2 / 53
ドラゴンがいる世界
しおりを挟む
真っ青な空の下、一隻の船が大海原で帆を張っている。
『団長!
ただいま船内点検終わりました!!』
副団長のエリーは敬礼をしながら元気の良い声を部屋の中に弾ませた。
『ああ、ご苦労だったな。
だが、その顔の点検はまだだったようだな』
椅子に座っていたグレンダ団長は、呆れた様子でエリーへと溜め息を返す。
『は?顔?私の顔がどうかしましたか?』
エリーは頬に付いた苺ジャムに気がつかず、首を傾げている。
『ハハハ!今年で24歳でしたかな?
副団長といえど、やはりまだ子供ですな~』
グレンダとテーブルを挟み座っていた商人のアフレッタが豪快に笑うと、エリーはますます首を傾げて困ったように苦笑いを浮かべた。
『もういい。
早く顔を洗って盗み食いの証拠を消すんだ』
グレンダのその言葉で、やっとでジャムの存在に気がついたエリーは、慌ててその場から立ち去った。
『いや、しかし…
たかが他国との商売に、国家警備団の船を使わねばならんとは実に不便ですな~。
いい加減、我が*シャーハン国*もドラゴンを保有できるようにすべきでは?
今どき他国では、海賊対策にはドラゴン商船が普通になっておりますぞ』
アフレッタの言葉に、グレンダは咳払い一つを返して立ち上がる。
『確かに、60年前の*破竜大戦*を教訓に、戦争利用しやすいドラゴンを保有しないことで、我が国は平和国家として今日に至っています。
しかし、現実はどうですかな?
今でも三つの*破竜保有国*が幅を利かせ、その他の国は肩身の狭い思いをしている。
だからこそ、破竜保有が無理なら、飛竜、水竜、陸竜をと…各国は竜武装に躍起になっておるわけです』
アフレッタはそこまで言うと、無言で窓際に立っているグレンダの背中を見つめた。
『シャーハン国の平和は、平和竜*クジョー神*の教えがあってこそのものだと、皇女*リノハル*様は信じておられる。
我らシャーハン国国家警備団はその教えに従い、国土と国民を守り抜かねばならん…』
グレンダは窓から見える青空に物憂げな眼差しを向けながら言葉をこぼす。
『教えと国民の命、天秤にかけたらどちらに傾くかは…軍人である貴方なら考えるまでもないでしょうに』
アフレッタがテーブルに置いてある湯気たてるカップに手を伸ばした、その瞬間…
「ドゴーーーン!!」
物凄い轟音と共に船が大きく揺れた。
『何だ!?』
グレンダとアフレッタがバランスを崩し、カップが落ちて床に紅茶が飛び散った。
扉が勢いよく開き、エリーが息を切らしながら叫ぶ。
『団長!!
緊急事態です!ドラゴンです!
水竜が襲ってきました!!』
『ドラゴンだと!?
馬鹿な…!今、航行しているこの位置は、どこの国の領海にも入っていないんだぞ!』
『はい!!
なので、軍のものではなく、*はぐれ竜*の可能性もあります!』
ほとんどの国の軍がドラゴンを保有し、厳重に管理しているこの世界では、はぐれ竜…つまり野生のドラゴンは滅多に存在しない。
『総員に告ぐ!!
直ちに海中のドラゴンへと*対竜槍*を放て!!』
グレンダの声が船内に轟いた。
『団長!
ただいま船内点検終わりました!!』
副団長のエリーは敬礼をしながら元気の良い声を部屋の中に弾ませた。
『ああ、ご苦労だったな。
だが、その顔の点検はまだだったようだな』
椅子に座っていたグレンダ団長は、呆れた様子でエリーへと溜め息を返す。
『は?顔?私の顔がどうかしましたか?』
エリーは頬に付いた苺ジャムに気がつかず、首を傾げている。
『ハハハ!今年で24歳でしたかな?
副団長といえど、やはりまだ子供ですな~』
グレンダとテーブルを挟み座っていた商人のアフレッタが豪快に笑うと、エリーはますます首を傾げて困ったように苦笑いを浮かべた。
『もういい。
早く顔を洗って盗み食いの証拠を消すんだ』
グレンダのその言葉で、やっとでジャムの存在に気がついたエリーは、慌ててその場から立ち去った。
『いや、しかし…
たかが他国との商売に、国家警備団の船を使わねばならんとは実に不便ですな~。
いい加減、我が*シャーハン国*もドラゴンを保有できるようにすべきでは?
今どき他国では、海賊対策にはドラゴン商船が普通になっておりますぞ』
アフレッタの言葉に、グレンダは咳払い一つを返して立ち上がる。
『確かに、60年前の*破竜大戦*を教訓に、戦争利用しやすいドラゴンを保有しないことで、我が国は平和国家として今日に至っています。
しかし、現実はどうですかな?
今でも三つの*破竜保有国*が幅を利かせ、その他の国は肩身の狭い思いをしている。
だからこそ、破竜保有が無理なら、飛竜、水竜、陸竜をと…各国は竜武装に躍起になっておるわけです』
アフレッタはそこまで言うと、無言で窓際に立っているグレンダの背中を見つめた。
『シャーハン国の平和は、平和竜*クジョー神*の教えがあってこそのものだと、皇女*リノハル*様は信じておられる。
我らシャーハン国国家警備団はその教えに従い、国土と国民を守り抜かねばならん…』
グレンダは窓から見える青空に物憂げな眼差しを向けながら言葉をこぼす。
『教えと国民の命、天秤にかけたらどちらに傾くかは…軍人である貴方なら考えるまでもないでしょうに』
アフレッタがテーブルに置いてある湯気たてるカップに手を伸ばした、その瞬間…
「ドゴーーーン!!」
物凄い轟音と共に船が大きく揺れた。
『何だ!?』
グレンダとアフレッタがバランスを崩し、カップが落ちて床に紅茶が飛び散った。
扉が勢いよく開き、エリーが息を切らしながら叫ぶ。
『団長!!
緊急事態です!ドラゴンです!
水竜が襲ってきました!!』
『ドラゴンだと!?
馬鹿な…!今、航行しているこの位置は、どこの国の領海にも入っていないんだぞ!』
『はい!!
なので、軍のものではなく、*はぐれ竜*の可能性もあります!』
ほとんどの国の軍がドラゴンを保有し、厳重に管理しているこの世界では、はぐれ竜…つまり野生のドラゴンは滅多に存在しない。
『総員に告ぐ!!
直ちに海中のドラゴンへと*対竜槍*を放て!!』
グレンダの声が船内に轟いた。
0
お気に入りに追加
31
あなたにおすすめの小説
伯爵夫人のお気に入り
つくも茄子
ファンタジー
プライド伯爵令嬢、ユースティティアは僅か二歳で大病を患い入院を余儀なくされた。悲しみにくれる伯爵夫人は、遠縁の少女を娘代わりに可愛がっていた。
数年後、全快した娘が屋敷に戻ってきた時。
喜ぶ伯爵夫人。
伯爵夫人を慕う少女。
静観する伯爵。
三者三様の想いが交差する。
歪な家族の形。
「この家族ごっこはいつまで続けるおつもりですか?お父様」
「お人形遊びはいい加減卒業なさってください、お母様」
「家族?いいえ、貴方は他所の子です」
ユースティティアは、そんな家族の形に呆れていた。
「可愛いあの子は、伯爵夫人のお気に入り」から「伯爵夫人のお気に入り」にタイトルを変更します。
【完結】私だけが知らない
綾雅(要らない悪役令嬢1/7発売)
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。
優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。
やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。
記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。
【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位
2023/12/19……番外編完結
2023/12/11……本編完結(番外編、12/12)
2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位
2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」
2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位
2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位
2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位
2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位
2023/08/14……連載開始
元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。
【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?
みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。
ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる
色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く
最強剣士異世界で無双する
夢見叶
ファンタジー
剣道の全国大会で優勝した剣一。その大会の帰り道交通事故に遭い死んでしまった。目を覚ますとそこは白い部屋の中で1人の美しい少女がたっていた。その少女は自分を神と言い、剣一を別の世界に転生させてあげようと言うのだった。神からの提案にのり剣一は異世界に転生するのだった。
ノベルアッププラス小説大賞1次選考通過
美少女に転生して料理して生きてくことになりました。
ゆーぞー
ファンタジー
田中真理子32歳、独身、失業中。
飲めないお酒を飲んでぶったおれた。
気がついたらマリアンヌという12歳の美少女になっていた。
その世界は加護を受けた人間しか料理をすることができない世界だった
竜王の花嫁は番じゃない。
豆狸
恋愛
「……だから申し上げましたのに。私は貴方の番(つがい)などではないと。私はなんの衝動も感じていないと。私には……愛する婚約者がいるのだと……」
シンシアの瞳に涙はない。もう涸れ果ててしまっているのだ。
──番じゃないと叫んでも聞いてもらえなかった花嫁の話です。
お人好しの悪役令嬢は悪役になりきれない
あーもんど
恋愛
ある日、悪役令嬢に憑依してしまった主人公。
困惑するものの、わりとすんなり状況を受け入れ、『必ず幸せになる!』と決意。
さあ、第二の人生の幕開けよ!────と意気込むものの、人生そう上手くいかず……
────えっ?悪役令嬢って、家族と不仲だったの?
────ヒロインに『悪役になりきれ』って言われたけど、どうすれば……?
などと悩みながらも、真っ向から人と向き合い、自分なりの道を模索していく。
そんな主人公に惹かれたのか、皆だんだん優しくなっていき……?
ついには、主人公を溺愛するように!
────これは孤独だった悪役令嬢が家族に、攻略対象者に、ヒロインに愛されまくるお語。
◆小説家になろう様にて、先行公開中◆
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる