【完結】イケメン好きだけどあなたの顔がいいと思っていることは知られたくありません!

かほなみり

文字の大きさ
上 下
7 / 13

気の迷いに違いない

しおりを挟む

 
「あああ~っ! もうもうもう!」

 ベッドの上でドスドスと枕を拳で叩き、ぼふっと顔を埋めた。

「何してるの私! 二回しか会っていない人にはいって返事したの⁉ でもあんな理想的な容姿の騎士に跪かれて愛を乞われて(ないけど)、私の大好きな小説みたいな状況で断れるわけがないわ! だって! 顔が好みなんだもの! どうしよう⁉」
「どうしようもありませんよ、おめでとうございますお嬢様」
「メグ!」

 がばっと顔を上げるとお茶を淹れているメグがちらりとこちらを見た。

「二回しか会ってないのよ⁉」
「政略結婚だと一度も会わないこともあるそうですよ」
「それはそうなんだけど!」
「嫌ならお断りすればいいんですよ」
「はいって言っちゃったのよ!」
「じゃあ仕方ないですねえ」
「そうなんだけど!」

 アデルはあの後、屋敷まで私を送り届け両親に挨拶をし、日を改めて申し込みに来ると約束をして帰って行った。
 お父様はまさか私が相手を見つけてくると思わなかったらしく、それはもう大喜びだった。
 悔しくてまた枕に顔を埋めると、ふう、とメグのため息が聞こえた。
 
「何がそんなに嫌なんです? 完璧な方なんでしょう?」
「……だからよ」
「だから?」
「あの人絶対浮気するわ。だってすごくモテるのよ⁉」
「なんですかそれ」
「私といたって他の女の子に手を振ったり愛想よくしたりできるのよ⁉」
「まあ、仕事柄、慣れてらっしゃるんでしょうねぇ」
「あんな見た目だけの人に歓声を上げる人の気が知れないわ!」
「お嬢様がそれ言います?」
「私は見た目と中身も重要なの!」
「旦那様と奥様にも丁寧にごあいさつされて、いずれ家督を継ぐ上に騎士の仕事にも就いて小隊の副隊長までされていて人望も厚くて、もう何も問題ないと思いますけど」
「随分詳しいわね⁉」
「そりゃあ大事なお嬢様を預ける方なんですから、私だって気になりますよ」
「まあ……、今日だって、初めてダンスがあんなに楽しいと思えたし? 何より顔がすごくいいと思うし。確かに今日の結婚の申し込みもそれは素敵だったわよ? 夜のテラスで跪いて私の手の甲に口付けを落として? まさに理想の騎士様だったわ、凄く格好いいのよ! そうよ、完璧だったわ悔しいけど!」
「お嬢様ってチョロいですね」
「チョロいって何よ⁉」
「素直という意味です」
「絶対言葉に悪意があると思うわ!」
「理想どおりの申し込みを受けることが出来て良かったじゃないですか」
「……そ、そうなんだけど、それだけじゃダメなのよ、結婚って……」
「まだ浮気も何もしていない人に対して、勝手に理想を押し付けて嫌がるのは失礼です」
「そ、そうだけど」
「お嬢様を泣かせるようなことがあれば、私がぶん殴ってやりますから」
「……メグなら本当にやりそうね」

 アデルは私に婚約を申し込んできた。
 本当に、私がいいんだろうか。私が、あの美しい人の婚約者に、特別になるんだろうか。

「……これからちゃんと、向き合って見るわ……」

 そう呟くと、メグがふふっと笑い声をあげた。

「本当にお嬢様は、素直で真っすぐで、可愛らしい方ですよ」
 
 その言葉は、美しいその人にも言われた言葉だった。

 
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

傲慢令嬢は、猫かぶりをやめてみた。お好きなように呼んでくださいませ。愛しいひとが私のことをわかってくださるなら、それで十分ですもの。

石河 翠
恋愛
高飛車で傲慢な令嬢として有名だった侯爵令嬢のダイアナは、婚約者から婚約を破棄される直前、階段から落ちて頭を打ち、記憶喪失になった上、体が不自由になってしまう。 そのまま修道院に身を寄せることになったダイアナだが、彼女はその暮らしを嬉々として受け入れる。妾の子であり、貴族暮らしに馴染めなかったダイアナには、修道院での暮らしこそ理想だったのだ。 新しい婚約者とうまくいかない元婚約者がダイアナに接触してくるが、彼女は突き放す。身勝手な言い分の元婚約者に対し、彼女は怒りを露にし……。 初恋のひとのために貴族教育を頑張っていたヒロインと、健気なヒロインを見守ってきたヒーローの恋物語。 ハッピーエンドです。 この作品は、別サイトにも投稿しております。 表紙絵は写真ACよりチョコラテさまの作品をお借りしております。

王宮医務室にお休みはありません。~休日出勤に疲れていたら、結婚前提のお付き合いを希望していたらしい騎士さまとデートをすることになりました。~

石河 翠
恋愛
王宮の医務室に勤める主人公。彼女は、連続する遅番と休日出勤に疲れはてていた。そんなある日、彼女はひそかに片思いをしていた騎士ウィリアムから夕食に誘われる。 食事に向かう途中、彼女は憧れていたお菓子「マリトッツォ」をウィリアムと美味しく食べるのだった。 そして休日出勤の当日。なぜか、彼女は怒り心頭の男になぐりこまれる。なんと、彼女に仕事を押しつけている先輩は、父親には自分が仕事を押しつけられていると話していたらしい。 しかし、そんな先輩にも実は誰にも相談できない事情があったのだ。ピンチに陥る彼女を救ったのは、やはりウィリアム。ふたりの距離は急速に近づいて……。 何事にも真面目で一生懸命な主人公と、誠実な騎士との恋物語。 扉絵は管澤捻さまに描いていただきました。 小説家になろう及びエブリスタにも投稿しております。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

【溺愛のはずが誘拐?】王子様に婚約破棄された令嬢は引きこもりましたが・・・お城の使用人達に可愛がられて楽しく暮らしています!

五月ふう
恋愛
ザルトル国に来てから一ヶ月後のある日。最愛の婚約者サイラス様のお母様が突然家にやってきた。 「シエリさん。あなたとサイラスの婚約は認められないわ・・・!すぐに荷物をまとめてここから出ていって頂戴!」 「え・・・と・・・。」 私の名前はシエリ・ウォルターン。17歳。デンバー国伯爵家の一人娘だ。一ヶ月前からサイラス様と共に暮らし始め幸せに暮していたのだが・・・。 「わかったかしら?!ほら、早く荷物をまとめて出ていって頂戴!」 義母様に詰め寄られて、思わずうなずきそうになってしまう。 「な・・・なぜですか・・・?」 両手をぎゅっと握り締めて、義母様に尋ねた。 「リングイット家は側近として代々ザルトル王家を支えてきたのよ。貴方のようなスキャンダラスな子をお嫁さんにするわけにはいかないの!!婚約破棄は決定事項です!」 彼女はそう言って、私を家から追い出してしまった。ちょうどサイラス様は行方不明の王子を探して、家を留守にしている。 どうしよう・・・ 家を失った私は、サイラス様を追いかけて隣町に向かったのだがーーー。 この作品は【王子様に婚約破棄された令嬢は引きこもりましたが・・・お城の使用人達に可愛がられて楽しく暮らしています!】のスピンオフ作品です。 この作品だけでもお楽しみいただけますが、気になる方は是非上記の作品を手にとってみてください。

女避けの為の婚約なので卒業したら穏やかに婚約破棄される予定です

くじら
恋愛
「俺の…婚約者のフリをしてくれないか」 身分や肩書きだけで何人もの男性に声を掛ける留学生から逃れる為、彼は私に恋人のふりをしてほしいと言う。 期間は卒業まで。 彼のことが気になっていたので快諾したものの、別れの時は近づいて…。

【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?

アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。 泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。 16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。 マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。 あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に… もう…我慢しなくても良いですよね? この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。 前作の登場人物達も多数登場する予定です。 マーテルリアのイラストを変更致しました。

密室に二人閉じ込められたら?

水瀬かずか
恋愛
気がつけば会社の倉庫に閉じ込められていました。明日会社に人 が来るまで凍える倉庫で一晩過ごすしかない。一緒にいるのは営業 のエースといわれている強面の先輩。怯える私に「こっちへ来い」 と先輩が声をかけてきて……?

私に告白してきたはずの先輩が、私の友人とキスをしてました。黙って退散して食事をしていたら、ハイスペックなイケメン彼氏ができちゃったのですが。

石河 翠
恋愛
飲み会の最中に席を立った主人公。化粧室に向かった彼女は、自分に告白してきた先輩と自分の友人がキスをしている現場を目撃する。 自分への告白は、何だったのか。あまりの出来事に衝撃を受けた彼女は、そのまま行きつけの喫茶店に退散する。 そこでやけ食いをする予定が、美味しいものに満足してご機嫌に。ちょっとしてネタとして先ほどのできごとを話したところ、ずっと片想いをしていた相手に押し倒されて……。 好きなひとは高嶺の花だからと諦めつつそばにいたい主人公と、アピールし過ぎているせいで冗談だと思われている愛が重たいヒーローの恋物語。 この作品は、小説家になろう及びエブリスタでも投稿しております。 扉絵は、写真ACよりチョコラテさまの作品をお借りしております。

処理中です...