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最終章 深淵
幕間2 闇の入り口
しおりを挟む深夜。
森が一番活動的になる時間。闇に紛れて蠢くモノたち。
視力と聴力の指示で一番警戒の薄い塀を越え、男達は深淵の森を奥へ奥へと進んで行く。軍では撤退の指示が下り、砦から派遣されていた軍は現場を警戒する小隊のみを残した。
動くなら今夜しかない。
辺境伯が王都から戻って暫く、行動は起こしていなかった。目を付けられては動き難い。
だが、痺れを切らしたあちらから、もっと濃度の高いものを送るよう指示が来るようになった。
そろそろ動く時かもしれないと機会を窺っていると、剃髪の男が精製した原料の副産物が魔物を呼び寄せ狂わせる効果があると分かった。
いや、そもそも初めからあれらは狂っている。ただ共食いをしなかっただけではないか。
「そろそろ深淵の側だ」
背の高い男が足を止め周囲を伺う。
遠くに魔物の気配、動物の気配を感じるが監視されているような気配はない。何かあれば視力の男が知らせる手筈になっている。
腕力の男が懐から瓶を取り出し、深淵に向かって投げた。
暫くして、パンッと瓶の割れる音がした。
「よし、拡散して待機だ」
森の木々が途切れる向こう、開けた場所の更に奥にぽっかりと真っ黒な口を開ける深淵。
そこから魔物は這い出てくる。あの深淵の底がどうなっているのかなど、誰も知りはしない。知ったところで生きて戻れはしない。
暫く身を潜めていると、耳に不快な音を拾った。
それは大きなズルズルと引きずるような音、ビュービュー、ゴロゴロと水音が絡んだような複数の呼吸音。
そして、ドンッと、地面が揺れた。
「なんだありゃ…」
離れた場所にいる男から声が上がる。
その声につられて深淵へ目を向けると、暗闇の向こうに月明かりに照らされて家よりも大きな塊が蠢いているのが見える。
周囲には牛や馬のような大きさの魔物も集まり出していた。
「始まるぞ」
誰かが呟いたのが合図のように。
グオオオオオォォォアアアアッ!!
魔物の咆哮が森に響いた。
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