26 / 96
第二章 王都
青髪眼鏡男
しおりを挟む「……あ、あの、レオニダスさま?」
「ん」
いや、ん、じゃなくてね!? この状況は何ですか!?
従者として朝の支度のためレオニダスの部屋を訪れた私は、衣裳部屋でまたもや固まっている。
昨日の朝だってかなりの苦行を強いられ、いや眼福ではあったけども自分の気持ちにしっかり名前を付けてしまったので、昨日よりこの状況が恥ずかしくて堪らないんです!!
今日は王城へ行く日という事で、いつもの軍服とは違う正装に着替える。勲章やら顕彰やら身につけるものが多いレオニダス。ひとつずつ並べて確認している所で、何故か後ろからレオニダスが私の肩に顎を置いて机に手を突き、後ろから囲っている。
「ああああの、し、したく、を、」
「ああ、続けてくれ」
いやいやいや、どうやって!? 確かに私の両手は自由ですけどね!?
「嫌か?」
嫌じゃないです!!
「じ、じ、じゅんび、を、」
「どれが何だか分かるのか?」
「は、はい。ヨアキムさんに、おしえてもらいました」
ひとつひとつ、意味のあるものだとヨアキムさんが教えてくれた。着ける位置や順番も。ごめんなさい意味は覚えてません。難しくて。
「じゃあ今日はカレンが着けてくれるんだな」
ふふっ、と耳元でレオニダスが笑う。話す声と息がくすぐったくて、思わず肩を竦めた。
「耳が熱い」
私の耳に頰が触れていたレオニダスはそう言うと、ふっ、と息を吹きかけた。
「ひぁっ」
だから耳はやめてー!
膝から崩れ落ちそうになった私の腰に腕を回して支えながら、可笑しそうに声を上げて笑う。
「くっくっ、すまない」
そう言いながらちっとも悪く思ってない!
耳を押さえながら振り返って睨み付ける。
「む、そんな可愛い顔をするな」
レオニダスはそう言って私の頭頂部にキスをした。
もーっ! 何なの一体!? デレ甘!? やめてその顔可愛いから! ていうか可愛いって言った今!?
笑いながらやっと離れたレオニダスに少し寂しさを感じつつ、私はようやく仕事に取り掛かる事ができた。
「伯父上、ナガセ!」
支度を終え応接間に来ると、既に準備を終えたエーリクがアンナと控えていた。
天使さま、再来…! いや、王子様!
今日初めて登城するエーリクは小さな王子様のよう……!!
詰襟のカチッとした濃紺のジャケットに金釦、同色のマント。縁は金色の凝った刺繍でぐるりと縁取られている。
袖とズボンには白いラインが入っていて可愛らしい。
これはレオニダスが小さい頃、初めて王城に来た時に着たものだそう。
小っちゃいレオニダス……! 可愛かろうて……!
エーリクはいつもの金色のふわふわした髪をぴちっと撫で付けておでこを出している。白い手袋もはめてピカピカの黒い革靴を履いて。
誰かスマホ! 写真写真!! 映えてるから、王子さまが!
「エーリク、陛下への謁見の挨拶は覚えたか」
こちらもまたメチャクチャ普段と違う映えてるレオニダス。初めて見る黒い正装姿。
黒は魔のものの色と言って、忌み嫌われているらしい。
私の髪や目を隠そうとするのはそのせいだと以前ロイトン先生から教わった。
人々を恐怖に陥れる存在である魔のものの色を纏うのは、魔のものすら取り込む力を持つ者として、成人した王族が身に着ける。とは、ヨアキムさん談。
黒の詰襟に金色の飾釦、肩章、メダル型の勲章が左胸にいくつも着いている。詰襟の部分にはバルテンシュタッド辺境伯の紋章を象った金銀二色のバッジを着ける。
腰にはエナメルの太いベルトに凝った装飾の剣帯を付け剣を携行する。
長いマントも黒。マントは細かな刺繍がぐるりと縁取られているけど、この刺繍も黒糸。マントは左肩にだけ掛け、装飾ベルトが右の脇下を通り前と後ろでマントを留めている。
いやいや、ここまでよく覚えたよ私。褒めて欲しい。
そして極め付けが帽子。
黒い帽子を被るため、レオニダスは髪をオールバックにしている。この帽子を被る時の仕草が筆舌に尽くし難く!
帽子を被る事でそれじゃなくても彫りの深い目元に影が出来てミステリアス具合が倍増…!!ぐぅっ、イケメンめ!
従者として支度を手伝っていなければ知ることのなかった色気を前に、衣裳部屋で鼻息荒くなったのは許して欲しい。
だって格好いいんだもん!!
玄関を出ると既に用意された馬車が門扉の前に止まっていて王都の騎士の制服を着た赤い髪の男性が立っていた。
「閣下、ご挨拶申し上げます」
「久しいな! カイ!」
騎士の礼を取った男性にレオニダスは嬉しそうに声を掛ける。
「エーリク様もお久しぶりです」
「カイ! ありがとう、とても心強いよ」
エーリクは頰を染めてキラキラ嬉しそう。待って、この人もしかして……。
「初めまして、ナガセ。近衛騎士第一部隊のカイ・マルッキです」
赤い髪の騎士はニッコリと私に向かって挨拶をしてくれた。
え、私ただの従者ですよ!
「なんだ、もう聞いているのか」
「はい、兄から自慢されましたから」
そう笑うその顔は!
「クラウスさまの、おとうとさんですか?」
はい、と嬉しそうに笑うカイさん。
「ナガセのピアノが素晴らしいと聞いています。ぜひ私にもお聞かせ頂ければ」
クラウスさんと同じ赤い髪のカイさんは人懐こく笑った。
王城へはカイさんたち騎馬隊と共に登城した。
街をぐるりと周って城内へ入り、レオニダスとエーリクは謁見の間へと案内される。
その間、私は先に案内された控えの間で待つことになった。
室内には侍女の方二名と衛兵が一名、扉の向こうにも衛兵が二名立っている。
キラキラした室内は、ザ・宮殿。
調度品ひとつ無駄なく煌びやか。ただの従者が待つに相応しくないけれど、レオニダスが自分の控えの間で待つようにと言うのでこんな事になっている。
まあ、観光だと思おう。こんな事もうないだろうし。
お城のお茶も美味しいよ? スイーツも甘さ控えめで素敵。
従者の私一人しかいないので、心なしか侍女の方達もちょっとリラックス。そうよね、身分の高い人って緊張するよね。
お茶を飲んでスイーツを食べ終えて手持ち無沙汰になった私は、窓から見える庭園を観察していた。
すると急に廊下で人の声が慌ただしく聞こえて来て、何だろうと耳を澄ますと扉の向こうで何か揉める声。
侍女さん達も不安げ。衛兵が何事か確認しようと把手に手を掛けたところで、勢いよく扉が開け放たれ、
「レオニダスーーッ!!」
青い髪で眼鏡をかけた細長い男の人が、髪を振り乱し泣きながら飛び込んできた。
「「…………」」
そして叫んだ。
「誰だお前ーーッ!?」
いや、アナタダレ?
67
お気に入りに追加
1,372
あなたにおすすめの小説

【本編書籍化】【番外編】この世界で名前を呼ぶのは私を拾ったあなただけ~辺境での新しい日々
かほなみり
恋愛
【本編書籍化】ノーチェブックスさまより『この世界で名前を呼ぶのは私を拾ったあなただけ』を『勘違いから始まりましたが、最強辺境伯様に溺愛されてます』と改題し、書籍化していただけることになりました。
こちらの番外編は書籍化に該当しないためこのままご覧いただけます。辺境で暮らすカレンやレオニダス、彼等をとり巻く人々の日々をぜひお楽しみください。
優しく幸せな日々を不定期投稿、ゆっくり更新していきます。

転生したら、6人の最強旦那様に溺愛されてます!?~6人の愛が重すぎて困ってます!~
月
恋愛
ある日、女子高生だった白川凛(しらかわりん)
は学校の帰り道、バイトに遅刻しそうになったのでスピードを上げすぎ、そのまま階段から落ちて死亡した。
しかし、目が覚めるとそこは異世界だった!?
(もしかして、私、転生してる!!?)
そして、なんと凛が転生した世界は女性が少なく、一妻多夫制だった!!!
そんな世界に転生した凛と、将来の旦那様は一体誰!?

婚約者が巨乳好きだと知ったので、お義兄様に胸を大きくしてもらいます。
鯖
恋愛
可憐な見た目とは裏腹に、突っ走りがちな令嬢のパトリシア。婚約者のフィリップが、巨乳じゃないと女として見れない、と話しているのを聞いてしまう。
パトリシアは、小さい頃に両親を亡くし、母の弟である伯爵家で、本当の娘の様に育てられた。お世話になった家族の為にも、幸せな結婚生活を送らねばならないと、兄の様に慕っているアレックスに、あるお願いをしに行く。

【完結】赤ちゃんが生まれたら殺されるようです
白崎りか
恋愛
もうすぐ赤ちゃんが生まれる。
ドレスの上から、ふくらんだお腹をなでる。
「はやく出ておいで。私の赤ちゃん」
ある日、アリシアは見てしまう。
夫が、ベッドの上で、メイドと口づけをしているのを!
「どうして、メイドのお腹にも、赤ちゃんがいるの?!」
「赤ちゃんが生まれたら、私は殺されるの?」
夫とメイドは、アリシアの殺害を計画していた。
自分たちの子供を跡継ぎにして、辺境伯家を乗っ取ろうとしているのだ。
ドラゴンの力で、前世の記憶を取り戻したアリシアは、自由を手に入れるために裁判で戦う。
※1話と2話は短編版と内容は同じですが、設定を少し変えています。

抱かれたい騎士No.1と抱かれたく無い騎士No.1に溺愛されてます。どうすればいいでしょうか!?
ゆきりん(安室 雪)
恋愛
ヴァンクリーフ騎士団には見目麗しい抱かれたい男No.1と、絶対零度の鋭い視線を持つ抱かれたく無い男No.1いる。
そんな騎士団の寮の厨房で働くジュリアは何故かその2人のお世話係に任命されてしまう。どうして!?
貧乏男爵令嬢ですが、家の借金返済の為に、頑張って働きますっ!
最愛の番~300年後の未来は一妻多夫の逆ハーレム!!? イケメン旦那様たちに溺愛されまくる~
ちえり
恋愛
幼い頃から可愛い幼馴染と比較されてきて、自分に自信がない高坂 栞(コウサカシオリ)17歳。
ある日、学校帰りに事故に巻き込まれ目が覚めると300年後の時が経ち、女性だけ死に至る病の流行や、年々女子の出生率の低下で女は2割ほどしか存在しない世界になっていた。
一妻多夫が認められ、女性はフェロモンだして男性を虜にするのだが、栞のフェロモンは世の男性を虜にできるほどの力を持つ『α+』(アルファプラス)に認定されてイケメン達が栞に番を結んでもらおうと近寄ってくる。
目が覚めたばかりなのに、旦那候補が5人もいて初めて会うのに溺愛されまくる。さらに、自分と番になりたい男性がまだまだいっぱいいるの!!?
「恋愛経験0の私にはイケメンに愛されるなんてハードすぎるよ~」

今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を
澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。
そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。
だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。
そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。

夫の隠し子を見付けたので、溺愛してみた。
辺野夏子
恋愛
セファイア王国王女アリエノールは八歳の時、王命を受けエメレット伯爵家に嫁いだ。それから十年、ずっと仮面夫婦のままだ。アリエノールは先天性の病のため、残りの寿命はあとわずか。日々を穏やかに過ごしているけれど、このままでは生きた証がないまま短い命を散らしてしまう。そんなある日、アリエノールの元に一人の子供が現れた。夫であるカシウスに生き写しな見た目の子供は「この家の子供になりにきた」と宣言する。これは夫の隠し子に間違いないと、アリエノールは継母としてその子を育てることにするのだが……堅物で不器用な夫と、余命わずかで卑屈になっていた妻がお互いの真実に気が付くまでの話。
過去1ヶ月以内にノーチェの小説・漫画を1話以上レンタルしている
と、ノーチェのすべての番外編を読むことができます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にノーチェの小説・漫画を1話以上レンタルしている
と、ノーチェのすべての番外編を読むことができます。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。