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四日目 晩餐会と逃避行2
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「ま、マリウス!」
マリウスが私の下敷きになり、私を強く抱き締めていた。慌てて起き上がろうとするとさらに強く抱き締められて、鮮やかにあの切ない夜が蘇り、胸が苦しくなった。
「ま、マリウス、離して!」
「嫌だ!」
私を抱き締めたままマリウスが叫んだ。強く抱き締められ彼の胸から顔を起こすことも出来ない。
「そんな姿で庭に出ないで下さい! 怪我をしたらどうするんですか!」
「大丈夫よ、領地では裸足で駆け回ってたもの!」
「駄目です!」
マリウスは私強く抱き締めたまま、頑なに離さない。
「……マリウス」
「駄目です」
「何も言ってないわ」
「お願いしたじゃないですか」
ぐり、と私の髪に顔を埋めてマリウスは、はあっと深く息を吐いた。
「僕に時間をくださいと、お願いしたのに。どうしていなくなったんですか」
「……それ、は」
「僕を思い出にしないで下さい」
その言葉にぎゅうっと胸が苦しくなる。
でも、マリウスだって分かっているはずだ。私たちは同じ人生を歩めない。私たちは対等ではない。
「……貴方の事は、忘れないわ。でも」
「違う!」
マリウスは私を抱えたままがばっと起き上がった。胡坐をかき、膝の上に私を横抱きにして抱き締める。私の肩口に顔を埋め、ぐりぐりと額を擦りつけた。
「そうやって勝手に決めないでください。僕の気持ちを勝手に決めつけないでください!」
「マリウス……」
「僕は、貴女が好きです。好きで好きで、こんな風に誰かを強く求めるほど気持ちを揺さぶられたことなんてないんです。……貴女と一緒にいたいんです。出会ったばかりだけど、決して一時の気の迷いなんかじゃない」
微かに震えるマリウスの身体をそっと撫でると、びくりと大きく揺れた。けれど、力は緩めてくれない。
「マリウス……、感情だけではどうにもならないわ。貴方は伯爵家の人で、騎士団の立場ある人でしょう」
「……」
「私は領地に帰らなければならないし、貴方はここで仕事をしなければならない。たとえその気持ちが気の迷いじゃないとして、じゃあどうするの? お互いがどうやって歩み寄るの?」
「……それだけですか?」
「え?」
マリウスはゆっくりと顔を上げ、私の顔を覗き込んだ。
その顔は、頼りない年下なんかではなく、強い光を放つ一人の男性の顔。
「貴女の懸案事項はそれだけですか」
「どういう……」
「アメリアは僕のことを好いてくれてますか?」
「!」
私に逃げることを許さないと言うかのように、マリウスはじっと私から目を逸らさない。
「そ、そんなの」
「教えてください、アメリア。僕をどう思ってますか」
胸が痛い。喉がカラカラに乾いて痛い。苦しくて、どうしたらいいのか分からない。
「……な、なにも……思って、ないわ」
「嘘だ」
マリウスはぐっと私の頤を掴んで顔を上げさせた。強く睨むようなその瞳は、怒っているのかもしれない。
「ちゃんと言ってください。本当のことを言って」
「うそじゃ……」
「好きでもない僕と、貴女は肌を合わせた? 僕とこんなことが出来た?」
「マリウスやめ……」
マリウスは私の言葉を最後まで聞かず、後頭部をグッと掴み強く唇を合わせた。
「んうっ……!」
無理矢理舌で唇をこじ開けられ、激しく口内を弄られる。
抵抗しようと顔を振っても、マリウスの大きな手に押さえつけられ動けない。
舌を絡められ、激しく吸われて息が上がった。ぐちゅぐちゅと水音が響き、身体の芯に火が灯ったように熱くなった。
ぷっと唇が離れ、大きく息を吸い込む。唾液が口端から流れるのを感じた。
「……っ、ま、マリウス……」
「そんな顔で、俺のことが好きじゃないと言うんですか、アメリア」
唇を親指で拭われ、ちゅっと音を立てて口付けを落とされる。涙が滲んだままマリウスを睨めば、彼は表情が抜け落ちたような顔で私を見下ろしている。
「……好きじゃ、ないわ」
ただの火遊びだった。
そう思って欲しい。お願いだから。
「アメリア」
「好きじゃない。……どうも、思ってないわ」
目を合わせられない。痛いほどのマリウスの視線から逃げるように、俯き自分のドレスを見つめた。
「……分かりました」
やがて長い沈黙の後、マリウスは私を抱き締めていた腕を緩めると、私を開放した。
よろよろと立ち上がるとマリウスは私の前に跪き、どこかで脱ぎ捨てたはずの靴を優しく履かせた。
「……従者のようなことはしなくていいのよ」
「貴女にだけです、アメリア」
マリウスはそう言うと、私の乱れた髪とドレスを優しく整え、手を差し出した。
「ここは暗いですから。せめて回廊まで送らせて下さい」
「……ええ」
差し出された手に手を乗せて、ゆっくりと庭を二人で歩く。
回廊に出るとマリウスは無言のまま、騎士の礼を取り私に背を向け、そのまま去って行った。
白い月が煌々と光り庭を照らすのを背に、私を、置いて。
マリウスが私の下敷きになり、私を強く抱き締めていた。慌てて起き上がろうとするとさらに強く抱き締められて、鮮やかにあの切ない夜が蘇り、胸が苦しくなった。
「ま、マリウス、離して!」
「嫌だ!」
私を抱き締めたままマリウスが叫んだ。強く抱き締められ彼の胸から顔を起こすことも出来ない。
「そんな姿で庭に出ないで下さい! 怪我をしたらどうするんですか!」
「大丈夫よ、領地では裸足で駆け回ってたもの!」
「駄目です!」
マリウスは私強く抱き締めたまま、頑なに離さない。
「……マリウス」
「駄目です」
「何も言ってないわ」
「お願いしたじゃないですか」
ぐり、と私の髪に顔を埋めてマリウスは、はあっと深く息を吐いた。
「僕に時間をくださいと、お願いしたのに。どうしていなくなったんですか」
「……それ、は」
「僕を思い出にしないで下さい」
その言葉にぎゅうっと胸が苦しくなる。
でも、マリウスだって分かっているはずだ。私たちは同じ人生を歩めない。私たちは対等ではない。
「……貴方の事は、忘れないわ。でも」
「違う!」
マリウスは私を抱えたままがばっと起き上がった。胡坐をかき、膝の上に私を横抱きにして抱き締める。私の肩口に顔を埋め、ぐりぐりと額を擦りつけた。
「そうやって勝手に決めないでください。僕の気持ちを勝手に決めつけないでください!」
「マリウス……」
「僕は、貴女が好きです。好きで好きで、こんな風に誰かを強く求めるほど気持ちを揺さぶられたことなんてないんです。……貴女と一緒にいたいんです。出会ったばかりだけど、決して一時の気の迷いなんかじゃない」
微かに震えるマリウスの身体をそっと撫でると、びくりと大きく揺れた。けれど、力は緩めてくれない。
「マリウス……、感情だけではどうにもならないわ。貴方は伯爵家の人で、騎士団の立場ある人でしょう」
「……」
「私は領地に帰らなければならないし、貴方はここで仕事をしなければならない。たとえその気持ちが気の迷いじゃないとして、じゃあどうするの? お互いがどうやって歩み寄るの?」
「……それだけですか?」
「え?」
マリウスはゆっくりと顔を上げ、私の顔を覗き込んだ。
その顔は、頼りない年下なんかではなく、強い光を放つ一人の男性の顔。
「貴女の懸案事項はそれだけですか」
「どういう……」
「アメリアは僕のことを好いてくれてますか?」
「!」
私に逃げることを許さないと言うかのように、マリウスはじっと私から目を逸らさない。
「そ、そんなの」
「教えてください、アメリア。僕をどう思ってますか」
胸が痛い。喉がカラカラに乾いて痛い。苦しくて、どうしたらいいのか分からない。
「……な、なにも……思って、ないわ」
「嘘だ」
マリウスはぐっと私の頤を掴んで顔を上げさせた。強く睨むようなその瞳は、怒っているのかもしれない。
「ちゃんと言ってください。本当のことを言って」
「うそじゃ……」
「好きでもない僕と、貴女は肌を合わせた? 僕とこんなことが出来た?」
「マリウスやめ……」
マリウスは私の言葉を最後まで聞かず、後頭部をグッと掴み強く唇を合わせた。
「んうっ……!」
無理矢理舌で唇をこじ開けられ、激しく口内を弄られる。
抵抗しようと顔を振っても、マリウスの大きな手に押さえつけられ動けない。
舌を絡められ、激しく吸われて息が上がった。ぐちゅぐちゅと水音が響き、身体の芯に火が灯ったように熱くなった。
ぷっと唇が離れ、大きく息を吸い込む。唾液が口端から流れるのを感じた。
「……っ、ま、マリウス……」
「そんな顔で、俺のことが好きじゃないと言うんですか、アメリア」
唇を親指で拭われ、ちゅっと音を立てて口付けを落とされる。涙が滲んだままマリウスを睨めば、彼は表情が抜け落ちたような顔で私を見下ろしている。
「……好きじゃ、ないわ」
ただの火遊びだった。
そう思って欲しい。お願いだから。
「アメリア」
「好きじゃない。……どうも、思ってないわ」
目を合わせられない。痛いほどのマリウスの視線から逃げるように、俯き自分のドレスを見つめた。
「……分かりました」
やがて長い沈黙の後、マリウスは私を抱き締めていた腕を緩めると、私を開放した。
よろよろと立ち上がるとマリウスは私の前に跪き、どこかで脱ぎ捨てたはずの靴を優しく履かせた。
「……従者のようなことはしなくていいのよ」
「貴女にだけです、アメリア」
マリウスはそう言うと、私の乱れた髪とドレスを優しく整え、手を差し出した。
「ここは暗いですから。せめて回廊まで送らせて下さい」
「……ええ」
差し出された手に手を乗せて、ゆっくりと庭を二人で歩く。
回廊に出るとマリウスは無言のまま、騎士の礼を取り私に背を向け、そのまま去って行った。
白い月が煌々と光り庭を照らすのを背に、私を、置いて。
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