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新しい私たち、そして
しおりを挟む「ライアン様!」
「マクローリー嬢、ご無沙汰しております」
翌日、侯爵家の中庭に立つサンルームで小さなお茶会を開いた。
小さな、とは言ってもさすが侯爵家、中々豪勢なものだ。
美しく飾り付けたテーブルには先に到着していたご友人たちが婚約者や奥様を連れてすでに席に着いている。ライアン様の姿を見て、皆嬉しそうに手を挙げ挨拶を交わした。
「ご無沙汰しております。この度は本当にありがとうございました。お礼が遅くなってしまい申し訳ありません」
「とんでもない! 本当にご無事で何よりでした。それに、あの状況でも冷静な判断をしたマクローリー嬢に俺は感銘を受けたんですよ」
「まあ、大げさだわ! でも、わかっていただけて本当によかったわ。ライアン様のお陰です」
「いやあ、もしあそこでしくじっていたら、俺は今ここに存在していないでしょう」
アレク様を見ながら肩を竦めるライアン様に、ふふっと笑いが漏れる。アレク様は目を眇めながらライアン様に手を差し出し握手を交わした。
ライアン様はあの後、辺境には戻らず王都の騎士隊に配属されることになった。あの日の活躍と研鑽を積みたいという本人の意志で推薦してもらったらしい。ご実家にはその後戻っても問題ないとおおらかに笑った。
「今日はどうぞ、ご友人とゆっくりお過ごしくださいね」
「ありがとう、そうさせていただきます」
(そう言えば、ライアン様も前世でアレク様と繋がりのあった方なのかしら)
目の前でニコニコと笑うライアン様をじっと見つめる。私にもアレク様みたいに、この人の前世は誰か、なんてわかる能力はないのかしら。アレク様に聞いても、何のタイミングでどうしてわかるのか、ご自分でもわからないと言っていた。ただなんとなく、そうだと確信するらしい。ちなみにアナのことはお姉様だとわかった今でも、観察しても何もわからないらしい。
それはアナも言っていた。不思議だわ。
「……レディ、そんなに見つめられると俺の命が危ないのですが」
「えっ?」
「ライアン、もういいだろう」
低い声で牽制するようにアレク様が私の肩を抱き引き寄せた。
「いや、俺なにもしてねえだろ!」
「うるさい、座れ」
(本当に仲がいいのね)
別に、生まれ変わりではなくてもいいのかもしれない。記憶があってもなくても関係なく、彼らは今、関係を築いているのだ。
ハンスに前世の記憶があるのかわからないけれど、別にそれは確認する必要もなく彼は今もアレク様のもとで騎士として働いているし、侯爵閣下は記憶がなくても夫人と恋に落ちて結婚し、アレク様とサーシャ様が生まれた。
きっと、それでいいのだ。
「ところで、今日はレディの侍女はいらっしゃいますか?」
ライアン様がキョロキョロと辺りを見渡した。
「あら、アナですか? ええ、もちろん……、アナ?」
振り返ると少し離れた場所で鉢植えに身を隠すようにアナが立っている。名を呼ばれ、肩をビクリと震わせた。
「アナ、と言うんですね。彼女のお陰であの日はとても助かりました。ご挨拶をさせてください」
「ええ、もちろん」
呼ぼうとするのをやんわり遮られ、ライアン様は自らアナへ近づき声をかけた。
会話は聞こえないけれど、彼を見上げるアナの頬がみるみる赤くなっていくのを見て、アレク様と顔を見合わせた。
(あら……)
なんだかロマンス小説みたいだな、と頭の片隅で思いながら、私の肩を抱くアレク様を見上げる。
アレク様もなんだか嬉しそうな、それでいて少しくすぐったいようなお顔をして、二人を見つめていた。
*
――そしていつの日からか、夢は見なくなった。
アレク様ももう、あの日々のことを口にしない。
彼らは確かに私たちだったけれど、今の私たちとは違う人生を歩んだ人たちだ。
今の私たちは彼らを大切に胸に抱き、彼らの想いと溶け合って私たちの人生を歩む。
あの辛かった思いを救われて、私たちはきっと、彼らから私たちに生まれ変わったのだ。
「――ユフ、行きましょう」
そう言って笑う目の前のアレク様に、あの愛しかった日々の中に息づく高槻レンの面影を感じながら、私は今、彼のすべてを心から愛し慈しむ。
前世では描けなかった美しい未来を、二人で共に歩むために。
『――ゆふセンセ!』
――愛しい君が、どうか幸せになれますように。
私はそれを、心から願ってる。
これからも、ずっと。
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一気読みさせていただきました!
とてもとても面白かったです。
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これ、書籍になってもいいんじゃないかな。
新作も楽しみにしてます😊
ジャースミンさま
お読みいただきありがとうございます!
嬉しいお言葉…🥹
本当にありがとうございます🍀✨
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見守ってくださり、ありがとうございました!
更新ありがとうございます!
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お読みいただきありがとうございます!
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みきざと瀬璃さま
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よろしくお願いいたします。