勘違いから始まりましたが、最強辺境伯様に溺愛されてます

かほなみり

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第三章 祝祭の街

閑話 擬態した荷物

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「今日はこの辺りで野営にしよう」

 お義兄様が合図をして、第一部隊のみんなが一斉に野営の準備に取り掛かった。ザイラスブルクの騎士達も一緒に設営し、アンナさんの指示で必要な荷物を下ろしている。私もせめて自分の分は、と荷物を持ってテントに向かった。

「カレン、どこに行く」

 レオニダスがさっと私の荷物を取り上げた。

「え、どこって、テントに……」
「カレンはこっちだ」

 レオニダスが指し示すのは、レオニダスのテント。
 んん? 私、アンナさんと一緒じゃないの?

「カレンはもう従者ではない。バーデンシュタインの令嬢だし、俺の婚約者だ」
「婚約者だからって同じテントはダメだよ」

 今度はお義兄様がレオニダスの手から私の荷物を取り上げる。

「何故だ」
「婚姻前の令嬢が男と寝室を共にするなんて醜聞もいいところだろ」
「……今更何を言ってるんだ?」

 きゃー! やめて! 今更って言わないで!

「兄である僕がダメって言ってるんだからダメだよ。ナガセはナガセ用のテントを用意するんだから、結婚前はベッドは別々」
「態々テントを増やす事はないだろう」
「ならばそのテントに私が寝よう」

 眼鏡をクイっと持ち上げて片手にクッションを持ったベアンハート殿下がいつの間にかレオニダスとお義兄様の間に立っている。
 青い髪には寝癖が。

「「ベアンハート!?」」
「何してるんだお前!」
「え、ちょっと待ってどこにいたの?」
「その質問に答えるならばまずは例の件で兄上から解析を頼まれていて直接辺境で調べる必要が出たので一緒に来たのだが今回も私の優秀な護衛騎士をなんとか撒こうと考えた結果あの荷馬車に身を隠してみたんだが思いの外上手く行ったので満足なんだが乗り心地は良くないので身体が痛いから出来れば私がそのテントで寝たいのだがどうだろうか」
「荷馬車!? 荷馬車に潜り込んでいたのか!? 何考えてる! 大体何故毎回護衛を撒く必要があるんだ!!」
「ちょっと待って、王族…王族が一緒とか、警備体制練り直さないと…」
「何故誰も気が付かないんだ!」
「荷物に擬態したのだ。私の勝利だな」
「そんな勝負しなくていい!」
「おーい、みんなちょっとそっちに集合して~! 警備の割り振り仕切り直し~」
「いいかベアンハート、もしも盗賊に襲われていたらまず切り離すのは荷馬車だぞ! お前が乗っているなんて誰も知らなかったら何かあった時にどう対処するんだ!」
「それは大丈夫だ、レオニダス。私の解析ではこの時期盗賊が襲ってくる確り」
「黙れベアンハート」

 ああっ、また殿下の顎がミシッていったよ、レオニダス!

「確率じゃない、常識の話をしている。分かるか?」

 恐らく顔を縦に振っているベアンハート殿下。手に持っていたクッションを抱き締めている。ベアンハート殿下はポンポンとレオニダスの腕を叩いた。何か言いたいことがあるみたい。
 もの凄く深い皺を眉間に寄せてレオニダスは手を離した。

「私は王族だから誰かと同じテントには滞在しないのでアルベルトが用意したテントに私が滞在するからナガセはレオニダスと同じテン」
「そうだなベアンハート! その通りだ!」
「何言ってるの君たち」
「アルベルト、とにかくベアンハートには一人用のテントが必要だ」
「レオニダスと二人で使えば」
「王族だぞ」
「仲良しでしょ」
「ならお前が一緒に寝ろ」
「ええ、嫌だよ」
「嫌なことを俺に擦りつけるな!」
「レオニダスと一緒に寝てくれるのが防犯上一番安全だと思うんだけど」
「一緒に寝るわけないだろう! やめろ!」
「うーん、じゃあ仕方ないか……どうせ馬車は同じになるしね」
「は?」
「え、だって馬車は増やせないよ? 余分な馬車とかないし」
「荷馬車でいいだろう」
「いやダメだから」
「もう少しクッションを貰えれば私は荷馬車でいいぞ」
「ほら」
「ダメだよ! 僕達の警備の質が問われるから!」
「ならば御者台でもいいぞ一度乗ってみたいと思っていたんだがそこから景色を見て移動する素晴らしさは想像ではなくやはり体験しなくては己の経験にはならないしクラリッセにもいい土産話になると思」
「それはいい! 御者台に座るのも王族たるもの経験しなければ! クッションも増やせばいい!」
「いやダメだから!」
「あの……殿下?」
「なんだナガセ」
「こっちに来るって、誰かに言いました?」
「誰にも言っていない」
「はあ? 早馬! ちょっと早馬用意して!」
「お前…」
「まあいいではないか、さあ皆、夕餉の支度をしよう」
「お前が言うな!」
「私はナガセの作った物が食べたいぞ」
「ね、取り敢えずみんな荷物運びましょう…」
「そうだな、カレンこっちだ」
「ベアンハート! もう少し自覚持ってよ!」
「アルベルト! カレンの荷物はこっちに入れといてくれ」
「分かったよ、もう! 好きにしてよ!」

「ね、レオニダス」
「うん?」
「ベアンハート殿下は、バルテンシュタッドに到着したらどこに滞在するの?」
「……」

「アルベルト! バルテンシュタッドにも早馬を出せ!」


 ふと視線を馬車に向けると、アンナさんがグラブとブランを抱いてぼんやりと立っていた。ふっとため息を吐いてゆるゆると首を振る。

「これがあと九日間も続くのね…」


 夕陽が山間に落ち、三つの月が顔を出していた。
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