Al戦艦と異世界ドラゴン

やるふ

文字の大きさ
上 下
19 / 53

軍事同盟

しおりを挟む
『ホント、ずっと見てるんですね…』

洗面台で手を洗っているエリーは、気まずそうな苦笑いを前の鏡に映している。

《はい。艦内で私が確認できない場所はありません。
ですから声をかけて頂ければ、いつでも、どこでも私との会話が可能ですし、必要とあらばこちらから声をかけることもあります》

紅蛍の言葉にエリーは溜息をついて俯いた。

《もしや、トイレ個室内で私が声をかけてきた事を気にしているのですか?
この艦のトイレ設備の正しい使用方法を知らない貴女には、お教えする必要がありましたので、御了承ください》

『まさか、この歳で正しい用の足し方を教えられるなんて…』

エリーはそう言って顔を両手で覆いながら更なる深い溜息をつく。

《御安心ください、私に感情は無いので、便座に座る貴女を見ても何も感じません》

『それは有難いです…。
下から出てきた洗浄水に驚いて立ち上がってしまったことは、どうか誰にも言わないでください…』

エリーは肩を落としトボトボと洗面所を後にした。

天井の蛍光灯が自動で点灯され、綺麗な部屋が姿を現す。
ベッドとソファー、テーブルが設置されているだけのシンプルな空間だ。
ロッカーと冷蔵庫は壁に内蔵されており、一人で過ごすには十分なように設計されている。

約20分前、紅蛍の案内のもとグレンダと団員たちに連れられてエリーはこの部屋に入れられた。

最初は頑丈にロックされた扉を拳で叩きながら喚いていたエリーも時間が経つにつれて平静さを取り戻し、今では冷蔵庫の中に並べられた色とりどりのレトルト食品に目を輝かせているといった、いつもの様子だ。

『飛竜隊は、どうなりました?』

エリーは、レトルトカレーの封を開けながら紅蛍に訊ねる。
スパイスの効いた芳ばしい薫りが部屋に広がりエリーの鼻孔を擽る。

《4騎を艦対空ミサイルで撃墜したのち、25㎜機関砲による対空砲火で1騎を撃墜。
その後、もう1騎を機関砲で狙うも回避され、その対象がレッドゾーンを抜けたので射撃を中止しました》

事務的に淡々と答える紅蛍。

『これから、どうするつもりですか?
私たちは、祖国に帰れるのでしょうか?』

カレーをスプーンで掬いながら、エリーが質問を続ける。

《その件に関して只今、団長のグレンダと話し合い、結果が出ましたのでお伝えします》

『只今…?今は私と話していましたよね?
そういえば、さっき私の所に団長を呼び出した時も…』

《私は、この艦内にいる全員を同時に見ることができ、全員と同時に内容の異なる会話が可能なのです。
つまり、貴女にレトルト食品の開封方法を教えながら、グレンダと会話ができ、それと同時にアフレッタに艦内の案内をできるということです》

常識を超えまくっているその内容に、もはやエリーはひきつった笑いを浮かべるしかなかった。

『…で、その結果とは…?』

そう言って、とりあえずスプーンを口に運ぶエリー。
そのあまりの美味しさに、頬の内側に痛みに似た痺れがはしった。

《まず、あなた方団員と民間人全員をシャーハン国へとお連れします。
その後の事に関しては、シャーハン政府との話し合いで決めます》

『は?政府と話し合いって…何を話し合うんですか…?』

シーナ軍を攻撃した謎の船を港に招き入れるだけでも、シャーハンとしては外交的にかなり危険な賭けになるはずだ。
そのうえ、何かしらの協定や合意を結んだとなると、シーナ帝国はもとより他の国々も黙ってはいないだろう。

エリーの脳裏に、そんな考えがグルグルと回っていた。

そして、それは現実のものとなる…。



《グレンダからの提案により、私はシャーハン国と軍事同盟を結ぶ交渉に入ることに決定しました》













     
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

伯爵夫人のお気に入り

つくも茄子
ファンタジー
プライド伯爵令嬢、ユースティティアは僅か二歳で大病を患い入院を余儀なくされた。悲しみにくれる伯爵夫人は、遠縁の少女を娘代わりに可愛がっていた。 数年後、全快した娘が屋敷に戻ってきた時。 喜ぶ伯爵夫人。 伯爵夫人を慕う少女。 静観する伯爵。 三者三様の想いが交差する。 歪な家族の形。 「この家族ごっこはいつまで続けるおつもりですか?お父様」 「お人形遊びはいい加減卒業なさってください、お母様」 「家族?いいえ、貴方は他所の子です」 ユースティティアは、そんな家族の形に呆れていた。 「可愛いあの子は、伯爵夫人のお気に入り」から「伯爵夫人のお気に入り」にタイトルを変更します。

【完結】私だけが知らない

綾雅(要らない悪役令嬢1/7発売)
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。 優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。 やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。 記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位 2023/12/19……番外編完結 2023/12/11……本編完結(番外編、12/12) 2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位 2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」 2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位 2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位 2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位 2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位 2023/08/14……連載開始

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

最強剣士異世界で無双する

夢見叶
ファンタジー
剣道の全国大会で優勝した剣一。その大会の帰り道交通事故に遭い死んでしまった。目を覚ますとそこは白い部屋の中で1人の美しい少女がたっていた。その少女は自分を神と言い、剣一を別の世界に転生させてあげようと言うのだった。神からの提案にのり剣一は異世界に転生するのだった。 ノベルアッププラス小説大賞1次選考通過

竜王の花嫁は番じゃない。

豆狸
恋愛
「……だから申し上げましたのに。私は貴方の番(つがい)などではないと。私はなんの衝動も感じていないと。私には……愛する婚約者がいるのだと……」 シンシアの瞳に涙はない。もう涸れ果ててしまっているのだ。 ──番じゃないと叫んでも聞いてもらえなかった花嫁の話です。

【12/29にて公開終了】愛するつもりなぞないんでしょうから

真朱
恋愛
この国の姫は公爵令息と婚約していたが、隣国との和睦のため、一転して隣国の王子の許へ嫁ぐことになった。余計ないざこざを防ぐべく、姫の元婚約者の公爵令息は王命でさくっと婚姻させられることになり、その相手として白羽の矢が立ったのは辺境伯家の二女・ディアナだった。「可憐な姫の後が、脳筋な辺境伯んとこの娘って、公爵令息かわいそうに…。これはあれでしょ?『お前を愛するつもりはない!』ってやつでしょ?」  期待も遠慮も捨ててる新妻ディアナと、好青年の仮面をひっ剥がされていく旦那様ラキルスの、『明日はどっちだ』な夫婦のお話。    ※なんちゃって異世界です。なんでもあり、ご都合主義をご容赦ください。  ※新婚夫婦のお話ですが色っぽさゼロです。Rは物騒な方です。  ※ざまあのお話ではありません。軽い読み物とご理解いただけると幸いです。 ※コミカライズにより12/29にて公開を終了させていただきます。

怖いからと婚約破棄されました。後悔してももう遅い!

秋鷺 照
ファンタジー
ローゼは第3王子フレッドの幼馴染で婚約者。しかし、「怖いから」という理由で婚約破棄されてしまう。

お人好しの悪役令嬢は悪役になりきれない

あーもんど
恋愛
ある日、悪役令嬢に憑依してしまった主人公。 困惑するものの、わりとすんなり状況を受け入れ、『必ず幸せになる!』と決意。 さあ、第二の人生の幕開けよ!────と意気込むものの、人生そう上手くいかず…… ────えっ?悪役令嬢って、家族と不仲だったの? ────ヒロインに『悪役になりきれ』って言われたけど、どうすれば……? などと悩みながらも、真っ向から人と向き合い、自分なりの道を模索していく。 そんな主人公に惹かれたのか、皆だんだん優しくなっていき……? ついには、主人公を溺愛するように! ────これは孤独だった悪役令嬢が家族に、攻略対象者に、ヒロインに愛されまくるお語。 ◆小説家になろう様にて、先行公開中◆

処理中です...