勘違いから始まりましたが、最強辺境伯様に溺愛されてます

かほなみり

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第二章 王都

青髪眼鏡男

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「……あ、あの、レオニダスさま?」
「ん」

 いや、ん、じゃなくてね!? この状況は何ですか!?

 従者として朝の支度のためレオニダスの部屋を訪れた私は、衣裳部屋でまたもや固まっている。
 昨日の朝だってかなりの苦行を強いられ、いや眼福ではあったけども自分の気持ちにしっかり名前を付けてしまったので、昨日よりこの状況が恥ずかしくて堪らないんです!!

 今日は王城へ行く日という事で、いつもの軍服とは違う正装に着替える。勲章やら顕彰やら身につけるものが多いレオニダス。ひとつずつ並べて確認している所で、何故か後ろからレオニダスが私の肩に顎を置いて机に手を突き、後ろから囲っている。

「ああああの、し、したく、を、」
「ああ、続けてくれ」

 いやいやいや、どうやって!? 確かに私の両手は自由ですけどね!?

「嫌か?」

 嫌じゃないです!!

「じ、じ、じゅんび、を、」
「どれが何だか分かるのか?」
「は、はい。ヨアキムさんに、おしえてもらいました」

 ひとつひとつ、意味のあるものだとヨアキムさんが教えてくれた。着ける位置や順番も。ごめんなさい意味は覚えてません。難しくて。

「じゃあ今日はカレンが着けてくれるんだな」

 ふふっ、と耳元でレオニダスが笑う。話す声と息がくすぐったくて、思わず肩を竦めた。

「耳が熱い」

 私の耳に頰が触れていたレオニダスはそう言うと、ふっ、と息を吹きかけた。

「ひぁっ」

 だから耳はやめてー!

 膝から崩れ落ちそうになった私の腰に腕を回して支えながら、可笑しそうに声を上げて笑う。

「くっくっ、すまない」

 そう言いながらちっとも悪く思ってない!

 耳を押さえながら振り返って睨み付ける。

「む、そんな可愛い顔をするな」

 レオニダスはそう言って私の頭頂部にキスをした。
 もーっ! 何なの一体!? デレ甘!? やめてその顔可愛いから! ていうか可愛いって言った今!?

 笑いながらやっと離れたレオニダスに少し寂しさを感じつつ、私はようやく仕事に取り掛かる事ができた。


「伯父上、ナガセ!」

 支度を終え応接間に来ると、既に準備を終えたエーリクがアンナと控えていた。

 天使さま、再来…! いや、王子様!
 今日初めて登城するエーリクは小さな王子様のよう……!!

 詰襟のカチッとした濃紺のジャケットに金釦、同色のマント。縁は金色の凝った刺繍でぐるりと縁取られている。
 袖とズボンには白いラインが入っていて可愛らしい。
 これはレオニダスが小さい頃、初めて王城に来た時に着たものだそう。

 小っちゃいレオニダス……! 可愛かろうて……!

 エーリクはいつもの金色のふわふわした髪をぴちっと撫で付けておでこを出している。白い手袋もはめてピカピカの黒い革靴を履いて。

 誰かスマホ! 写真写真!! 映えてるから、王子さまが!

「エーリク、陛下への謁見の挨拶は覚えたか」

 こちらもまたメチャクチャ普段と違う映えてるレオニダス。初めて見る黒い正装姿。
 黒は魔のものの色と言って、忌み嫌われているらしい。
 私の髪や目を隠そうとするのはそのせいだと以前ロイトン先生から教わった。
 人々を恐怖に陥れる存在である魔のものの色を纏うのは、魔のものすら取り込む力を持つ者として、成人した王族が身に着ける。とは、ヨアキムさん談。

 黒の詰襟に金色の飾釦、肩章、メダル型の勲章が左胸にいくつも着いている。詰襟の部分にはバルテンシュタッド辺境伯の紋章を象った金銀二色のバッジを着ける。
 腰にはエナメルの太いベルトに凝った装飾の剣帯を付け剣を携行する。
 長いマントも黒。マントは細かな刺繍がぐるりと縁取られているけど、この刺繍も黒糸。マントは左肩にだけ掛け、装飾ベルトが右の脇下を通り前と後ろでマントを留めている。
 いやいや、ここまでよく覚えたよ私。褒めて欲しい。

 そして極め付けが帽子。
 黒い帽子を被るため、レオニダスは髪をオールバックにしている。この帽子を被る時の仕草が筆舌に尽くし難く!
 帽子を被る事でそれじゃなくても彫りの深い目元に影が出来てミステリアス具合が倍増…!!ぐぅっ、イケメンめ!
 従者として支度を手伝っていなければ知ることのなかった色気を前に、衣裳部屋で鼻息荒くなったのは許して欲しい。

 だって格好いいんだもん!!


 玄関を出ると既に用意された馬車が門扉の前に止まっていて王都の騎士の制服を着た赤い髪の男性が立っていた。

「閣下、ご挨拶申し上げます」
「久しいな! カイ!」

 騎士の礼を取った男性にレオニダスは嬉しそうに声を掛ける。

「エーリク様もお久しぶりです」
「カイ! ありがとう、とても心強いよ」

 エーリクは頰を染めてキラキラ嬉しそう。待って、この人もしかして……。

「初めまして、ナガセ。近衛騎士第一部隊のカイ・マルッキです」

 赤い髪の騎士はニッコリと私に向かって挨拶をしてくれた。
 え、私ただの従者ですよ!

「なんだ、もう聞いているのか」
「はい、兄から自慢されましたから」

 そう笑うその顔は!

「クラウスさまの、おとうとさんですか?」

 はい、と嬉しそうに笑うカイさん。

「ナガセのピアノが素晴らしいと聞いています。ぜひ私にもお聞かせ頂ければ」

 クラウスさんと同じ赤い髪のカイさんは人懐こく笑った。


 王城へはカイさんたち騎馬隊と共に登城した。
 街をぐるりと周って城内へ入り、レオニダスとエーリクは謁見の間へと案内される。
 その間、私は先に案内された控えの間で待つことになった。
 室内には侍女の方二名と衛兵が一名、扉の向こうにも衛兵が二名立っている。

 キラキラした室内は、ザ・宮殿。
 調度品ひとつ無駄なく煌びやか。ただの従者が待つに相応しくないけれど、レオニダスが自分の控えの間で待つようにと言うのでこんな事になっている。

 まあ、観光だと思おう。こんな事もうないだろうし。
 お城のお茶も美味しいよ? スイーツも甘さ控えめで素敵。
 従者の私一人しかいないので、心なしか侍女の方達もちょっとリラックス。そうよね、身分の高い人って緊張するよね。

 お茶を飲んでスイーツを食べ終えて手持ち無沙汰になった私は、窓から見える庭園を観察していた。

 すると急に廊下で人の声が慌ただしく聞こえて来て、何だろうと耳を澄ますと扉の向こうで何か揉める声。
 侍女さん達も不安げ。衛兵が何事か確認しようと把手に手を掛けたところで、勢いよく扉が開け放たれ、


「レオニダスーーッ!!」


 青い髪で眼鏡をかけた細長い男の人が、髪を振り乱し泣きながら飛び込んできた。


「「…………」」

 そして叫んだ。

「誰だお前ーーッ!?」

 いや、アナタダレ?

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