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第一章 辺境伯領

閑話 二次会でそれらしく語られてもそれは結局酔っぱらいの戯言

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「いやあ、最高の演奏だったなー」
「俺、ギフト聴力だけどよ、本当にいい演奏だったわ!」
「音楽のギフト持ちなんて王都にしかいないと思ってたなー」
「すげえ興奮した!いやー気分いいわ!ビールお代わり!」
「あの子アレか?閣下の拾った黒い犬とか言われてる子か?」
「犬じゃないでしょ」
「す、すいません!」
「おい隊長のグラスが空だぞ、誰か酒を!酒!」
「初めて見たな、黒髪黒目」
「な。もっと禍々しいのかと思ってたけど」
「可愛い坊主だったなぁ!」
「え、あれ男か? 女の子かと思った」
「何言ってんだよ、あんな短い髪した女の子いるかよ。酔ってんのか?」
「うるせえなお前が言うな」
「あぁっ!?」
「おい、お前らやるなら外でやれ」
「「はい、すいません」」
「言葉が不自由とかこれから生きてくの大変だろうなぁ」
「閣下が面倒見てるらしいから大丈夫じゃねえ? それじゃなくてもこれだけ演奏できれば食いっぱぐれないだろ」
「すんませーん、こっちビール二つ~」
「深淵の森で拾ったとか、やっぱりアレか、親に捨てられたのかな」
「よく生きてたよな」
「いや、もう十二、三歳くらいだろ? 捨てるより売ったり働かせたりした方が得なんじゃねえか?」
「でも仕事してた感じじゃねえよな」
「あー分かる、なんか切羽詰まってないっていうかさ」
「奴隷かな」
「いやいやいやいや」
「考えにくいわー」
「手とか働いてる感じじゃねえしな」
「なんか品がいいっつうかさ、いいとこの子な感じだよな。奴隷ではないと思うぞ」
「音楽のギフトだろ、労働の奴隷とか考えられないよな」
「金持ちが囲って毎日ピアノだけ弾かせてたとか?」
「げえ、すげえ金持ちじゃないとできんわな。酔狂な趣味だわ」
「でもそれ当てはまるんじゃないか?」
「あいつ、可愛い顔してたぞ? 囲ってたんなら演奏だけじゃ済まないんじゃないか?」
「「「…………」」」
「なんだよ」
「お前さ、そういうこと言うなよ」
「……性奴隷ってことか」
「おい!」
「急に立つなよ! ちょ、タオルタオル!」
「訳もわからん小さいうちに買われて囲われてたんなら腑に落ちるぞ。貴族の所作を習ってなくてもそういう環境にいれば自然と上品さって身につくもんだろ」
「………そこから逃げてきたってことか」
「自分の置かれている環境がおかしいことに気が付いて、勇気振り絞って逃げてきたんだろ」
「あいつまだ子供なのに!」
「くそ! これだからお貴族様はよお!」
「きっとその金持ちが旅行であちこち連れ回してる時に隙を見て逃げ出したんだよ!」
「その爺さん、きっと血眼になって探してるぞ」
「あんな素晴らしい演奏をする上にあの顔だもんな…」
「金に物言わせて取り返しに来るぞ!!」
「閣下が不在の時はあいつを連れ戻そうとする奴から守らないと!」
「そうだ! 逃げ出した勇気あるあいつを俺達が守ってやろう!!」
「そうだ!!」
「おい、うるせえな、いいから座れって!」

 ウオオオオッ

 それは、まるで勝鬨のような雄叫びをあげて酔っ払いがひとつになった瞬間だった。


「最近の第三はこんな感じなのか?」
「……第三部隊は明日から鍛錬の中身を考え直した方がよさそうだね?」
「では私はこれで。夜番に行って参ります」


 こうして、飲み屋の片隅でナガセを守る会は発足された。

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