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私の推しについて
しおりを挟む「はああ~っ! 今日も素敵だったわ……」
湯浴みを終え、鏡台の前で思わず声に出してしまった。胸に手を当て目を瞑り、昼間のお姿を思い出す。
「騎士の訓練服に身を包み汗を流す美しい人は今日も麗しく神の如き光を放ち、そして高潔だったわ……。あの神々しさを描き永遠に留めておきたい。けれどそんな神々しさからは想像がつかないほど、騎士団では一、二を争うほどの実力の持ち主。剣捌きや身のこなしは他者を圧倒し、けれど決して驕ることなく鍛錬に精を出すその姿勢。他の者たちとお話されるときの慈愛に満ちた表情。あれほどまでに完璧な騎士様がこれまでにいたかしら、いいえ、いないわ」
「お嬢様、全部声に出てますよ」
目を開けると鏡越しに私の髪を梳くメグと目が合った。
「出してるのよ」
「私は騎士になんて興味ありませんからどこか他で仰ってくれませんかね」
「友人たちとは今日も十分話したわ! 私はあの御方の尊さをもっと多くの人々に知ってもらいたいのよ!」
「はい、出来ましたよ」
「もう! メグ、聞いてるの⁉」
「お嬢様が騎士様に肩入れしてもう何日が過ぎましたかね」
「イヴァン様よ、イヴァン様! いい加減に名前を憶えてちょうだい!」
鏡越しに睨みつけてもメグは気にする様子はない。
「さあ、もうお休みになってくださいませ。明日も騎士団へ行くのでしょう?」
「そうね、イヴァン様を邪魔する者たちを排除すべく、明日に備えて万全の態勢で挑まなくちゃ!」
「その正義感はどこから来るんですかねぇ」
メグはひとつため息をつくと、私をベッドに追いやり部屋の灯りを静かに落とした。
――――イヴァン様。
それは、私が王都で開かれた騎士団の演習で初めてお見かけした新人騎士。
多くの騎士が正装に身を包み、陛下の前で演武を行った際、新人騎士で唯一参加していた方だ。
他者を圧倒する技術、そして美貌。
ピンクブロンドの髪、真っ白な肌に春の空のような薄水色の瞳。騎士の正装は長い手足のイヴァン様をより美しく見せるために誂えられたかのようだった。そのお姿に魅了されたのは、勿論私だけではない。
そのお姿を見た王都の貴族令嬢は、こぞってあの手この手でイヴァン様とお近づきになろうとした。伯爵家の嫡男である彼の婚約者の座を狙う者も多く、卑怯な手で誘惑しようとする者もいる言う。
なんて恥知らずなのだろう!
初めてそんな話を聞いた時、心底腹が立った。高潔な彼の魂を汚すような行為が許せなかった。あの、ひたすら真摯に向き合う姿を見て、よくもそんな邪な思いが持てるものだと、いても立ってもいられなかった。
あの御方の邪魔をするなら、私は容赦はしないわ。何者もあの御方の行く先を阻んではいけないのよ。
イヴァン様は神に近しい人。
尊いお方。
そう、イヴァン様は私の神であり唯一の推しなのよ!
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