Al戦艦と異世界ドラゴン

やるふ

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見えざる占領

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約30年前━━…


『そうしていると、本当に女にしか見えんな』

揺れる馬車の中、グレンダは外の景色を映していた瞳を、隣に座っている男へと向けた。

男は、獲物を見据える蛇のような目つきでグレンダを見ている。

『この格好は、好きではありません』

グレンダはそう言うと、再び外へと視線を戻す。

元々、幼い頃から女に間違えられるほど中性的な顔つきだった。

10歳になると、父の言い付けで髪を伸ばすようになった。
母に化粧を習い、家の中でだけ女物の服を着せられた。

それが何の役に立つのかも分からないまま3年ほどの時が経ったある日、この男が家を訪れた。

『今日からこの方が、お前の世話をしてくれる。
とても偉く立派なお人だ。言うことをキチンと聞くんだよ』

父と共に戦場を生き抜いた戦友だと紹介されたその男は、母に着飾られたグレンダの姿に満足気な笑みを浮かべていた。

『あの…それで、俺は何をすれば…』

両親からは何も聞かされず見送られたグレンダは、ここまで敢えて訊かなかった最大の疑問の答えを、恐る恐る男に求めた。

『君には明日から、皇女に仕える巫女になってもらう。
ずっと以前から親友である君の父親から懇願されていてな。
私が元老院で推薦したのだよ』

『皇女に仕える巫女…?』

『そうだ。
本来なら、男が皇女に仕えることなど許されぬが、その容姿と私の推薦があれば、それも可能。
だが、皇女や周りの者には絶対に悟られるでないぞ?』

『どうして父は、俺を巫女になんて…』

そこで不意に思い出したのは、父が昔から言っていた言葉だった。


『いいかグレンダ。
この国は、またいずれ戦争へと向かう。
いくら現実逃避をして、目を瞑り独りよがりに不戦の誓いを立てようが、戦争は災害と同じで必ず起こる。
その時、お前は必ず政権内部に居ろ━━…』

グレンダは、戦時中の飛竜騎士だった父の勇姿に関しては家族や周りの人達から聞かされており、グレンダにとって父は憧れの存在であり、
そんな尊敬している父からの言葉は、幼き故に意味が理解できずとも、その胸にしかと刻み続けてきた。

父は言っていた。

敗戦後、この国は民衆の声を代弁する元老院という組織を置くことで、その表向きを民主主義国家へと変貌させたと。

しかし内情は、その殆んどを戦勝国が決めた人事により構成された元老院によって国政は牛耳られ、シャーハンは独立とは名ばかりの*見えざる占領統治下*にある状態だと。


この国に、真の独立を迎えさせなければならない━━━…と。



『まあ、巫女として仕えるのは2、3年といったところだが、その後の道も私が保障してやる。
だから、私の言うことには絶対に逆らうでないぞグレンダ…』

男の言葉に、グレンダは無言で首を縦に振る。

言われなくとも、この男が元老院の長老の一人だということくらいは、まだ子供であるグレンダでも分かる。

そして、父の古くからの友人ならば、戦勝国側の長老ではないということも…。


『良い子だグレンダ…』

男は舌なめずりをするように口許を弛めると、グレンダに顔を近付けて囁いた。


『今夜は、私の部屋に泊まりなさい…』













 
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