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第三章 祝祭の街
恋情と嫉妬※
しおりを挟む中庭を後にして手を引かれてやって来たのはレオニダスの私室。
「カレン」
部屋に入るなり両手を扉に着いて私を囲う。
見上げると、さっきも見たニコニコとした笑顔……だけど、何かちょっと黒く感じます……? 帽子のせいで目元が暗くて、その瞳に宿る揺らぎがよく分からない。
首を傾げていると、すいっと私の帽子から黄色の花を取った。
「これは?」
それはエーリクがくれたブーケの花です。
「エーリクも同じものを胸に付けていたな」
お礼に私が付けました。
「ふうん」
え、なになに? なんですか?
じっとレオニダスの顔を見上げていると、レオニダスが私の腰を掴んで抱き上げ、そのまま応接室の一人掛けのソファに腰掛けた。
私は跨るように膝の上に座らされる。
「!? れ、れお…!?」
「揃いの花を付ける意味を知らないんだろうな」
レオニダスはやっぱりニコニコと笑いながら、花と私の帽子を横のテーブルに置いた。
背中に腕を回しグイッと私を引き寄せ、ピッタリと身体がくっ付いて、耳元にレオニダスの熱い息がかかる。
「揃いの花は恋人同士の証だ」
…え、ええっ! それは申し訳ないことしちゃった! ごめんエーリク…!!
慌てている私を余所に、レオニダスの手がスカートをグイッと上に捲り上げた。
「あ、ちょっ、レオニダス…!?」
「今日のスカートは座り難いと思ってな?」
いやいやいや、そうじゃなくて……!
背中に回っていた手が私の頸をそっと撫でる。その手つきにピクリと身体が反応して肩を竦めた。
「また先を越されたな」
するすると太腿を羽根で触るように撫で掌がスカートの中に入って来る。
「ん、っ、れお…」
ギュッとレオニダスの軍服を握り締めた。
……ちょっと待って。
軍服、軍服着てる…!
レオニダスが軍服である事に急に気が付いて、パッと顔を上げると、そうよ、レオニダスは帽子も被ってる……!!
彫りの深い目元に帽子の影が出来て精悍さが増しているレオニダスと至近距離で目が合った。
レオニダスは私が真っ赤になるのを見て察したらしい…ニヤリと口角を上げてスカートの中に入れた手をそのまま後ろに回し、指でつつっと腰を撫でた。
身体が大きく跳ねてレオニダスの肩に顔を埋める。
「カレン」
耳元で低く囁き、耳朶を舌先でつうっとなぞる。
「こっちを向け」
ズルい。そんな事普段言わないのに!
「カレン?」
はむ、と耳を口に含んでぐちゅぐちゅと音をたてる。
「……っ、ぁっ…」
「ほら…こっちを向け」
クツクツと笑いながら私の頬に掌を寄せて顔を上げさせ、レオニダスはちゅ、と唇にキスをした。
「制服が好きなんじゃなかったか?」
目を細め意地悪な顔。
悔しいのに、この顔も好き! 悔しい!
「……す、き…」
好きですけど何か!? だってカッコいいんだもの!!
レオニダスの色気と羞恥でプルプル震える私はまるで抱き上げられた野良猫…!
「それで?」
レオニダスは私の唇をペロリと舐めた。
「どうしたい?」
囁くような吐息が唇にかかる。私を覗く深い青の瞳に黄金が揺れている。私はこの瞳を知ってる。
握り締めてた軍服の胸元から手を離してレオニダスの頬にそっと触れた。
熱い肌。
レオニダスの揺れる黄金を追いながら、そっと囁いた。私の息も熱い。
「キスがしたい」
途端、ぎゅうっと強く抱きしめられてかぶりつくような激しいキスを受ける。貪るように激しくキスをして、深く深く追い詰められる。
ぐるん、と身体が入れ替わって、ぷ、と唇が離れた。
呼吸も荒く見上げると、窓を背に逆光になったレオニダスが私を見下ろし、被っていた帽子を乱暴に脱ぎ捨てた。髪をかき上げるその仕草にまた顔が熱くなる。
レオニダスは一人掛けのソファに仰向けに寝かされるように座った私の膝裏を持ち上げ、片脚をソファの肘掛に掛けた。
「っ、あっ、やだ…っ」
慌てて脚を下ろそうと身体を起こすと、レオニダスは自分の身体を私の脚の間に入れて押さえつけた。
「ダメだ」
口の端を上げて意地悪に囁く。
いつの間にか背中の釦は全部外されていてブラウスはするりと脱がされた。
首筋に幾つもキスを受け、鎖骨の窪みに舌を這わせる。背筋がゾクゾクして思わず腰を仰け反らせると、浮いた腰を支えるように掌が差し込まれグイッと持ち上げられる。胸を突き出すような格好になり、レオニダスは胸の頂にかぶりついた。
「んんっ……!」
舌で丹念に舐めしゃぶられ吸い上げられ、思わずレオニダスの頭を強く抱え込んだ。
肘掛に脚を押さえ付けていた掌がするすると降りてきて肌着の隙間から指を入れる。
「!! ぁっ、ま…っ、て、やだ…っ」
ぐちゅりと水音が響き、自分がいつも以上に濡れている事を思い知らされる。胸元から顔を上げたレオニダスが耳元で囁く。
「カレン? 凄いな、もうこんなに濡れているのか」
ぐちゅぐちゅと指を入れて掻き混ぜる。
「ん、ぁっ、…あっ」
「カレン…」
身体を起こし反対の掌を私の頬に添えて零れた涙を拭う。
中を掻き混ぜる指が増えたのが分かった。バラバラ、ぐちゅぐちゅと中を混ぜ、ビリッと刺激が走り身体が浮いた。
「……っ!」
「ここか?」
私の反応を見ながらグリグリとそこを執拗に擦ってくる。
「んんっ、あっ、まっ、て、まって、やだ…っ」
いつもと違う刺激を感じてレオニダスの厚い胸板を押し返す。掌に感じる感触で、レオニダスがまだきっちり軍服を着ているのを思い出した。
「やだ? ほら、こんなに濡らしてるのに?」
頬を寄せ耳元で囁き、ぐちゅぐちゅとわざと大きく音を立てて泡立つほど掻き混ぜ、追い詰められる。自分のお尻がどんどん濡れていくのが分かった。
「カレン」
鼻先を合わせレオニダスが瞳を覗く。
「ぁっ、れお、れお、…っ」
レオニダスの首にしがみついて必死に快感を逃そうと首を振ってもレオニダスは攻め立てる指を緩める事はなく。やがて私の身体がガクガクと震え、目の前が白く弾けた。
ちゅ、ちゅっと頬や唇にキスを受けている感覚で意識が浮上して。
あれ……?
ぼんやり目を開くと、レオニダスの深い青の瞳に私が映る。
「れお…」
「大丈夫か」
ふっと優しい表情のレオニダス。
ああ、いつものレオニダスだ。
「わたし……」
「ちょっと意識が飛んだ」
え、何それ。
見ると確かに、まだソファの上にいて服も乱れたまま。
「刺激が強かったな」
ちゅ、と唇にキス。
ええ、何それ……そうなんだけど。私初心者なんですからね? いきなりステップアップしないでくれるかな!?
息ひとつ、服も全く乱れていないレオニダスを見て襲って来る羞恥心。また顔を赤くした私を見てレオニダスが苦笑した。
「そんな顔をしないでくれ。続きがしたくなる」
そんな顔ってどんな顔!?
「カレン? すまない、ちょっと意地悪くし過ぎたか?」
む、分かっててやってたのね!
ぽこん、とレオニダスの肩を叩いた。
「……意地悪」
レオニダスの長いゴツゴツした指が涙を拭う。
「せっかく軍服だしな」
ニヤリと笑ってちゅっとキスを落とす。
「意地悪、ひどい、……意地悪」
もう一度レオニダスの肩をぽこんと叩いた。
ああもう、悪口の語彙力のなさ…思い付かない! なんか他にないかな!?
「やだって言った……」
なんだか悔しくて睨みつける。レオニダスはクツクツと笑って私の手を取り指先にキスを落とした。
「気持ち良くなかったか?」
レオニダスがそっと私を抱き起こして、今度は横抱きに膝の上に乗せソファに座った。
「カレンの恥ずかしがる顔が可愛いから」
クツクツと身体を揺らし笑うレオニダス。レオニダスの可愛いスイッチがよく分からない。
大体何がきっかけでこんな流れに…?
やっと上がっていた呼吸も落ち着き、ふうっと大きく息を吐いた。
「レオ? なんか……怒ってた?」
間違いでないのなら多分、初めは怒ってたよね?
「……」
レオニダスはバツの悪そうな顔をして、ふい、と顔を逸らした。
「レオニダス」
両手で頬を挟みこちらを向かせる。心なしか目許を赤く染めたレオニダスが眉間に皺を寄せた。
ダメです、そんな顔をしても許しません。
じっと見つめていると諦めたのかボソボソと話し出した。
「花……」
「花?」
「恋人同士の花……あれを俺は、二人で付けたかった」
……え、まさかの…?
「エーリクに、嫉妬したの……?」
するとレオニダスの顔がみるみる赤くなった。
え、うそ。
「……レオ…」
「分かってる! 自分でも分かってる、心が狭い上にカレンに八つ当たりみたいにしてしまったことも最低なんだが、何より心が狭すぎる、いや、分かってる、分かってるんだが……っ」
赤い顔を隠すように私の肩に顔を埋めるレオニダス、二十九歳。
エーリクは先日九歳になりました。パチパチ。
そう、初めからそうだった。
私のこの世界での初めてを自分も一緒にしたかったと、いつもいつも周囲の人に対抗心を向けていた。
全てじゃなくても他に沢山、レオニダスと初めてした事もあるのにね?
可笑しくて、でも笑っちゃ悪いかなと思って堪えていたら、身体の震えで気が付いたらしいレオニダスが顔を埋めたまま唸った。
「レオニダス」
髪に手を入れてゆっくりと梳く。硬そうに見えて実はふわふわした髪。少し癖毛で、髪を下ろすと若く見える。
「レーオ?」
もう一度呼ぶと諦めたようにゆるゆると顔を上げた。その叱られた犬のような表情が可笑しくて、クスクスと笑ってしまう。顔を上げたレオニダスの頬を両手で挟んでちゅ、とキスをした。
「ね、レオニダス。今日はこの後王城に戻るの?」
「……いや、もう今日は戻らない。カレンと祭りを回りたい」
「私も。レオニダスとお祭りを回りたい」
ちゅ、と今度は柔らかくキスをして、額を合わせて囁く。
「……でもその前に……今から、ダメ…?」
レオニダスの身体がビクッと揺れて、私を抱きしめる手に力が入った。
「それは……お誘いを受けているのかな?」
目を細めて私を覗き込む黄金色の瞳。
「私の……お誘い、受けてくれる?」
唇を寄せ囁くように。恥ずかしさで視界も潤み顔も熱いけど。
私が一番好きなのは貴方だと、伝わればいいな。
「喜んで」
レオニダスは意地悪そうな顔ではなく、嬉しそうな優しい笑顔でキスを返してくれた。そのまま立ち上がり私を横抱きにして寝室へ向かう。
でも、軍服は脱いでもらうからね。
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