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最終章 深淵
白い闇
しおりを挟む用意された馬に護衛騎士と共に乗り、ザイラスブルクの邸へと戻る。
門を潜ると玄関にはヨアキムさんとアンナさんが待っていた。
「ナガセ! こちらへ!!」
ヨアキムさんが荷物をいくつか護衛騎士に渡し、私の手を引いて歩き出す。
「どこに行くの!?」
「邸の裏に地下への入り口があります! そちらで!」
「みんなは?」
「大丈夫、使用人の入る地下もちゃんとあります」
後ろを振り返るとザイラスブルクの騎士達が使用人を誘導している。
「ウル達ももう地下に移りましたよ」
アンナさんが安心させるように背中を撫でてくれた。
「この音は何?」
ヨアキムさんとアンナさん、護衛騎士と共に邸の裏へ向かいながら訪ねると、ヨアキムさんが前を向きながら答えた。
「これは声です」
「声?」
「声のギフトを持つ兵士が、スタンピードが起こった時に領民に一斉に知らせるのです」
「それで何重にも重なって聞こえるのね」
不快な音に聞こえるのは、わざと人々に危機感を持たせるため。
「よくあるの…?」
「いいえ」
ヨアキムさんはそこで、白い息を吐いた。
「十七年ぶりのことです」
皆、ぴたりと足を止めた。
お互いの顔を見る。
はあっと吐く息が白い。
「寒い」
アンナさんが腕を摩り空を見上げた。
つられて見上げるとチラチラと舞い降りる白い結晶。
「雪…?」
護衛騎士が腰の剣に手をやる。
「ヨアキム、急いでナガセと地下へ」
周囲を警戒しながら騎士が低い声で言った。
ふと砦の方に視線を向けると、砦の向こう、深淵の森から大きな白い塊がむくむくと大きく膨らんでいた。
「何だあれは」
まるでスライムの様な塊が空高く膨れ上がっていく。防壁がその塊をこちらに来ないように留めているがそれも限界を迎えそうだ。
「レオニダス……」
見上げる向こうに聳え立つ砦、防壁。そこに、レオニダスがいる。
ワンッ!!
見るとウルが庭に出て砦の方を見て吠えている。
「ウル!」
「ナガセ! ダメです離れないで!」
ウルに駆け寄りその身体を抱き締める。
「ウル、ダメよ一緒に来て!」
その時、限界を迎えた白い塊がドオオオンっと爆発音を響かせ破裂するように砦を飲み込み防壁を越えた。
まるで雪崩のように砦を乗り越え流れ込んでくる白い塊。遠いからだろうか、その動きは緩慢に見える。
「急げ!! 早く行け!!」
護衛騎士が私とウルを抱え、皆一斉に走り出した。ウルは私の腕の中で暴れて体を捩り、飛び降りた。
「ウル!!」
ウルはまた砦の塊に向かって吠え立てながら走って行く。
「待って、お願いウルが!」
「駄目です! このまま地下へ!」
暴れる私を抱え込み、騎士はそのまま地下への入り口へと向かう。
「ウル!! ウルこっちに来て!」
必死にウルに呼び掛ける。
その時、ピタリとあの声が止んだ。
「ウル!!」
護衛騎士が入り口で私を下ろしたところで私は一歩外に足を踏み出してウルを呼ぶ。
「ナガセ!!」
誰かが私を呼んだ。
横から突然、波に飲まれるように
私は白い闇に包まれた。
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