甘い声で私を呼んで〜年上の御曹司は溺愛を我慢できない〜

かほなみり

文字の大きさ
上 下
4 / 8

しおりを挟む
 各フロアで一人、また一人とエレベーターを降りて行く。
 カイさんのいる部屋は重役の部屋しかないフロアで、そこまで乗っていく人は私たち以外にいない。最後の一人がカイさんに会釈をしながら降りて行くのをぼんやりと見送り、静かにドアが閉まるのと同時に、視界が陰り、気が付くと目の前がカイさんでいっぱいになった。

 名前を呼ぼうと見上げると、壁に押し付けられ後頭部を大きな手で支えられて唇が塞がれた。
 ちゅ、と柔らかく押し当てすぐに離れて、はむ、と唇を喰まれる。
 やわやわと唇の柔らかさを堪能するように何度も柔らかく押し当てられたカイさんの唇は、頬にこめかみにキスを落とし、そして耳元に移動した。

「…もも、会いたかった」

 その低く掠れた声に、不覚にも鼻の奥がツンとする。カイさんのスーツにしがみ付いて、言葉を発すると泣いてしまいそうで、黙って頷いた。

 カイさん、カイさん、カイさん。

 言葉に出来なくてもまるで聴こえているように、カイさんは「うん」と言いながら私を柔らかく抱き締めた。
 カイさんの後ろでエレベーターが到着する音を知らせた。慌てて身体を離すと、カイさんは繋いだ手をそのままにエレベーターを降りる。

「え、あの」
「誰もいない」

 そう言うとカイさんは廊下を進み、奥の扉をネームで解錠すると、私の手を取ったまま入室した。

 大きな窓にシンプルなデスク、応接セットに壁には大きなモニターが掛けられている。
 ドラマのセットのような部屋の誂えと景色に気持ちを奪われていると、カイさんは持っていた珈琲と私の手から取り上げたタブレットをデスクに置き、私を腕の中に閉じ込めた。

「もも? なんか言って」

 そう言って私の耳にキスをする。

「ほら、洋海が来てしまう」

 低い声が直接耳に吹き込まれて、背中がゾクゾクする。電話で聞くのとはやっぱり違う。
 唇が触れている耳の先から熱を持つのが分かって、カイさんもそれに気が付いたのか、ふっと耳元で笑うと耳朶を食んだ。

「…っ、あ」

 くちゅ、と耳元で水音がしてカイさんの舌がねっとりと耳を這う。

「あ、の、まって、待って…っ」
「んー? 何も言わないならこのまま…」

 カイさんの唇が耳から首へと降り、唇で食まれ、舌がゾロリと首筋を舐める。大きな手が背中を這い、スカートの中へ手が入り込んだ。

 まっ、待って待って待って~!!
 こんなところで何する気!?

「さっ、さっき…っ、んあっ」

 スカートの中に入り込んだ手が大きくお尻を掴み揉みしだいた。
 やだもう、手つきがいやらし過ぎる!!

「はあ…もも、いい匂い…柔らかい…」
「もう! ダメですってば!」
「確かに、ダメだな…止まらなくなる」

 揶揄われているのは分かるけどまだカイさんの腕の中にいたくて、熱い顔を胸元に押し付けてじっとしていると、頭上からふわりと笑う気配がした。
 そして、頭にひとつキスをして、低い声で囁く。

「今日はうちに来て」

 その言葉にあっという間に顔が熱くなった。

 ねえ、私が恥ずかしがるって分かってて言ってるのかな? 何その破棄力!

 笑いを含む声で頭やこめかみに沢山キスをしながら、カイさんが私の背中を大きく撫でる。恥ずかしくて顔を上げられなくて、何度もカイさんの腕の中で頷いた。

「もーも? 返事は?」
「は、はい!」
「よし、じゃあコレ。持ってて」

 カイさんは身体を離すと内ポケットからカードキーを取り出した。自宅の鍵がカードキーって、なんかそれだけで凄そう…。

「俺はちょっと遅くなるかもしれないから、先に行ってて欲しい。住所は後で送るから」
「わ、分かりました…」

 カイさんの家、初めて行く…。
 てっきり時々連れて行ってくれるホテルで食事をするんだと思ってた。え、お泊まりセットとか…いる…??

「…ご、ご飯はどうしますか」
「俺が作る。これでも得意なんだよ」
「え、そうなの?」
「そう。楽しみにして」

 ふっ、と口許に笑みを浮かべてカイさんは私の顎に指をかけ、親指で唇をなぞった。

「やっとこっち見た」

 ちゅ、と音を立てて唇にキス。

「だ、だだだって…っ」
「俺は会えてこんなに嬉しいのに、顔を見せてくれないなんて」
「み、見せましたよ! さっき下で…」
「…っ、ぶふっ」

 何かを思い出したのか、カイさんが吹き出した。
 
「…さっきも笑ってたけど、何がおかしいんですか?」
「いやだって…真っ赤な顔して目を潤ませてふるふる震えてるからさ…、正月にテレビで見た仔犬思い出したんだよ…」
「…ちなみに犬種は」
「セントバーナード」
「なんか酷くないですか!?」
「いやすごく可愛い」

 嘘だ!! いや仔犬は可愛いけど! そこは嘘でもチワワとかさ、あるじゃない!? なんで大型犬!?

 身体を揺らして笑うカイさんの腕から逃れようとジタバタする私を、カイさんは笑いながら「ごめん」と宥め、抱き締めて離さない。

 …うん、まだくっついていたい。

 でもそこに、コンコン、と扉をノックする音が響いた。洋海さんが来たのかな。

「今開ける、ちょっと待て」

 カイさんはそう言うと、私の頭を撫でてちゅ、と頬にキスをして身体を離した。見上げると優しく甘い笑顔で私を見下ろすカイさん。
 名残惜しいのは私だけじゃないと言われている気がして、胸がくすぐったくなる。

 カイさんから離れてサッと服や髪を整える。…乱れてないかしら。

「カイ! あけましておめでとう!」

 カイさんが扉を開けるとすぐに響いた明るい女性の声。

「白波瀬《しらはせ》」
「何よ、戻ったんなら連絡くれたらいいのに…って、アラ? インターンのももちゃん」
「おはようございます」
「おはよう! やらしいわね、何若い子連れ込んでるのよ」
「人聞きの悪いことを言うな。洋海が席を外してるだけだ」
「え~? ももちゃん、変なことされてない?」
「いっ、いいえ、ナニも…」

 白波瀬さんは広報部門のチーフで、私がインターンを開始した時に座学でお世話になった、背が高くとびきり美人の明るい女性。カイさんと同期のバツイチで、一時はモデルも務めていたと洋海さんが言っていた。

 サラサラのストレートヘアを片側に流してベージュのセットアップをスタイル良く着こなす白波瀬さんは、にっこりと笑うと私の肩を叩いた。

「何かあったらちゃんと言うのよ」
「おい白波瀬、いい加減にしろ」

 二人の間に流れる長年の信頼関係。踏み込んではいけない気がして黙っていると、カイさんが私に自分が持って来た珈琲を差し出してきた。

、インターンの期間は今月いっぱいだったね」
「は、はい」
「うちの会社、好きになってくれるといいんだけど」

 私の手に珈琲を握らせ、白波瀬さんには見えないようにすっと指で手の甲をなぞられる。

「無理しないように」

 そう言ってふんわり笑うカイさんの笑顔に、図らずもときめいてしまう。慌てて目を逸らして頭を下げた。

「あ、ありがとうございます」
「出た、カイの人たらし」
「何だそれ」

 カイさんは怪訝な顔でニヤニヤ笑う白波瀬さんを睨む。

「お待たせ~、アレ? 白波瀬さん」
「洋海、あけおめ」
「何してるの?」
「広報として、将来我が社を背負って立つ佐藤常務に新年のご挨拶」

 珈琲を両手に開けっぱなしの部屋へ入室してきた洋海さんの手から、白波瀬さんはサッと珈琲を受け取る。「あっ」という洋海さんに笑顔でお礼を言う白波瀬さん。

「あの、それじゃあ私はこれで…」
「あ、ももちゃん、ありがとう」
「いえ! 失礼しました」

 頭を下げて部屋を出る時、視界の隅に捉えたカイさんは、じっと私を見ているようだった。


しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

契約結婚のはずなのに、冷徹なはずのエリート上司が甘く迫ってくるんですが!? ~結婚願望ゼロの私が、なぜか愛されすぎて逃げられません~

猪木洋平@【コミカライズ連載中】
恋愛
「俺と結婚しろ」  突然のプロポーズ――いや、契約結婚の提案だった。  冷静沈着で完璧主義、社内でも一目置かれるエリート課長・九条玲司。そんな彼と私は、ただの上司と部下。恋愛感情なんて一切ない……はずだった。  仕事一筋で恋愛に興味なし。過去の傷から、結婚なんて煩わしいものだと決めつけていた私。なのに、九条課長が提示した「条件」に耳を傾けるうちに、その提案が単なる取引とは思えなくなっていく。 「お前を、誰にも渡すつもりはない」  冷たい声で言われたその言葉が、胸をざわつかせる。  これは合理的な選択? それとも、避けられない運命の始まり?  割り切ったはずの契約は、次第に二人の境界線を曖昧にし、心を絡め取っていく――。  不器用なエリート上司と、恋を信じられない女。  これは、"ありえないはずの結婚"から始まる、予測不能なラブストーリー。

【完結】目覚めたら男爵家令息の騎士に食べられていた件

三谷朱花
恋愛
レイーアが目覚めたら横にクーン男爵家の令息でもある騎士のマットが寝ていた。曰く、クーン男爵家では「初めて契った相手と結婚しなくてはいけない」らしい。 ※アルファポリスのみの公開です。

【完結】異世界に転移しましたら、四人の夫に溺愛されることになりました(笑)

かのん
恋愛
 気が付けば、喧騒など全く聞こえない、鳥のさえずりが穏やかに聞こえる森にいました。  わぁ、こんな静かなところ初めて~なんて、のんびりしていたら、目の前に麗しの美形達が現れて・・・  これは、女性が少ない世界に転移した二十九歳独身女性が、あれよあれよという間に精霊の愛し子として囲われ、いつのまにか四人の男性と結婚し、あれよあれよという間に溺愛される物語。 あっさりめのお話です。それでもよろしければどうぞ! 本日だけ、二話更新。毎日朝10時に更新します。 完結しておりますので、安心してお読みください。

【完結】私の推しはしなやかな筋肉の美しいイケメンなので、ムキムキマッチョには興味ありません!

かほなみり
恋愛
私の最推し、それは美しく儚げな物語に出てくる王子様のような騎士、イヴァンさま! 幼馴染のライみたいな、ごつくてムキムキで暑苦しい熊みたいな騎士なんか興味ない! 興奮すると早口で推しの魅力について語り出すユイは、今日も騎士団へ行って推しを遠くから観察して満足する。そんなユイが、少しだけ周囲に視線を向けて新しい性癖に目覚めるお話…です?

イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?

すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。 「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」 家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。 「私は母親じゃない・・・!」 そう言って家を飛び出した。 夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。 「何があった?送ってく。」 それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。 「俺と・・・結婚してほしい。」 「!?」 突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。 かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。 そんな彼に、私は想いを返したい。 「俺に・・・全てを見せて。」 苦手意識の強かった『営み』。 彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。 「いあぁぁぁっ・・!!」 「感じやすいんだな・・・。」 ※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。 ※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。 それではお楽しみください。すずなり。

ヤクザの若頭は、年の離れた婚約者が可愛くて仕方がない

絹乃
恋愛
ヤクザの若頭の花隈(はなくま)には、婚約者がいる。十七歳下の少女で組長の一人娘である月葉(つきは)だ。保護者代わりの花隈は月葉のことをとても可愛がっているが、もちろん恋ではない。強面ヤクザと年の離れたお嬢さまの、恋に発展する前の、もどかしくドキドキするお話。

溺愛恋愛お断り〜秘密の騎士は生真面目事務官を落としたい〜

かほなみり
恋愛
溺愛されたくない事務官アリサ✕溺愛がわからない騎士ユーリ。 そんな利害が一致した二人の、形だけから始まったはずのお付き合い。次第にユーリに惹かれ始めるアリサと、どうしてもアリサを手に入れたい秘密を抱える騎士ユーリの、本当の溺愛への道。

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

処理中です...