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四章

(24)ニカロスト

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 カザドの首都シュローデン。その城の一室で高官ウィンストンはカザド王に謁見していた。
 
 部屋には王とウィンストンの他には見張り2人が扉付近にたっているだけだ。

「王よ。例の臂力の鎧についてですが。よい兵器になると思ったのですが……欠点があるようです。アネモネによると、鎧に適性がある者が着る程、鎧の力が逆流し、鎧と使用者が一体化してしまうのです」

「ほぅ。すると何か問題でも?」

「自我を失うのです」

「しかし、目に映る者。全てを敵と認識する訳ではない……違うか?」

「それは……そうですが」
 予想外の返答に戸惑うウィンストン。

「ならば、良いではないか。それこそカザドの求める最高の騎士。力を振るうべき相手に振るい、余計なことは言わない。王に意見もしない」
 カザド王は言った。

「奴を我が国の軍事兵器として、取り立てろ」

「はっ」
 
◆◇◆◇

 ーーしばらく私とゴードンは王宮に行ってくる。2~3日は帰ってこない。仕事は引き続き頼む。
 ーーアネモネより

 アネモネの研究室にはそんな置き手紙が置いてあった。
 それを読んで、レクセルとアリスはいつものように仕事をしていた。

「もうすぐ、誕生日だよね。レクセル」
 仕事の合間にアリスは聞いた。

「何歳になるんだっけ」

「14才」

「ベルディちゃんも7歳になるのよね」

「そうなんだよ。俺としてはベルディには学院に行ってもらいたいと思ってる」

 ベルディとレクセルが学院に行けなかった最大の要因は金だった。しかし、最近はレクセルの功績が認められその問題も解決しつつあった。

「そっか。レクセルはどうするの?」

「俺は……」
 レクセルは悩んでいた。このままアネモネの研究室で働き続けるのか。騎士になるべくもっと積極的にアプローチした方がいいのか。

「まぁ。焦らなくてもいいんじゃない?なんてったってまだ14才なんだから」

「そうだな」
 その後は、会話は終わり2人は仕事に戻った。

◆◇◆◇

 仕事も終わり、レクセルとベルディは帰路についていた。

 いつもと同じ、帰り道だった。静かで、この辺りはこの時間だと人通りがない。近くに川が流れており、せせらぎが聞こえた。

 他愛のない会話をして、のんびりと歩く。

 しかしその時、見知らぬ人影が道の向こうに見えた。

 その人影は鎧で武装していた。そしてフルフェイスなので表情は読み取れないが、明らかにこちらを見つめていた。

「ベルディ。下がってろ」

 レクセルは警戒した。ベルディを手で静止し、
 人影の方に歩み寄る。

「何かようか?」

「レクセルってのはお前か?」

 レクセルは驚きを隠せずにいた。その男の鎧はレクセルの「臂力の鎧」と似ていたからだ。

「……」

「……黙ってるってことはそうなんだな。やっと見つけたぜ。」

「……さぁ。抜きな」
 鎧の男は剣を構えて言った。

「何が目的だ?」

「……それはな」
 鎧の男が剣を振りかぶった。

「俺がお前より強いことを証明することだよ!!」
 そして剣を振り下ろす。レクセルは避ける。

「今のは、着装してないお前でも避けられるように振ったんだぜ?」

「着装しないならお前の妹を殺す」
 鎧の男は言った。

「分かった」

『着装』

 レクセルは着装した。レクセルもまた鎧で身体が包まれる。

「それでいい。じゃあ……行くぜ……?」

 鎧の男が一瞬消える。
 次の瞬間、レクセルはギリギリで斬撃を受け止める。 
 鍔迫り合いになる。
 そして、レクセルが一歩引いた。

「そんなもんかよ。お前の鎧の力は……」

「……」

「じゃあ死ね」
 
 次々と斬撃を繰り出す鎧の男。レクセルはそれに応戦する。
 火花が飛び散る。

 しかし、レクセル押されていった。臂力の鎧を斬撃が掠めていく。 

「お兄ちゃん!」
 ベルディが叫ぶ。

 そして、鎧の男がレクセルを蹴り上げた。

「カハッ!!」

「嫌っ……!!」
 ベルディは悲痛の声を出した。

 レクセルは高く空中に吹っ飛んだ。そして川の中に落下する。ボチャンと水飛沫がとぶ。

「いい声だ。2人とも。みなぎる。みなぎるねぇ!」
 鎧の男はそう叫ぶと、川にジャンプしてレクセルの落ちたところ探す。

「いたいた」
 鎧の男は川底にレクセルの鎧を見つけて、その首を締める。

「苦しいか?もっと苦しみの感情を感じさせろ!」
 水面下で、ぎりぎりと軋ませて、首を締め続ける鎧の男。

 その時だった。

 鎧の男の、身に纏っている鎧のプレートの隙間から剣が貫通した。
 川の水が赤い血で染まる。

「がはッ!!なんだと………!!」
 鎧の男は苦しみの声を上げる。

 鎧の男に背後に立っていたのはレクセルだった。鎧を脱いで剣を男に突き刺していた。

「じゃあコイツは……!!」
 鎧の男は、自分が首を締めているレクセルだと思っていたものをよく見た。

「それは空っぽだ」
 息を切らせながらレクセルが言う。

「川に落ちたときに脱いだのか……」

「ああ」

「クソが……ふざけやがって!」


「ふざけやがって!ふざけやがって!ふざけやがってぇぇーーーーーー!!」

 腹に剣を生やしたまま絶叫する鎧の男。

 レクセルは疑問に思った。この男、明らかに致命傷なのにピンピンしている。


 ーーこいつ、不死身なのか!?

 鎧の男は胸倉を掴むと、宙に持ち上げた。
 水面から引き上げられるレクセル。
 そして鎧の男はレクセルを川岸に向かって投げつける。

 レクセルは川沿いの木に激突した。

 鎧の男はゆっくりと川から上がり、レクセルの前に仁王立ちした。

「覚悟はいいか?」

 ーーどうする。臂力の鎧は川底だ……!

「ぶっ殺してやりたいのは山々なんだが……俺にも色々と計画がある」

「だから、今は引いてやるよ。但しこいつは連れて行く」

 鎧の男はベルディの元に一瞬で移動すると、彼女を抱えた。

「お兄ちゃん!!」

「待て!!何をする気だ!!」
 レクセルは叫んだ。

「じゃあな。レクセル。アネモネに会ったら伝えな。ニカロストが自ら来てやったと」

 ーーニカロスト?

「そうすれば、妹とはじきに会える。」
 ニカロストと名乗る男はそう言うと、去っていった。

「待てえぇぇ!!ベルディを返せえぇぇ!!!」
 レクセルは立ち上がろうとしたが、上手く立てない。骨がいくつか折れている。


「じゃあな」
 そう言い残してニカロストは消えた。

◆◇◆◇
 次の日、レクセルは研究室に行ったがアネモネが今日も帰ってこないことを知る。
 レクセルはアリスに昨日のことを伝え、彼女もできる限りの事はすると言ってくれた。レクセルはベルディを直接探したい気持ちで山々だったが、手掛かりが少なすぎる。そこで街の警備隊に相談することにした。

 話を聞いてくれて、捜索隊を出してくれた。
 妹が連れ去っていた男がニカロストと名乗っていたことも伝えた。

 レクセルはその後、ニカロストとの戦いの負傷で家にいるしかなかった。
 彼は焦燥感に駆られていた。
 その最大の理由は、ニカロストとの戦いにあった。
 奇襲でなんとかなったが、直接的な戦いでは押されていた。
 レクセルは臂力の鎧に絶対的な自信を置いていた。しかし、その自信が今や揺れ動いていた。

 
 さらにその次の日。
 レクセルが研究室に行くと、昼頃、アネモネとそのお付のメイドのメリッサが帰ってきた。

 2日前に起こったことを話した。
 
 ニカロストの名を聞いたとき、メリッサの顔が青ざめたのをレクセルは見た。

 アネモネは黙って聞いていた。

「何か知ってるんですか!アネモネ!」
「ちょっと用事を思い出した」

 アネモネは出て行こうとする。

「待って下さい!何か知ってるんですよね!?」

「妹は、ベルディはどこに居るんです!?」

「……アルドールだ」

「アルドール!?」

 レクセルはその名を知っていた。アルドールはエルドヴィエの南東に位置する比較的小さな国で、35年程前から隣辺国と国交を断絶した国だ。
 荒廃した国で、『影の国』とも言われていた。

「……何でアルドールに!?」

「私からこれ以上言えることは何もない」

 アネモネはそう言うと出ていった。

「なんなんだよ!」

 レクセルは机に拳を叩きつけた。アルドール……レクセルは今すぐにでも向かいたかった。

 しかし、今の体では無理だった。
 1時間、2時間と過ぎていく。

「ところで、ゴードンは?」
 レクセルはメリッサに研究室のメンバー、マッチョの老人ことゴードンの行方を問う。

「彼は……王宮に残るようにと上から言われ、そのようにしました」

「そうですか……」

 レクセルはゴードンが居たら何かアドバイスをしてくれたのではないかと思った。

「レクセルさん……」
 メリッサはそんなレクセルの様子を見てどうしていいか分からない様子だったが、意を決してこう続けた。

「実は、私とアネモネは、昔、アルドールから逃げてきたのです」

「なんだって!?」

「アネモネは彼女の弟のアルベロと共に、アルドールの王子、ニカロストに仕えていました」

「アルベロ……アネモネに弟が居たのか」

「アネモネとアルベロは付呪師の姉弟でした。貧乏な生まれでしたが、生き抜くために付呪を学んだと聞きいています。」

「彼女達は優秀な付呪師になりましたが、アルドールの王子、ニカロストに目をつけられました」

「ニカロストは悪魔のような男です。彼は他人の苦痛が大好きで、それを自分の力に変える力をもっているのです。私はその能力の為の実験体でした」

「実験……」

「はい……毎日、色々な方法で拷問を受けました……もう嫌だった……ある時、アネモネ様が見かねて助け出してくれた……そして2人でカザドへ逃げてきたのです。アルベロにも説得しましたが、彼はニカロストに忠誠を誓っていました。姉弟のよしみで私達を見逃してくれましたが、一緒に行くことはないと……」

「そんなことが……」

「……ベルディ様も私と同じ目にあっているかもしれない……」

「……っ!」

「そして、ニカロストはアルベロによって不死の付呪をかけられています。術者のアルベロが死ぬか術を停止しない限り彼が死ぬことはない。そしてアルベロは人前に姿を出さない。今のままでは誰もニカロストを倒すことはできないのです。」


 レクセルは考え込んだ。
 ーーどうしたらいいんだ……。

「奴は、俺と同じような鎧を着ていた」

「そのことなのですが……」

「私は見たのです。アネモネがアルベロと密会し、臂力の鎧を渡すところを」

「!!それって……!!」

「アネモネはアルドールに加担しています」

「そんな……!!」

「随分と、お喋りしてくれたようじゃないか。メリッサ」

「アネモネ!」

 アネモネが立っていた。兵士を連れてきていた。

「レクセル。私がアルドールと繋がっていると知られた以上、こうするしかない。私と一緒に来てくれ」

「シュローデンに」

 ーーシュローデン?なんでカザドの首都に?アルドールじゃないのか?

「妹の、ベルディの命を助けたいなら、だ」
 アネモネはそう言った。
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