上 下
17 / 26
三章

(16)竜との戦い

しおりを挟む
「くそぉおおお」
 討伐軍の男の1人がジアに向かって矢を放つ。矢はジアの鱗に弾かれた。
 そしてジアが翼を大きく羽ばたかせるとジアの前方に居たその男が空中に巻き上げられる。
 宙に浮いた男めがけてジアはその口を大きく開けて突っ込んでいった。男を喰らったのである。
 丸呑みになる男。

「嘘だろ……」
 それを見て、その場にへたり込む他の兵士。
「こんなの勝てるわけないじゃないか……。」
「諦めるな!!!」
 しかしリーダー格の男だけは違ったようだ。
 男は剣を抜き、ジアに向かって走り出した。
 そしてジアの足に斬りかかる。
 ジアの脚に傷がつく。
 だが、ジアにとってはかすり傷程度だろう。
「お前たち、今のうちに魔法で攻撃しろ!」
 リーダーが叫ぶ。
 すると、兵士たちはハッとした顔になり、各々詠唱を始めた。
「『火炎球』!!」
「『水刃』!!!」
 次々と放たれる魔法の塊。しかしジアの鱗はそれらを受けても何ともなかった。そしてブレスを吐いた。
 熱線が射線上の兵士達を飲み込む。
 光に包まれ声もなく蒸発する何人かの兵士たち。


 一緒に戦いながらも、運良く助かったレクセル。
 内心焦っていた。早く鎧を付ければ何人か救えたかもしれない。 

(セツナ……もうすぐだよ……)

 その時、女の子の声が聞こえたような気がした。

 ハッとするレクセル。
 レクセルは、黙って指輪に魔力を込めた。
『着装』
 レクセルの身体と顔を金属のプレートが包んでいく。

「この化け物めぇえ!!」
 リーダーがジアに切りかかった。
 ガキィイインと甲高い音が響く。
 リーダーの剣は柄から先が折れて刃が飛んでいった。
 ジアの爪とリーダーの剣がぶつかり合ったのだ。

「ここまでか」
 呟くリーダー。
「死ね」
 ジアが爪を振り上げる。 

 リーダーが爪に切り裂かれるかと思われたその時、レクセルが両者の間に入り、盾で爪を防いだ。
 レクセルはそのままジアを押し返した。

「ほぅ。人間にしては大した腕力だ」
 驚くジア。レクセルは黙っていた。

「なら、我も本気でいくとしよう」
 ジアは地面に向かって灼熱の炎を吐いた。

 辺り一帯が火の海に包まれる。
「「ぐあぁぁぁぁぁぁ」」
 残っていた討伐軍の兵士達は漏れなく焼き尽くされる。
 レクセルは盾で炎を防いだ。

 レクセルの盾には超耐熱の付呪が施されていた。
 
 辺りは焼け野原となり、残っているのはジアとレクセルだけだった。

 レクセルは右手に剣を構える。白く光っていた。
 切れ味と強度を超強化された剣は竜の鱗すら屠り得るほどだった。

「お前、ブレスは効かんらしいな」
 ジアは琥珀の瞳でレクセルを睨みつけながら言った。

「ならこの牙で貴様の身体を嚙み砕いてやる」
 ジアは口を開け、牙を向いた。

 そしてレクセル目掛けて突っ込んでくる。
 レクセルは剣をジアに向けると、構え、走り出した。

 両者の距離は、瞬く間に縮んでいき、ジアの口とレクセルがちょうど重なるとき、
 レクセルは大きくジャンプして、ジアの眉間に剣を突き刺した。

 剣はコーラルピンクの鱗を貫通し、頭に深々と突き刺さった。

「ギャオォォォンン」
 悲鳴をあげるジア。

 暴れまわるジア。
 巨体に巻き込まれないように後方に大きくジャンプして距離を取るレクセル。
 やがてジアは天を仰ぎ、そのまま地面に倒れた。決着がついた。

 ジアの身体は光に包まれるとその姿を消した。

 そしてメザノール山を中心として展開されていた巨大な魔法陣は消滅した。
 ジアの巨体が倒れた場所にレクセルの剣が落ちていた。
 しかし今、ジアの巨体はどこにもない。

 鎧が解除されるレクセル。
 精根尽き果てていたが、鎧の出力を落としていたおかげでなんとか気を失わずに済んでいた。

 こんな草原の中、一人で倒れる訳にもいかない。

 剣を拾いに行くレクセル。

 レクセルは剣のある場所に近づいて、その歩みを止めた。

 ジアの居た場所に女の子が倒れていたのである。

 コーラルピンクの長い髪をした、レクセルと同い年くらいのあどけない顔。
 額から血を流していた。

 女の子の目は閉じられていたが、レクセルが近づくと、ゆっくりとその目を開けた。

「セツナ……?」

 女の子はレクセルを見てそう言ったのである。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

16世界物語1 趣味人な魔王、世界を変える

海蛇
ファンタジー
剣と魔法が支配したりする世界『シャルムシャリーストーク』。 ここは人間世界と魔族世界の二つに分かれ、互いの種族が終わらない戦争を繰り広げる世界である。 魔族世界の盟主であり、最高権力者である魔王。 その魔王がある日突然崩御し、新たに魔王となったのは、なんとも冴えない人形好きな中年男だった。 人間の女勇者エリーシャと互いのことを知らずに出会ったり、魔族の姫君らと他愛のない遊びに興じたりしていく中、魔王はやがて、『終わらない戦争』の真実に気付いていく…… (この作品は小説家になろうにて投稿していたものの部分リメイク作品です)

異世界でいきなり経験値2億ポイント手に入れました

雪華慧太
ファンタジー
会社が倒産し無職になった俺は再就職が決まりかけたその日、あっけなく昇天した。 女神の手違いで死亡した俺は、無理やり異世界に飛ばされる。 強引な女神の加護に包まれて凄まじい勢いで異世界に飛ばされた結果、俺はとある王国を滅ぼしかけていた凶悪な邪竜に激突しそれを倒した。 くっころ系姫騎士、少し天然な聖女、ツンデレ魔法使い! アニメ顔負けの世界の中で、無職のままカンストした俺は思わぬ最強スキルを手にすることになったのだが……。

勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!

よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です! 僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。 つねやま  じゅんぺいと読む。 何処にでもいる普通のサラリーマン。 仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・ 突然気分が悪くなり、倒れそうになる。 周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。 何が起こったか分からないまま、気を失う。 気が付けば電車ではなく、どこかの建物。 周りにも人が倒れている。 僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。 気が付けば誰かがしゃべってる。 どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。 そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。 想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。 どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。 一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・ ですが、ここで問題が。 スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・ より良いスキルは早い者勝ち。 我も我もと群がる人々。 そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。 僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。 気が付けば2人だけになっていて・・・・ スキルも2つしか残っていない。 一つは鑑定。 もう一つは家事全般。 両方とも微妙だ・・・・ 彼女の名は才村 友郁 さいむら ゆか。 23歳。 今年社会人になりたて。 取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。

平凡学生の俺が転移したら潜在能力最強だった件~6色の魔素を使い世界最強~

カレキ
ファンタジー
突然異世界に飛ばされた主人公イツキは運よく異世界の姫リリーと出会う。寂しそうな表情をするリリーに一緒に学院に入ることを提案され適性試験を受ける。するとイツキは3000年で一人の逸材、神話に登場する英雄と同じ魔力を持っていることを知る。 そんな主人公イツキが金髪で青い目雪のような肌のリリーと古風で黒い髪、茶色い目、少し日焼けした肌のイリナと共に学院生活を送りつつ、潜在能力最強である主人公イツキがこの世界の謎を解き明かしながら最強になる物語。 この小説は小説家になろうにも投稿しています。(先行連載しています)

1×∞(ワンバイエイト) 経験値1でレベルアップする俺は、最速で異世界最強になりました!

マツヤマユタカ
ファンタジー
23年5月22日にアルファポリス様より、拙著が出版されました!そのため改題しました。 今後ともよろしくお願いいたします! トラックに轢かれ、気づくと異世界の自然豊かな場所に一人いた少年、カズマ・ナカミチ。彼は事情がわからないまま、仕方なくそこでサバイバル生活を開始する。だが、未経験だった釣りや狩りは妙に上手くいった。その秘密は、レベル上げに必要な経験値にあった。実はカズマは、あらゆるスキルが経験値1でレベルアップするのだ。おかげで、何をやっても簡単にこなせて――。異世界爆速成長系ファンタジー、堂々開幕! タイトルの『1×∞』は『ワンバイエイト』と読みます。 男性向けHOTランキング1位!ファンタジー1位を獲得しました!【22/7/22】 そして『第15回ファンタジー小説大賞』において、奨励賞を受賞いたしました!【22/10/31】 アルファポリス様より出版されました!現在第四巻まで発売中です! コミカライズされました!公式漫画タブから見られます!【24/8/28】 よろしくお願いいたします。 マツヤマユタカ名義でTwitterやってます。 見てください。

チートがちと強すぎるが、異世界を満喫できればそれでいい

616號
ファンタジー
 不慮の事故に遭い異世界に転移した主人公アキトは、強さや魔法を思い通り設定できるチートを手に入れた。ダンジョンや迷宮などが数多く存在し、それに加えて異世界からの侵略も日常的にある世界でチートすぎる魔法を次々と編み出して、自由にそして気ままに生きていく冒険物語。

異世界の約束:追放者の再興〜外れギフト【光】を授り侯爵家を追い出されたけど本当はチート持ちなので幸せに生きて見返してやります!〜

KeyBow
ファンタジー
 主人公の井野口 孝志は交通事故により死亡し、異世界へ転生した。  そこは剣と魔法の王道的なファンタジー世界。  転生した先は侯爵家の子息。  妾の子として家督相続とは無縁のはずだったが、兄の全てが事故により死亡し嫡男に。  女神により魔王討伐を受ける者は記憶を持ったまま転生させる事が出来ると言われ、主人公はゲームで遊んだ世界に転生した。  ゲームと言ってもその世界を模したゲームで、手を打たなければこうなる【if】の世界だった。  理不尽な死を迎えるモブ以下のヒロインを救いたく、転生した先で14歳の時にギフトを得られる信託の儀の後に追放されるが、その時に備えストーリーを変えてしまう。  メイヤと言うゲームでは犯され、絶望から自殺した少女をそのルートから外す事を幼少期より決めていた。  しかしそう簡単な話ではない。  女神の意図とは違う生き様と、ゲームで救えなかった少女を救う。  2人で逃げて何処かで畑でも耕しながら生きようとしていたが、計画が狂い何故か闘技場でハッスルする未来が待ち受けているとは物語がスタートした時はまだ知らない・・・  多くの者と出会い、誤解されたり頼られたり、理不尽な目に遭ったりと、平穏な生活を求める主人公の思いとは裏腹に波乱万丈な未来が待ち受けている。  しかし、主人公補正からかメインストリートから逃げられない予感。  信託の儀の後に侯爵家から追放されるところから物語はスタートする。  いつしか追放した侯爵家にザマアをし、経済的にも見返し謝罪させる事を当面の目標とする事へと、物語の早々に変化していく。  孤児達と出会い自活と脱却を手伝ったりお人好しだ。  また、貴族ではあるが、多くの貴族が好んでするが自分は奴隷を性的に抱かないとのポリシーが行動に規制を掛ける。  果たして幸せを掴む事が出来るのか?魔王討伐から逃げられるのか?・・・

世界最強で始める異世界生活〜最強とは頼んだけど、災害レベルまでとは言ってない!〜

ワキヤク
ファンタジー
 その日、春埼暁人は死んだ。トラックに轢かれかけた子供を庇ったのが原因だった。  そんな彼の自己犠牲精神は世界を創造し、見守る『創造神』の心を動かす。  創造神の力で剣と魔法の世界へと転生を果たした暁人。本人の『願い』と創造神の『粋な計らい』の影響で凄まじい力を手にしたが、彼の力は世界を救うどころか世界を滅ぼしかねないものだった。  普通に歩いても地割れが起き、彼が戦おうものなら瞬く間にその場所は更地と化す。  魔法もスキルも無効化吸収し、自分のものにもできる。  まさしく『最強』としての力を得た暁人だが、等の本人からすれば手に余る力だった。  制御の難しいその力のせいで、文字通り『歩く災害』となった暁人。彼は平穏な異世界生活を送ることができるのか……。  これは、やがてその世界で最強の英雄と呼ばれる男の物語。

処理中です...