになった。差し出された竹筒から水を飲む。冷たくて美味い。
そういえば、藍夏も自分の竹筒にあの泉の水を入れておいたのだった。神隠しといわれては、中をたしかめるのが怖い気もする。妖からの土産物なんて何が入っているのか想像できない。目をつむってどこかに流してしまいたい。それが本当に「水」なのかもあやしいのだが……。
「人の道を外れたと言ったな。……俺は、もう人間ではないのか?」
「いや、まだ死んでないと言っただろう。こちらとあちらのあわいをさまよっているところだよ」
「……どっちだ」
「おぬしの魂は儂の手に握られているということだ」
「…………」
村の翁が何度も言っていた「魂」とは、このことかと思った。
「妖は人の魂を吸い取るのか」
「そうとも。人はどのように生きてきたかによって魂の色が変わる。藍夏は善人ゆえ、混じり気のないあたたかな色をしておる。貴重なものだぞ。さぞかし美味いのだろうな」
「妖にも薬を作る知恵があるんだな。どこで覚えたんだ」
「おや、儂のことが知りたいか?」
「ああ」
星舟は飼い猫を撫でるような手つきで藍夏の肌の感触を楽しんでいた。着物は乱され、隠さなければいけない場所もすでにあらわになり、青年のしなやかな指で弄ばれている。
星舟は泉の水音に耳をかたむけながら話をした。
「聞いても面白くないぞ。そうさな、二百年くらい前か。仙人をやっておった。今は落ちぶれて妖に成り果てたが。人の魂を吸わねば消滅してしまう、儚い闇の残滓よ」
「この山には仙人もいるのか」
「うん。いるにはいるが、逢える可能性は極めて低い。妖はこの逢魔が時を好んで外に出てくるが、仙人はふだん『あちら』に棲んでいる。やつらに逢うためには、まずは人をやめねばならん」
人をやめる。どういう意味なのか藍夏にはまだわからなかった。
「ああ、やめよう。本当に面白くない話だ」
「待て、その仙人というのは……」
「黙っていろ。薬が効きすぎたかな?」
星舟の目が鋭くなった。無遠慮に藍夏の抜き身をつまんで強く扱く。
「ふああっ!?」
完全に油断していた。藍夏は情けない声を出して天を仰いだ。それを見た星舟は満足そうに息をつく。
「そろそろ良いか。若い娘の柔肌もよいが、活きのいい小僧を征服したときの満足感はひと味違う」
本性を現した星舟は低く美しい声でくつくつと笑った。
星舟から愛おしそうに腹を撫でられ続け、藍夏の奥底でうずうずと何かが目覚めようとしていた。必死で抑えようとしてきたが、妖の力によるものか、それは身体の内側から引きずり出されそうになる。
耳元で美しい声がした。星舟がぐっと顔を近づけたのだ。
「藍夏、おぬしの魂を儂におくれ。わるいようにはせん」
「いやだ……放せ」
「放さぬよ。厭なら自分の力で逃げてみせよ」
できるのならすでにやっていた。藍夏はいまだふにゃふにゃと身体の力が抜けている。
ぬるぬるしたものが肌に触れた。ひとつではなく、長い蛇のようなものが腹をぐるりと取り巻き、腕を縛りつけたりした。
星舟の体重で押し倒された藍夏は柔らかな草に仰向けになった。黄昏の空はまだ明るく、藍夏が仕事の終わりに道の途中で見上げた空と同じ色をしていた。やわらかな藍色と、うすい橙色。まるで時が止まっているかのような。
そこでようやく藍夏は「何かおかしい」ということに気がついた。
星舟が自分の着物を脱いでいるところをにらみながらたずねる。
「お前と出遭ってから、空はずっと夕暮れのままだ。なぜだ?」
「幻覚だ。ここではおぬしの見たいと思う世界が見えている」
太ももを這い上がってくるおぞましい気配にめまいがする。ぴちゃぴちゃという泉の水とは違う音がやけにはっきり聞こえる。それでも藍夏は思考を止めずに抵抗する態度を見せていた。
妖となった星舟は暗がりの中でほほ笑んだ。人の形をしている指が少年の中心部をなぞり、藍夏はぞくぞくする刺激に腰が跳ねた。
「儂が仙人だったころ、師に言われたな。幻覚は人を助けるために、善の術として使えと」
うぶな少年の反応に気をよくしたのか、星舟は途中でやめた話を再び聞かせようとしてくれた。
藍夏は気をまぎらわせようとして荒い吐息混じりに声をしぼり出した。
「あやかしには……師の教えをまもる道理は、ないと……?」
「儂は霞を食っていたときから好きなように術を使っていたぞ。師はだいぶ石頭だった。それをかち割ったときの、何かから解放されたという気持ちが今の儂を生かしておる。しかし、思い出を食っても腹はふくれぬのでな」
耳に心地よい声で話す星舟が憎らしかった。残酷な話でさえつい聞き入ってしまう。
「大罪を犯したゆえ、複数の上老からひどい仕打ちを受けた。異形の姿になりはしたが、触手とはなかなか便利なものだぞ。こんなふうに……」
「ぅうっっ!?」
星舟の邪悪な触手がするりと伸びてきた。身動きがとれない藍夏の胸を覆い、ピンと硬くなった突起を包みこんでゆるゆると動く。強弱のつけ方が的確すぎる。藍夏は快感を得ていることを認めたくなかった。身体をのけぞらせる。
「力を抜け。おぬしはなかなか面白い男だ。何でも欲しいものを与えてやろう」
細い触手がわらわらと少年の抜き身にまとわりつき、先端からピュッと粘液を吐き出して擦りつける。特に敏感な場所へ念入りにすり込んではときどきギュウーッと締め上げた。
「っ、ふ……、ッッ!!」
グッと歯を食いしばって声を出さないように我慢するが、どうしても息がもれる。
いっそ身を任せてしまえば楽になるのだろう、その方が……と頭のすみで葛藤しながらも、今にもちぎれそうな理性が「ダメだ」と言う。
「苦しいか? おぬしの身体はだいぶ喜んでいるのになあ」
「はっ、……そんな、こ……っ」
「我慢せずともよい。ほら、身体を動かしてみよ」
ぬちっ
ぐちゅちゅちゅ!
「んんああああ!!!」
雷に打たれたかのような衝撃が藍夏を強制的に堕落させた。
藍夏は悲鳴を上げながら星舟のたくましい身体に抱きついた。何かにすがりついていないと意識を手放しそうで怖かった。星舟の力によってか、身体が自由に動くようになった。触手は星舟の背中からまるで木の枝のようにぞろぞろと生えていた。藍夏は星舟に抱きしめられていたが、触手なのか人の腕に抱かれているのか違いがわからない。星舟が木の枝に引っかかれてケガをしたとき、腕に手ぬぐいを巻いてやった。その一本の腕だけが人の形を教えてくれる。
太いのや細いのや、色々な触手が少年の身体を容赦なく蹂躙していった。ベトベトした粘液をまき散らしては身体の敏感な場所を狙って絡みつく。腹の底が熱い。飲まされた薬が何に効いているのか考える余裕はなかった。藍夏は一度では足りないことを自覚してついに腰を揺らした。触手たちが応えて真っ赤な抜き身にしゃぶりつく。
「可愛いな。素直な子は好きだよ。藍夏の魂は美味いのう」
星舟は最後まで穏やかな口調で藍夏を責めあげた。ぐちゃぐちゃにされながら、藍夏の股の間にひときわ熱いかたまりが押し当てられる。心臓がバクバクしてはち切れそうだ。早く楽になりたかった。藍夏は涙にかすんだ藍色の空を見つめていた。
………………
「……か……らんか! おい、藍夏!」
「…………ん……?」
父親の怒鳴り声で目が覚めた。やけに背中が痛い。ずいぶんかたい寝床だ。
「……ぅぅ」
「藍夏!」
いや、ここは寝床ではない。藍夏はかたい地面に横たわっていた。白髪が多くなってきた父親が必死に息子を揺り起こしている。
「……父さん?」
「ああ。生きてるか」
「うん、たぶん……」
空は青く澄んでいた。太陽は東にあり、畑仕事に出なければいけない時間をだいぶ過ぎている。
起きられるようになってから、藍夏は山の中でふしぎな青年に逢ったことを話した。何をされたのかは「覚えていない」で隠し通した。
「たぶん、お前は神隠しに遭ったのかもしれん。ちゃんと子どもを返してくださるなんて、ありがたい神様がいたものだ」
「神隠しって、小さい子が連れていかれるものなんじゃないのか?」
「いくつだって同じだ。まさかお前がやられるとは思わなかった……」
夢を見ていたのだと思いたい。しかし妙に腰が痛くて立ち上がるのがおっくうだ。藍夏は父親に肩をかしてもらいながら下山することになった。差し出された竹筒から水を飲む。冷たくて美味い。
そういえば、藍夏も自分の竹筒にあの泉の水を入れておいたのだった。神隠しといわれては、中をたしかめるのが怖い気もする。妖からの土産物なんて何が入っているのか想像できない。目をつむってどこかに流してしまいたい。それが本当に「水」なのかもあやしいのだが……。
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