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少女が宿りし船
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《列は乱さずに、私の指示に従いお進みください。
周りの物にはできるだけ手で触れないようにしてください》
少女の端整な声が響く中、狭い廊下を1列になって歩くシャーハン国の国家警備団員たちと商人のアフレッタ一行。
『一体、どこから話しかけてきてるんですかね。
さっきの橋も誰もいないのにひとりでに伸びてきたし、やっぱり幽霊船なんじゃ…』
列の先頭を歩くグレンダの後ろからエリーのヒソヒソ声が届いてきた。
『さあな。
とにかく、今は黙って歩け』
グレンダは振り返らずにそれだけを返すと、少女の声の通りに歩を進める。
勝手に開閉する扉や、見たこともない素材で造られている壁や床に、他の団員たちも驚きの声を漏らしているが、グレンダは無言のままで先を急いだ。
《その部屋にお入りください》
廊下の突き当たりに見えていた一際大きな扉がゆっくりと開くのと同時に少女がそう告げた。
『ここは?』
長机と椅子が幾つも置かれているその空間はやけに広く、団員たちが全員入っても物寂しい感じだ。
《皆さん、初めまして》
突然、声が響き、正面の壁に埋め込まれている巨大なスクリーンに少女が姿を現した。
『ひゃあ!』
『何なんだこれは!』
『水槽の中に女の子が入ってるのか…?』
皆が驚愕している中、グレンダだけは勇敢にスクリーンへと踏み寄った。
『俺はシャーハン国国家警備団の団長グレンダだ。
まずは、我々を救助してくれたことに感謝を申しあげたい。
して、この船の長にお会いしたいのだが…』
《シャーハン国 国家警備団 団長グレンダ。
貴方がこの組織のリーダということで間違いはありませんか?》
少女の問いにグレンダは小さく頷く。
《では、私の自己紹介を始めます。
名はベニボタル、この船の長であり、この船に宿りし者です》
『船に宿りし者!?』
エリーが思わず声を飛ばした。
他の者たちも明らかに動揺している様子だ。
AI紅蛍は、グレンダたちをこの場所まで案内しながら、船内の至るところに設置されている監視カメラや集音マイクを駆使し、この未知なる世界の文明レベルを弾き出していた。
それは、会話を交わす際に、彼らの理解が追い付くような話し方にしておかなければ、物事が円滑に進まないだろうと知っていた為だ。
つまり…紅蛍は、自らのテクノロジーを正確に説明しても、この世界の人間たちには理解されないと判断したのだ。
《貴女の名は?》
紅蛍に訊ねられ、エリーはたじろぎながらも自らの名前を口にした。
《では、エリー。
私はこれから、グレンダと話をします。宜しいですか?》
『は、はあ…。
分かりました、私たちは静かにしときます…』
エリーはそう言うと周りの団員たちに目配りをして唇を尖らした。
《感謝しますエリー。
それではグレンダさん、貴方からの質問を受け付けます━━》
周りの物にはできるだけ手で触れないようにしてください》
少女の端整な声が響く中、狭い廊下を1列になって歩くシャーハン国の国家警備団員たちと商人のアフレッタ一行。
『一体、どこから話しかけてきてるんですかね。
さっきの橋も誰もいないのにひとりでに伸びてきたし、やっぱり幽霊船なんじゃ…』
列の先頭を歩くグレンダの後ろからエリーのヒソヒソ声が届いてきた。
『さあな。
とにかく、今は黙って歩け』
グレンダは振り返らずにそれだけを返すと、少女の声の通りに歩を進める。
勝手に開閉する扉や、見たこともない素材で造られている壁や床に、他の団員たちも驚きの声を漏らしているが、グレンダは無言のままで先を急いだ。
《その部屋にお入りください》
廊下の突き当たりに見えていた一際大きな扉がゆっくりと開くのと同時に少女がそう告げた。
『ここは?』
長机と椅子が幾つも置かれているその空間はやけに広く、団員たちが全員入っても物寂しい感じだ。
《皆さん、初めまして》
突然、声が響き、正面の壁に埋め込まれている巨大なスクリーンに少女が姿を現した。
『ひゃあ!』
『何なんだこれは!』
『水槽の中に女の子が入ってるのか…?』
皆が驚愕している中、グレンダだけは勇敢にスクリーンへと踏み寄った。
『俺はシャーハン国国家警備団の団長グレンダだ。
まずは、我々を救助してくれたことに感謝を申しあげたい。
して、この船の長にお会いしたいのだが…』
《シャーハン国 国家警備団 団長グレンダ。
貴方がこの組織のリーダということで間違いはありませんか?》
少女の問いにグレンダは小さく頷く。
《では、私の自己紹介を始めます。
名はベニボタル、この船の長であり、この船に宿りし者です》
『船に宿りし者!?』
エリーが思わず声を飛ばした。
他の者たちも明らかに動揺している様子だ。
AI紅蛍は、グレンダたちをこの場所まで案内しながら、船内の至るところに設置されている監視カメラや集音マイクを駆使し、この未知なる世界の文明レベルを弾き出していた。
それは、会話を交わす際に、彼らの理解が追い付くような話し方にしておかなければ、物事が円滑に進まないだろうと知っていた為だ。
つまり…紅蛍は、自らのテクノロジーを正確に説明しても、この世界の人間たちには理解されないと判断したのだ。
《貴女の名は?》
紅蛍に訊ねられ、エリーはたじろぎながらも自らの名前を口にした。
《では、エリー。
私はこれから、グレンダと話をします。宜しいですか?》
『は、はあ…。
分かりました、私たちは静かにしときます…』
エリーはそう言うと周りの団員たちに目配りをして唇を尖らした。
《感謝しますエリー。
それではグレンダさん、貴方からの質問を受け付けます━━》
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