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しおりを挟む「……っ!?」
後頭部を大きな手が押さえ、腰に回された腕が私の身体を強く引き寄せる。密着した身体はまるでパズルのように隙間なく重なった。
熱いレンナルトの唇が私を食べるように下唇を食む。
目の前の美しい瞳は伏せられ、長い睫毛がその瞳を隠した。
(~~っ!)
レンナルトのその突然の行動に、突き放すはずが思わずその腕にしがみついた。
混乱し身体を固くする私を宥めるように、レンナルトの手が腰を撫で背中を撫でる。そちらに気を取られれば、くいっと下唇を甘噛みされ引っ張られて、思わず口を開くとぬるりと舌が口内に侵入してきた。レンナルトの舌が歯列を舐め、上顎をぐりっとなぞった途端、身体の力が抜ける。頽れそうなのを必死に耐え、けれどそれに気が付いたレンナルトの手が私を支えた。
「……ゾーイ」
時折漏らすように名前を呼ぶレンナルトの声に、ぞくぞくと身体が痺れる。
レンナルトの舌が私の舌を絡めとり、じゅうっと音を立てて吸い上げる。合わせた唇から響くくちゅくちゅという水音に、頭がおかしくなりそうだった。何も考えられない。
ただ与えられる甘美な刺激から逃れられず、受け止めるしかできない。
「っ、ぁっ、ま、まって……」
レンナルトの唇が離れ、ぬるりと首筋を舐める。甘い痺れを逃したくてしがみつくそれは、レンナルトの首。ぎゅうっと掴むのは、彼のジャケット、そして金色の髪。
私の腰を持ち上げテーブルに押し付けて、掌が腰から背中、そして脇腹を通りするりと下胸を撫で上げた。
「れ、レン……っ、ま……っ!」
グイっとレンナルトが脚の間に身体を割り込ませてきた。逃れようと身を捩ると、耳をべろりと舐め上げられ、耳朶を口に含まれる。頭にぐちゅぐちゅと水音が大きく響き、力が入らない。
「れ、レン……!」
(これ以上はだめ……!)
頭がくらくらする。
何も考えられないまま、気持ちよさに溺れてしまいそう。震える腕でギュッとしがみつき、私は目の前のレンナルトの首筋に思いっきり、噛みついた。
「いっ……ってぇ!」
パッとレンナルトが身体を離した。でも手はまだ私の腰に回っている。
「……っ! ゾーイ! それは痛い!」
レンナルトがぐぐぐ、と呻き声をあげて私の肩に顔を埋めた。ぎゅう~っと私の身体をきつく抱きしめる。
「や、止めないからよ!」
いつ誰が来るかわからないこんなところで、これ以上いったい何をしようというのか。
力が入らない手でバシンッとレンナルトの背中を叩くと、呻き声をあげていたレンナルトがやっと顔を上げた。眉根を寄せて私の顔を覗き込むその瞳にはうっすら涙が浮かんでいる。首にはしっかり歯形がついて、何なら血が滲んでいる。
ちょっとやりすぎたかも。だって力加減がわからないんだもの。
レンナルトの瞳が私の顔を覗き込むと、なぜかすぐに目元を和らげた。
「……そんな顔初めて見た」
「は!?」
「かわいい」
「か、かわ……?」
そういうとまたぎゅうっと私を抱き締める。
たった今首を噛まれたことを忘れたのだろうか。
何? 痛いのが好きなの?
「な、なに言ってるのバカ! 離してってば!」
「やだ」
ぐり、と首筋に顔を擦り付けて、すうっと深く息を吸うレンナルト。匂いを嗅がれている気がして慌ててしまう。
「レンナルト!」
「ねえ、そうやって俺のこと意識してよ、ゾーイ。お願いだから」
その声は懇願するような、切ない響きを持っていた。
*
「はあ……」
姿見で自分の姿を確認し、何度目かのため息をついた。
あれから三日。
医師の許可も降り、私は職務に復帰することになった。
久しぶりの隊服に身を包み、剣を腰に佩いて身が引き締まる思いは確かにするのだけれど、憂鬱な気持ちにまたため息をついた。
結局あの日、レンナルトはそれ以上私に何もすることはなく、あっさりと私を離し食事を再開した。
正直それどころではなかったけれど、何も知らないウェイターが食事を運んできたのを残すのは申し訳ない。そう言うとレンナルトはゾーイらしい、と声を上げて笑った。
人生でこれ以上ないというほど気まずい思いをしながら、それでも料理をおいしくいただいてきた。ワインも、必要以上に飲んだ気がする。おいしかったけれど、本当に味がわかっていたのかは不明。
それからレンナルトとは会っていない。
しっかり考えようと思っていた身の振り方も答えが出ていない。
まずは隊長室に来るよう言われているので、おそらく打診されていた指導者の件について答えを出さなければならないのだと思うけれど、何も決められないまま今朝を迎えてしまった。
(どうしよう……レンナルトと会うのも気が重い)
私のことを好きだといったレンナルト。私と一緒にいたいから強くなったのだと言ったレンナルト。
(意識してって……これ以上ないくらい意識してる)
私だってレンナルトと一緒にいたくて努力もしてきた。でもそれは、レンナルトと同じ気持ちだろうか。
『そういう意味じゃないように、振舞ってきた』
考えないようにしてきた。時折感じる胸に抱く気持ちは、特別な相棒に対する気持ちなのだと自分で思っていたし、今も思っている。
騎士として同じ立場でレンナルトと肩を並べたかった。足手まといにはなりたくなかったし、女だからと見下されるのも嫌だった。
だからこそ、今こうして岐路に立たされていることにとても憂鬱になっている。
(決めなければならない)
騎士としてどう歩んでいくか。
レンナルトのことを、どう思っているのか、そしてこれからどうするのか。
言葉にして、答えを出さなければならない。その事実に直面し、狼狽える自分が嫌だった。
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