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番外編:眠らない騎士4※
しおりを挟むその夜は、アメリアが喜んでくれそうな美しい庭と装飾が自慢のレストランを予約し、必ず彼女に思いを告げると決めていた。
まさかあんな扇情的なドレスを着てくるとは思わず、他人に見られるのが到底耐えられそうになかった。個室にして正解だったが、そこまでの移動の間にも誰かに見られているのではないかと周囲に視線を巡らせた。
抱えるように回した腰の細さと掌に触れた彼女の素肌に、びりびりと全身が痺れるようで、正直あまり覚えていない。
個室に移動し、食事を楽しみ笑い合う。
流れてくる音楽に合わせ二人向かい合い、抱き合うように静かに踊る。
アメリアの白い頬は赤く染まり、顔を上げようとしない。
そんな彼女を見下ろして、年頃の少年のように心臓がうるさく鳴り響く。彼女に聞こえているのではないかと気が気ではなかった。
(伝えても、いいだろうか)
出会ったばかりで、年下で、頼りなく思われているかもしれない自分に、アメリアがほんの少しでも気持ちを寄せてくれていると、そう思ってもいいだろうか。
「……僕は、貴女が好きです。アメリア」
それは本当に、これまでの人生で誰にも伝えたことのない、懇願するような、祈りにも似た言葉。
どうか僕をこのまま忘れないで欲しい。
貴女の人生を共に歩ませてほしい。
貴女は貴女のままで、僕にそばにいさせて欲しい。
アメリアは何も言葉にしなかったが、そっと上を向かせ覗き込んだ瞳は、決して拒絶するような色を見せず、美しく彩られた薔薇のような唇に口付けを落とすことを許してくれた。
そして僕は何ひとつうまく伝えられないまま彼女の柔らかな唇に触れて――、すっかり箍が外れてしまった。
*
焦るように移動した宿に到着してすぐ、僕たちは貪るように口付けをした。
その甘い吐息と時折漏れる微かな声に煽られ、だが破れないよう細心の注意を払って彼女のドレスを脱がせていく。
ベッドに移動し大切に優しく彼女の身体を横たえて、そのしなやかで美しい四肢に視線を走らせる。
最低限に落とされた灯りを艶めかしく跳ね返す陶器のような肌は、触れると滑らかで吸い付くようだ。
互いに上がった熱を分け与えるように触れ合い、彼女の身体中に口付けを落とす。
時折小さく零れる彼女の甘い声が、理性をどんどん追い詰めていく。
早く挿入したいのを堪え、しつこいと思われるほどに彼女の唇を貪った。甘い唇から熱い吐息が漏れる。舌を絡めるその気持ちよさに溺れそうだ。――いや、溺れた。
肌に触れながら時々会話を交わす様子から、僕はすっかりアメリアに経験があるものだと思い込んでいた。
僕ではない誰かと。
当然だろう。
彼女の美しさや聡明さに惹かれた男は必ずいるはずだ。彼女に恋人や、もしかしたら婚約者がいたかもしれない。だがそれでも構わなかった。僕の体温で、口付けで上書きして、この素晴らしい夜を一生忘れられないものにすればいいだけだ。
薄く透けたレースの向こうにツンと立ち上がる小さな蕾。豊かな胸を両手で持ち上げれば、指がふわりと沈み込む。
白い肌を赤く染めた彼女の潤んだ瞳は扇情的で、ゾクゾクと腰に痺れが走る。
早く入りたい。でもまだ駄目だ。
無意識に腰を揺らし彼女の太腿に擦りつければ、アメリアがギュッと目を瞑った。その姿に暴力的とも言える欲望がムクムクと湧き上がる。
優しくしたい、酷くしたい。
真綿に包みたい。食べ尽くしてしまいたい――。
アメリアの脚の膝裏を持ち上げ内腿に口付けを落とす。彼女の顔を見ながら、ちゅ、ちゅっと何度も口付けを降らせる。アメリアはそんな僕の視線を潤んだ瞳のまま受け止め、浅く呼吸を繰り返す。
頼むから今、そんな目で見ないで欲しい。理性が、焼き切れそうだ。
「ねえアメリア。今返事が出来なくても、ちゃんと約束してください。俺に時間をくれるって」
「な……、ぁっ、痛っ!」
衝動的にがぶりと内腿に歯を立てた。赤くなったそこをべろりと舐め、なめらかで柔らかな脚に頬を寄せる。白く柔らかなこの身体を食べてしまいたい。全て食べ尽くして、俺のものにしてしまいたい。
「……アメリアに思う人がいても、俺は絶対に諦めませんから」
すっかり蜜が滴っている密壺を、薄いレース越しに擦り捏ねると、ひと際高い声が上がる。
もう俺自身も限界だ。痛いほど張り詰めた半身が疼いて仕方ない。
アメリアのすっかり濡れた下着を取り払い、美しく甘い香りを放つ蜜壺にゆっくりと指を沈めると、アメリアの身体がこれまでと違い急に強張った。
その動きに、慌てて手を止めその表情を窺うと、アメリアはきつく目を閉じている。
まさか……まさか?
「……アメリア、もしかして貴女に触れたことのある人は、……いない?」
「そ、んな人、いないわ」
浅い呼吸と共にそう溢したその言葉に、一瞬で身体の中心から何かが湧き上がった。全身が熱くなり喉が詰まる。
「……迷惑なら、もう」
「そんな訳ない!」
彼女の柔らかな身体をきつく抱き締める。甘く、それでいて静かな森のような香りがする。
「そうじゃない、こんな……すみません、こんな、俺は」
焦って自分のことを優先した。彼女の気持ちに寄り添うべきなのに、自分を刻むことしか考えていなかった。自分の行いに自己嫌悪に陥ると共に、どうしようもない喜びが身の内から湧き上がる。
彼女はまだ誰にも、触れさせていなかった。
アメリアの肩口に顔を埋めると、髪を優しく梳かれる。
「貴方はいつも優しいわ」
「アメリア」
「ね、マリウス……やめないで」
初めてを俺にと、選んでくれたと、そんな風に思っていいのだろうか。
俺に好意を持ってくれていると、都合よく捉えていいだろうか。
「アメリア……」
これまでの貪るような口付けではなく、柔らかく唇を合わせる。舌先で唇を優しく舐め、そっと差し込むと彼女の小さな舌が迎え入れる。舌先で互いを確かめるように擦り合わせ、歯列や上顎を這い、飲み込むように深く深く入り込む。
息苦しくて顔を逸らしたアメリアの小さな耳朶が目の前に差し出され、そのまま舌を這わせると肩がびくりと跳ねた。
ゆっくりと解していた密壺にぐっと指を沈めると、柔らかく熱いそこは先ほどよりも難なく俺の指を迎え入れた。アメリアの顔を見つめながら浅いところをゆっくりとかき混ぜ、丁寧にほぐす。そのまま密壺の上につつましく咲く花芽に触れると、アメリアの口から嬌声が上がった。
蜜を纏った指でぬるぬると芯を捉え捏ねると、腰が跳ね身体を捩り快感から逃れようともがく。そんなアメリアの身体にやんわりと体重をかけ、抑え込んだ。
「……逃げないで」
すぐ近くで顔を覗き込みながら、蜜壺を掻き混ぜ花芽を執拗に捏ねて、半開きになった口元から覗く小さな赤い舌に時折口付けを落としながら、俺の腕の中で快感に打ち震えるアメリアを見つめた。
――俺のもの。この姿は、俺だけのものだ。
「……イって、アメリア」
アメリアの全身がピンと伸び、細い腰がグッとベッドから浮いた。つま先がシーツを蹴る。
意識が飛んだらしいアメリアに声を掛けると、ぼんやりと目を開けこちらを見た。半開きになっている唇に口付けを落とすと、すぐにやわやわとアメリアが吸い付いてくる。
(……ああ、かわいい)
初めての快感に翻弄され逃げ場がなくても、身体は正直に気持ちよさを求めてくる。
俺の舌に吸い付き、耳を食むと小さな声を上げ、豊かな丘陵を揉みしだけば首を仰け反らせる。そのまま口付けを全身に降らせ、あちこちに赤い痕を付けて下へ下へと降りていき、柔らかな太腿を掴み持ち上げた。
頭上でアメリアの慌てる声がしたが、その誰も知らない美しい蜜壺に吸い込まれるように、舌を伸ばす。
蜜を舐め、花芽を嬲る。
舌で転がし口に含み扱くと、がくがくと彼女の身体が震えた。
猛り切った俺の半身はもう暴発しそうだった。
自分でも引くほど上を向いた半身をゆるく扱き、アメリアの蜜を纏わせるとそれだけでイッてしまいそうになる。歯を食いしばり、慌てずゆっくりと、アメリアの蜜壺へ腰を進めた。
隘路を分け入り、時折アメリアの顔を窺う。
苦しそうにしていたが、それほど痛みはなさそうだ。
アメリアの中は、ただゆっくりと分け入っているだけだと言うのに熱く、柔らかく、だがぎゅうっと締め付け蠢いている。
(駄目だ、挿入れただけでイキそうだ)
グッと奥歯を噛みしめシーツを握りしめて彼女の最奥に到達する。
「まりうす……」
「はい……、最後まで、入りましたよ。痛くないですか?」
「ん……」
その言葉を聞いて大きく息を吐きだす。アメリアは頬を上気させうっすら額に汗を浮かべている。張り付いた髪をそっと耳に寄せると、ぐっとアメリアの中が締まった。
「……っ、アメリア、締めないでください」
「え、なに……」
「もう、動いても大丈夫そうですね」
アメリアの様子を見ながら、ゆっくりと腰を引き、押し付ける。
何度かゆったりと動いていると、アメリアの苦しそうな表情が段々と変わって来た。快感を拾い始めたのだろうか、動きに合わせて押し出されるようだった声が次第に高く、嬌声へと変わっていく。
ゆっくりだった抽挿がその声に煽られるように速さを増し、何度も名前を呼び叩きつけるように彼女の最奥を突いた。
何度も、何度も。
「好きです、アメリア……」
気を失いベッドに沈みこんだ彼女にもう一度、自分の思いを吹き込む様に伝える。
この言葉がどうか、貴女の心に刻まれますようにと、願いを込めて――。
*
――何がいけなかったのか。
彼女の身体を綺麗に拭い、風邪をひかないようにと寝衣を着せてから、落ちていたドレスを拾い濡れた下着を洗い干した。
明日の朝起きてから、彼女とまた話をして屋敷まで送り届ける。その前にまたカフェに寄って朝食を取るのがいいだろう。少しゆったりした朝を二人で迎え、そして僕は騎士団に戻って一度仕事の整理をしよう、そう考えながら眠る彼女の顔をじっと見つめていた。
ただ一度、瞬きをしただけだと思っていた。
目を閉じ、ゆっくりと瞼を開ける。
そこには、朝の光で明るく輝く白いシーツと、誰もいない冷えたベッドが僕の目の前にあるだけだった。
安心してしまった気のゆるみから、僕はすっかり寝落ちてしまったのだった。
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