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いつも自然に1

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 タウンハウスに滞在する時間もほどほどに、私たちはくだんの箱を持って王城へ戻った。
 滞在している部屋へ戻り、護衛を下げて二人きりになった私たちはテーブルを挟み向かい合わせに座った。エドアルドは背凭れに背を預けて腕を組み、カードをひらひらと振っている。
 カードを穴が開くほど見つめていた彼はテーブルにカードを置き、私に向かってにこりと笑った。

「私ではないよ」
「そう、でしょうね」

 じゃなかったらあの場であんな怖い空気出さないと思うもの。

「君は私からのものだと思い、恥ずかしさのあまり人に見られたくなくて厳重に封印した、というところかな」
(何故ちょっと嬉しそうに言うのかしら)

 先ほどの冷たい雰囲気から一転、エドアルドは穏やかな表情で腕を組み考えている。顎に手をやるその仕草に、美丈夫はどんな姿も美しいとぼんやり感想を抱いた。
 
「君が身に着けなくてよかった」
「え?」
「私の知らないところで君がこれを身に着けていたら、とても平静ではいられないよ」
(それは一体どう意味なのかしら⁉)

 とてもそんな風に見えないにこやかな笑顔で言うエドアルド。

「な、なぜエドアルド様の名前で送って来たのでしょうか」
「うん……見たところおかしな術がかけられた様子もないし、本当にただの下着だね」
「みっ、見せないでください!」
 
 ひらりと下着を持ち上げるエドアルドの手から慌てて取り返し、箱にしまう。

「顔が赤いよルディ」
「当たり前です!」

 くすくすと身体を揺らして笑うエドアルドは、テーブルに置いたカードをトンっと指で突いた。

「これも私の筆跡を真似して書かれているね」
「そう、なのですね」
「こんな安っぽい文章は書かないけど」
「では何と書くのですか?」
「知りたい?」
「えっ、ま、また今度⁉」
「ははっ」

 いたずらっ子のように瞳を光らせ上目遣いに私を見るエドアルドの視線に、また顔が熱くなる。
 エドアルドがカードを箱の上に置き、掌を翳して小さく何事か呟くと、箱は白い光を放ち光と共にテーブルから消えた。

「魔術師の下へ送った。念のためもう少し詳細を調べてもらおう」
「あ、あの箱もですか⁉」
「一緒に調べてもらわないと」
「そうですけど……!」
(私のではないけれど凄く恥ずかしいのよ!)

 両手で顔を覆いながらごにょごにょと返事をすると、エドアルドはまたおかしそうに笑い、向かいの席から移動して隣に腰掛けた。

「ルディ、昼食を共に取りたいところだが、ちょっと執務に戻る」
「は、はい」
「いい子で過ごすんだよ」
「言われなくても暴れたりなどしません」
「どうかなあ」

 エドアルドは楽しそうに笑いながら、ポケットから金色のチェーンのネックレスを取り出した。

「じっとしていられない君に、これを贈らせてほしい」
「それは?」

 差し出された掌に載っているのは、薄い青の宝石。
 よく見ると、緑やオレンジ、黄金色が複雑に煌めき、じわじわと動いている。

「……魔法だわ。すごくきれい」
「君を守る魔法をかけている。何かあったら私のことを思い浮かべてくれたら、すぐに駆け付けるからね」

 エドアルドはそう言うと私の背後に回りネックレスをつけてくれた。うなじに触れる指のくすぐったい感覚に、顔が熱くなり俯く。恥ずかしくて、なにか話題がないかと思考を巡らせた。

「ここにいれば何も起こらないのではないのですか?」
「念のためだよ」
「思い浮かべるだけで、すぐに転移魔法を?」
「そう。君が私のことを思ってくれるだけで、私はすぐに駆けつけるよ。例え会議中でもね」

 くすくすと笑うエドアルドの吐息がうなじにかかり、ますます顔が熱くなる。大丈夫だろうか、赤くなっていないかしら。
 
「そ、そんな簡単に来られるのでは、容易に思い浮かべられないわ。無意識に考えてしまうかもしれないのに……」
「それは、いつも自然に私のことを考えてくれているということ?」
「!」
(やだ、私ったら何を言ってるの!)

 慌てて両手で口元を覆うと、背後から手首を捕まれ剥がされる。
 
「ルドヴィカ」

 身を乗り出し私の顔を覗き込むエドアルド。熱くなった顔を向けると、見上げた先の青い瞳がすぐそばにあった。
(あ、……口付け、される)
 近付いてくるエドアルドの瞳を見つめ、自然と目を閉じ受け入れた。
 柔らかな唇が触れ、押し付けられてすぐに音を立てて離れる。それがなんだか寂しくて、思わず追いかけるように身を乗り出すと、今度は強く押し当てられやわやわと唇を食む。掴まれていた手首は自然に指を絡めつなぎ、ちゅ、ちゅっと音を立てて互いの唇を食むうちに、いつの間にか背中にソファの感触があった。
 見上げると、私に覆いかぶさったエドアルド。目元を赤く染め、私を見下ろすその瞳はキラキラと光り美しい。
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