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ノスカリアの密漁船
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『おい、お出でなすったぜ』
一人が薄ら笑いを浮かべながら声をあげると、周りも同様の表情を浮かべた。
一頭のドラゴンに引かせた船には数人の男たちが乗っており、海に沈めた網を引き揚げていたところだ。
『けっ…シャーハンの腰抜け警備団なんぞに、俺たちの漁を邪魔されてたまるかよ』
船長である男は、遠くから近づいて来るシャーハン国の警備船を睨みながら、網に絡まる魚を次々と水槽に投げ込んでいく。
彼らはシャーハンより遥か北にある*ノスカリア*という小さな島国の軍人だ。
ノスカリアは破竜保有国の1つだが、国土は狭く痩せており、まともな資源も無い。
その上、竜武装に大半の国費を投じ、残りの富の恩恵を王族と一部の高級官僚のみが受けている状態で、その他大勢の国民は独裁恐怖政治の下で飢えと監視に怯えて日々を暮らしている。
『ここらへんの魚は、将校や役人どもが高くで買うからな』
もはや、軍隊はまともに機能しておらず、ドラゴンに牽引させた軍船はこうやって密漁の為に海へと駆り出されることが殆どだ。
特に、シャーハン国の漁場であるこの海域には頻繁にノスカリアの密漁船が不法にやって来ては、魚をゴッソリと持って行ってしまう。
お陰で、ドラゴンを引き連れた軍船に脅かされたシャーハンの漁民たちは、すっかりこの海域に近づかなくなってしまった。
『オメェら、ずらかるぞ!』
船長の掛け声で、乗組員たちがそれぞれの持ち場に戻る。
この船の他にも、周辺では3隻が漁をしており、それぞれが出発の準備に取り掛かっていた。
『へへ…警告してますぜ』
警備船から立ち昇る赤い狼煙を、船員の一人が指差して笑った。
海上で一般的に使用される停船を命じる煙だ。
これを無視して航行を続けるならば、たとえ対竜槍を放たれ撃沈させられても文句は言えない。
『やれるもんならやってみろ!
そのノロマな船で追いつけるもんならな!』
血気盛んなノスカリアの船員たちが挑発するように警備船へと声を投げつける。
『ドラゴンを持てないってのは、惨めなもんだな!』
『はは!今じゃ平和主義者は魚釣りすらできねぇ時代だからな!』
どんどん差がつき遠ざかる警備船を見ながら囃し立てる者たちを背に、船長である男は、それとは反対方向の前方へと目を見開いていた。
『船長も見てくださいよ、あのマヌケな警備団たちを…』
振り返って船長を呼んだ一人の男は、すぐさま、その光景に息を呑んだ。
船長が立ち尽くして見つめている海の先に、1つの巨大な影が浮かんでいたのだ。
『な…何だ…あれ…』
周りの3隻も、その影の存在に気がつき、それぞれが狼狽えている。
『船…なのか…?』
『な…何でも構わねぇ!
こっちは竜軍船が4隻もいるんだ、
邪魔するんなら、沈めっちまえ!!』
そう言って猛るノスカリアの密漁者たちが最期に目にしたのは、
自分たちに降り注ぐ金属の礫だった。
一人が薄ら笑いを浮かべながら声をあげると、周りも同様の表情を浮かべた。
一頭のドラゴンに引かせた船には数人の男たちが乗っており、海に沈めた網を引き揚げていたところだ。
『けっ…シャーハンの腰抜け警備団なんぞに、俺たちの漁を邪魔されてたまるかよ』
船長である男は、遠くから近づいて来るシャーハン国の警備船を睨みながら、網に絡まる魚を次々と水槽に投げ込んでいく。
彼らはシャーハンより遥か北にある*ノスカリア*という小さな島国の軍人だ。
ノスカリアは破竜保有国の1つだが、国土は狭く痩せており、まともな資源も無い。
その上、竜武装に大半の国費を投じ、残りの富の恩恵を王族と一部の高級官僚のみが受けている状態で、その他大勢の国民は独裁恐怖政治の下で飢えと監視に怯えて日々を暮らしている。
『ここらへんの魚は、将校や役人どもが高くで買うからな』
もはや、軍隊はまともに機能しておらず、ドラゴンに牽引させた軍船はこうやって密漁の為に海へと駆り出されることが殆どだ。
特に、シャーハン国の漁場であるこの海域には頻繁にノスカリアの密漁船が不法にやって来ては、魚をゴッソリと持って行ってしまう。
お陰で、ドラゴンを引き連れた軍船に脅かされたシャーハンの漁民たちは、すっかりこの海域に近づかなくなってしまった。
『オメェら、ずらかるぞ!』
船長の掛け声で、乗組員たちがそれぞれの持ち場に戻る。
この船の他にも、周辺では3隻が漁をしており、それぞれが出発の準備に取り掛かっていた。
『へへ…警告してますぜ』
警備船から立ち昇る赤い狼煙を、船員の一人が指差して笑った。
海上で一般的に使用される停船を命じる煙だ。
これを無視して航行を続けるならば、たとえ対竜槍を放たれ撃沈させられても文句は言えない。
『やれるもんならやってみろ!
そのノロマな船で追いつけるもんならな!』
血気盛んなノスカリアの船員たちが挑発するように警備船へと声を投げつける。
『ドラゴンを持てないってのは、惨めなもんだな!』
『はは!今じゃ平和主義者は魚釣りすらできねぇ時代だからな!』
どんどん差がつき遠ざかる警備船を見ながら囃し立てる者たちを背に、船長である男は、それとは反対方向の前方へと目を見開いていた。
『船長も見てくださいよ、あのマヌケな警備団たちを…』
振り返って船長を呼んだ一人の男は、すぐさま、その光景に息を呑んだ。
船長が立ち尽くして見つめている海の先に、1つの巨大な影が浮かんでいたのだ。
『な…何だ…あれ…』
周りの3隻も、その影の存在に気がつき、それぞれが狼狽えている。
『船…なのか…?』
『な…何でも構わねぇ!
こっちは竜軍船が4隻もいるんだ、
邪魔するんなら、沈めっちまえ!!』
そう言って猛るノスカリアの密漁者たちが最期に目にしたのは、
自分たちに降り注ぐ金属の礫だった。
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