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二日目 朝のカフェテラスとパンケーキ1
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「アメリア、昨日の晩餐会はどうだった?」
翌朝、タウンハウスでハウスメイドの淹れてくれた紅茶を飲んでいると、王城で文官として勤務する弟イーサンが眠そうな顔で起きて来た。
「凄く贅沢な空間だったわ。私、結構目立ってたと思うのよね」
「ドレスが? アメリアが?」
「どういう意味よ」
ぼさぼさの髪を撫でつけてやると、イーサンは猫みたいに目を細めた。
「ドレスに興味を持ってくれたご婦人は何人かいたわ。今日はテーラーや商会と商談をする予定を入れているの」
「いい人いなかったの?」
「いい人って……」
昨夜の騎士をふと思い出す。彼は感じのいい青年だった。お陰で楽しい時間を過ごせたし。
「……そういう目的じゃないのよ」
「今、間があったよ」
「うるさいわね」
「俺はアメリアを応援するよ!」
「馬鹿なこと言ってないで早く食べなさい!」
クスクスと笑いながらハウスメイドがイーサンのカップに紅茶を注ぐと、さわやかな香りがダイニングに広がる。
王都にあるタウンハウスは領地を管理する伯爵家のものだけれど、王城で働くことになったイーサンのために、もう使っていないからと使用させてくれている。通いのハウスメイドが一人、料理人が一人。文官にしては贅沢な暮らしだ。
高齢になり子供のいない伯爵から領地管理を任された父は、長いこと領地の発展に寄与している。そして父と伯爵の信頼関係は厚く、いずれは父に伯爵を、一緒に領地経営をしている上の弟が男爵を叙爵することになっている。
下の弟イーサンは、王都での暮らしに憧れ早々に領地を離れて王都の学校で学び、優秀な成績で卒業し文官として採用された。
「でも真面目な話、領地じゃバリバリ働いてみんなの事こき使ってるけど、アメリアは美人なんだと思うよ」
「こき使うって何よ」
「年齢もさ、言わなきゃ分かんないしさ。若く見えんじゃないの?」
「あんたね、私のことはいいから自分のこと心配しなさいよ」
「大丈夫、俺モテるから」
「気のせいよ」
「ひでえ!」
「どっちが!? ていうか早く行きなさいよ、何時だと思ってるの!」
「げ、やべぇ」
イーサンは朝食を紅茶で慌てて流し込むと、タウンハウスを飛び出していった。
「さてと」
イーサンを送り出してふうっと息を吐く。
今日はテーラーと商会に商談に向かわなければ。生地とレースの見本を持って移動するには徒歩ではやや遠い。
辻馬車に乗って、少し早めに着いたら最近話題のカフェに行ってみようかしら。
「折角王都に来たのだから、こういう楽しみがなくちゃね」
ハウスメイドに馬車の乗り場を確認して、少し早くハウスを出発することにした。
*
「まだ開店前なのにこの行列なのね!」
辻馬車を降りて目的地のカフェに到着すると、カフェの開店と同時にすぐに満席、店の外には行列ができていた。
「どうしよう、並んでたら時間がなくなるかしら」
しかもこの大荷物。
けれど、他にどんなお店があるのかわからない。下手にウロウロと歩いても疲れてしまうし、道に迷っては本末転倒だ。
その時、並んでいた令嬢たちからわっと声が上がった。
それは、悲鳴というよりは歓声、けれど女性の声ばかりで少し高い声。
頬を赤らめた女性たちの視線の先に目を向けると、道の向こうに小さな人だかりができていた。その中心には見覚えのある濃紺のマントを纏った背の高い男性たち。
(騎士団員だわ)
濃紺のマントに白い礼服を着た騎士たちが声をかけてくる女性たちに笑顔で挨拶をしている。
(舞台俳優のような人気ぶりね)
ぼんやりと見ていると、ふと一人の騎士がこちらを見た。朝日を浴びて眩しいばかりに輝く金髪がふわりと風に揺れる。
「……え」
マリウスだ。
女性たちよりも頭ひとつ飛び出た彼が、間違いなく私を捉え大きく目を見開いたかと思うと、すぐにぱあっと笑顔を見せ手を振ってきた。
思わずぱっと顔を背ける。
別に何ってことではないんだけれど。
私に振ったのではないかもしれないし、でもあんなにお世話になったのに知らないふりをするなんて言うのは失礼だわ。
それにしても本当に実家のマーロウそっくりだわ! どんなに遠くにいても私を見るとすぐに走り寄ってくる黄金色のマーロウ。
こほん、とひとつ咳払いをしてそっと視線を人だかりに戻すと、すぐ目の前に満面の笑みでマリウスが立っていた。
「アメリア嬢!」
「マーロ……、んんっ、こほん、ビューロウ卿、おはようございます。もうご出勤ですか?」
危ないわ、マーロウって呼ぶところだった!
「おはようございます、これから詰め所に戻るところなんです」
「これから? まあ、それはお疲れ様です」
そうだ、私はあれで帰宅したけれど、彼等は一晩中警護についていたのだ。朝日の中詰め所に戻るなんて、つくづく大変な仕事だと思う。
「そうでもないんです。詰め所で報告をした後はゆっくり出来るんですよ。アメリア嬢はこれから朝食ですか? ここは人気店ですよね」
マリウスはそう言うと行列の先の入口に目を向けた。列に並んでいる人々の好奇の目が痛い。
「え、ええ。でもこの行列だし、この後の約束に響くから諦めようと思って」
「それじゃあ、よろしければ他のお店をご案内しますよ!」
「それは助かるけれど、ビューロウ卿はこれから詰め所に戻るのでは……」
「マリウス」
「え」
「マリウスです。アメリア嬢」
「……ま、まりうす」
「はい。ちょっと待っててくださいね」
そう言うとマーロ……マリウスはにっこりと笑顔を見せると、未だ女性たちに囲まれる騎士たちの元へ駆けて行った。
なんだかその後ろ姿に、ぶんぶんと勢い良く振る黄金色の尻尾が見える気がした。
翌朝、タウンハウスでハウスメイドの淹れてくれた紅茶を飲んでいると、王城で文官として勤務する弟イーサンが眠そうな顔で起きて来た。
「凄く贅沢な空間だったわ。私、結構目立ってたと思うのよね」
「ドレスが? アメリアが?」
「どういう意味よ」
ぼさぼさの髪を撫でつけてやると、イーサンは猫みたいに目を細めた。
「ドレスに興味を持ってくれたご婦人は何人かいたわ。今日はテーラーや商会と商談をする予定を入れているの」
「いい人いなかったの?」
「いい人って……」
昨夜の騎士をふと思い出す。彼は感じのいい青年だった。お陰で楽しい時間を過ごせたし。
「……そういう目的じゃないのよ」
「今、間があったよ」
「うるさいわね」
「俺はアメリアを応援するよ!」
「馬鹿なこと言ってないで早く食べなさい!」
クスクスと笑いながらハウスメイドがイーサンのカップに紅茶を注ぐと、さわやかな香りがダイニングに広がる。
王都にあるタウンハウスは領地を管理する伯爵家のものだけれど、王城で働くことになったイーサンのために、もう使っていないからと使用させてくれている。通いのハウスメイドが一人、料理人が一人。文官にしては贅沢な暮らしだ。
高齢になり子供のいない伯爵から領地管理を任された父は、長いこと領地の発展に寄与している。そして父と伯爵の信頼関係は厚く、いずれは父に伯爵を、一緒に領地経営をしている上の弟が男爵を叙爵することになっている。
下の弟イーサンは、王都での暮らしに憧れ早々に領地を離れて王都の学校で学び、優秀な成績で卒業し文官として採用された。
「でも真面目な話、領地じゃバリバリ働いてみんなの事こき使ってるけど、アメリアは美人なんだと思うよ」
「こき使うって何よ」
「年齢もさ、言わなきゃ分かんないしさ。若く見えんじゃないの?」
「あんたね、私のことはいいから自分のこと心配しなさいよ」
「大丈夫、俺モテるから」
「気のせいよ」
「ひでえ!」
「どっちが!? ていうか早く行きなさいよ、何時だと思ってるの!」
「げ、やべぇ」
イーサンは朝食を紅茶で慌てて流し込むと、タウンハウスを飛び出していった。
「さてと」
イーサンを送り出してふうっと息を吐く。
今日はテーラーと商会に商談に向かわなければ。生地とレースの見本を持って移動するには徒歩ではやや遠い。
辻馬車に乗って、少し早めに着いたら最近話題のカフェに行ってみようかしら。
「折角王都に来たのだから、こういう楽しみがなくちゃね」
ハウスメイドに馬車の乗り場を確認して、少し早くハウスを出発することにした。
*
「まだ開店前なのにこの行列なのね!」
辻馬車を降りて目的地のカフェに到着すると、カフェの開店と同時にすぐに満席、店の外には行列ができていた。
「どうしよう、並んでたら時間がなくなるかしら」
しかもこの大荷物。
けれど、他にどんなお店があるのかわからない。下手にウロウロと歩いても疲れてしまうし、道に迷っては本末転倒だ。
その時、並んでいた令嬢たちからわっと声が上がった。
それは、悲鳴というよりは歓声、けれど女性の声ばかりで少し高い声。
頬を赤らめた女性たちの視線の先に目を向けると、道の向こうに小さな人だかりができていた。その中心には見覚えのある濃紺のマントを纏った背の高い男性たち。
(騎士団員だわ)
濃紺のマントに白い礼服を着た騎士たちが声をかけてくる女性たちに笑顔で挨拶をしている。
(舞台俳優のような人気ぶりね)
ぼんやりと見ていると、ふと一人の騎士がこちらを見た。朝日を浴びて眩しいばかりに輝く金髪がふわりと風に揺れる。
「……え」
マリウスだ。
女性たちよりも頭ひとつ飛び出た彼が、間違いなく私を捉え大きく目を見開いたかと思うと、すぐにぱあっと笑顔を見せ手を振ってきた。
思わずぱっと顔を背ける。
別に何ってことではないんだけれど。
私に振ったのではないかもしれないし、でもあんなにお世話になったのに知らないふりをするなんて言うのは失礼だわ。
それにしても本当に実家のマーロウそっくりだわ! どんなに遠くにいても私を見るとすぐに走り寄ってくる黄金色のマーロウ。
こほん、とひとつ咳払いをしてそっと視線を人だかりに戻すと、すぐ目の前に満面の笑みでマリウスが立っていた。
「アメリア嬢!」
「マーロ……、んんっ、こほん、ビューロウ卿、おはようございます。もうご出勤ですか?」
危ないわ、マーロウって呼ぶところだった!
「おはようございます、これから詰め所に戻るところなんです」
「これから? まあ、それはお疲れ様です」
そうだ、私はあれで帰宅したけれど、彼等は一晩中警護についていたのだ。朝日の中詰め所に戻るなんて、つくづく大変な仕事だと思う。
「そうでもないんです。詰め所で報告をした後はゆっくり出来るんですよ。アメリア嬢はこれから朝食ですか? ここは人気店ですよね」
マリウスはそう言うと行列の先の入口に目を向けた。列に並んでいる人々の好奇の目が痛い。
「え、ええ。でもこの行列だし、この後の約束に響くから諦めようと思って」
「それじゃあ、よろしければ他のお店をご案内しますよ!」
「それは助かるけれど、ビューロウ卿はこれから詰め所に戻るのでは……」
「マリウス」
「え」
「マリウスです。アメリア嬢」
「……ま、まりうす」
「はい。ちょっと待っててくださいね」
そう言うとマーロ……マリウスはにっこりと笑顔を見せると、未だ女性たちに囲まれる騎士たちの元へ駆けて行った。
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