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花竜草
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目を覚ましたグリペンの視界に、まず最初に映ったのは真っ白な天井だった。
何処かのベッドの中に居ることは何となく分かる。
ぼーっとした頭の中で考えを巡らせる。
まるで、今までずっと眠っていて、何かの悪夢を見ていたかのような感覚だ。
不意に、真っ白な視界に誰かの顔が重なった。
『ひゃあ!
何してるんですか!?』
グリペンは驚いた声を上げて飛び起きた。
『おわ!目覚めたみたいだな。
良かった…』
そこに居たのはダンイルだった。
小さな机と棚くらいしか無い、そう広くはない部屋の中に、グリペンは寝かされていた。
枕元には綺麗な一輪の花が花瓶に咲いている。
『ダンイルさん…僕…此処は一体…』
状況が把握できずに、グリペンの頭は一気に混乱する。
『もう安心だ。ここはタワン基地の医務室だ。
お前、あの地獄の楽園島の山中で、ラッジストの介抱をしながら身を隠していたらしいな。
大したもんだ、お陰でラッジストはあれだけの重症を負いながらも命には別状がない』
『地獄の…楽園…島…?
ラッジスト…さんを…介抱…?』
ダンイルの言葉の後、グリペンは頭痛に襲われ、その脳裏におぞましい何かが過った。
『そういえば、さっき医者が薬を置いていったぞ。
ただのビタミン鎮痛剤だから、目が覚めたら飲ませてくれって』
ダンイルが錠剤の入った小瓶を見せたその瞬間、グリペンは目を見開き両手で胸を押さえだした。
『グリペン…?
おい、どうした!苦しいのか!?』
思い出す…。
灰色の巨船、一瞬で塵と化したナンシー、ラッジストの叫び声、流れる鮮血、仮面の男たち、
そして…
軍服を剥ぎ取られ、肢体を舐め回す不気味な舌の感触と生臭い吐息がもたらす嗚咽感…。
悲鳴を上げると殴られ、許しを乞いながら自ら身体を差し出すしか選択肢が無かった
絶望なる刻…。
暗闇から這い出してきた記憶が、一気にグリペンの全身を貫いていった。
ダンイルには知らされていないようだが、女性軍人であるグリペンには一目で分かった。
それが…ビタミン錠剤などではなく、堕胎薬だということを…。
『う…うう…ぐぅ…』
憧れの仲間たちとの未来も、軍人としての誇りも、人間として女としての尊厳も…何もかもが汚されて踏みにじられ目も当てられない程に無様な今の自分…。
叫び声を上げて、いっそのこと壊れてしまいたくなるような衝動にグリペンは涙を流し唇を噛みながら必死に堪えている。
『待ってろ!今、医者を呼んで来るからな!』
ただならぬグリペンの様子にダンイルが部屋を出ようとした途端、病室の扉が勢いよく開いた。
そこには、二人にとって見慣れた女の姿があった。
その胸には両手いっぱいの白い花束を抱えている。
『ロサード…?何でお前が…』
ダンイルの問いかけに、ロサードは眉を微かに動かした。
『ばーか。これが見えねぇのか?
花屋が来る理由なんて決まってんだろ。
花を届けに来たんだよ』
ロサードはぶっきらぼうにそう言って、ダンイルの足を蹴り乱暴に退かすと、呆気にとられているグリペンの方へと歩を進める。
『おい、待て…。
花を届けに…って、それは飛竜の餌の*花竜草*じゃ…』
基本的にドラゴンは肉食だが、飛竜だけは草食であり、特に季節に限らず一年中白い花を咲かせるこの植物の独特の香りを好み食す。
それにより、いつしかこの花は花竜草と呼ばれるようになったのだった。
ロサードは 、そんなダンイルの戸惑いに構わず、両手の花竜草をグリペンのベッドへと勢いよく放り投げてばら蒔いた。
『ひゃあ!』
『おい!ロサード!』
驚いた二人が声を上げるが、ロサードは楽しげな笑みを浮かべ、グリペンを見つめながら言う。
『グリペンちゃんは確か…この花が好きだったよな?』
何処かのベッドの中に居ることは何となく分かる。
ぼーっとした頭の中で考えを巡らせる。
まるで、今までずっと眠っていて、何かの悪夢を見ていたかのような感覚だ。
不意に、真っ白な視界に誰かの顔が重なった。
『ひゃあ!
何してるんですか!?』
グリペンは驚いた声を上げて飛び起きた。
『おわ!目覚めたみたいだな。
良かった…』
そこに居たのはダンイルだった。
小さな机と棚くらいしか無い、そう広くはない部屋の中に、グリペンは寝かされていた。
枕元には綺麗な一輪の花が花瓶に咲いている。
『ダンイルさん…僕…此処は一体…』
状況が把握できずに、グリペンの頭は一気に混乱する。
『もう安心だ。ここはタワン基地の医務室だ。
お前、あの地獄の楽園島の山中で、ラッジストの介抱をしながら身を隠していたらしいな。
大したもんだ、お陰でラッジストはあれだけの重症を負いながらも命には別状がない』
『地獄の…楽園…島…?
ラッジスト…さんを…介抱…?』
ダンイルの言葉の後、グリペンは頭痛に襲われ、その脳裏におぞましい何かが過った。
『そういえば、さっき医者が薬を置いていったぞ。
ただのビタミン鎮痛剤だから、目が覚めたら飲ませてくれって』
ダンイルが錠剤の入った小瓶を見せたその瞬間、グリペンは目を見開き両手で胸を押さえだした。
『グリペン…?
おい、どうした!苦しいのか!?』
思い出す…。
灰色の巨船、一瞬で塵と化したナンシー、ラッジストの叫び声、流れる鮮血、仮面の男たち、
そして…
軍服を剥ぎ取られ、肢体を舐め回す不気味な舌の感触と生臭い吐息がもたらす嗚咽感…。
悲鳴を上げると殴られ、許しを乞いながら自ら身体を差し出すしか選択肢が無かった
絶望なる刻…。
暗闇から這い出してきた記憶が、一気にグリペンの全身を貫いていった。
ダンイルには知らされていないようだが、女性軍人であるグリペンには一目で分かった。
それが…ビタミン錠剤などではなく、堕胎薬だということを…。
『う…うう…ぐぅ…』
憧れの仲間たちとの未来も、軍人としての誇りも、人間として女としての尊厳も…何もかもが汚されて踏みにじられ目も当てられない程に無様な今の自分…。
叫び声を上げて、いっそのこと壊れてしまいたくなるような衝動にグリペンは涙を流し唇を噛みながら必死に堪えている。
『待ってろ!今、医者を呼んで来るからな!』
ただならぬグリペンの様子にダンイルが部屋を出ようとした途端、病室の扉が勢いよく開いた。
そこには、二人にとって見慣れた女の姿があった。
その胸には両手いっぱいの白い花束を抱えている。
『ロサード…?何でお前が…』
ダンイルの問いかけに、ロサードは眉を微かに動かした。
『ばーか。これが見えねぇのか?
花屋が来る理由なんて決まってんだろ。
花を届けに来たんだよ』
ロサードはぶっきらぼうにそう言って、ダンイルの足を蹴り乱暴に退かすと、呆気にとられているグリペンの方へと歩を進める。
『おい、待て…。
花を届けに…って、それは飛竜の餌の*花竜草*じゃ…』
基本的にドラゴンは肉食だが、飛竜だけは草食であり、特に季節に限らず一年中白い花を咲かせるこの植物の独特の香りを好み食す。
それにより、いつしかこの花は花竜草と呼ばれるようになったのだった。
ロサードは 、そんなダンイルの戸惑いに構わず、両手の花竜草をグリペンのベッドへと勢いよく放り投げてばら蒔いた。
『ひゃあ!』
『おい!ロサード!』
驚いた二人が声を上げるが、ロサードは楽しげな笑みを浮かべ、グリペンを見つめながら言う。
『グリペンちゃんは確か…この花が好きだったよな?』
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