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第六章

そしてキョートへ

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修学旅行当日。

俺達は思い思いの荷物を持って学園に集まっていた。

「さぁみんな集まったね!それじゃ点呼を取るよ!」
マーティン先生が生徒を確認する。

「ここからどれくらいかかるのかしら?」
エリスがちょっと心配そうに言う。

「学園からなら十時間ほどです。」
サンダユウが答える。

「十時間!またあの馬車に乗らなければなりませんの?ああ、飛んでいきたいですわ・・」
エリスは相変わらず乗り物がダメなようだ。

「あはは。まぁ少しの辛抱だよ。」
アイリスがフォローする。

「エリスちゃん、なんなら俺たちの馬車に乗ってもいいんだぜ?」
ダースがそんな誘いをかける。

「嫌ですわ!狭い馬車がより一層せまくなりますもの!」

「まぁエリスは別の班だしな。ちょっとおしゃべりしてゆっくりしてればすぐに着くさ。」
と俺がフォローしてみた。
エリスはフレンダ達と一緒の班になっている。

「うう・・それにしても十時間・・憂鬱ですわ・・」

「まぁこれも人間界の勉強だと思ってくれ。お、そろそろ馬車に乗り込むみたいだぞ。」

生徒たちが次々と馬車に乗り込んでいく。

俺、アイリス、サンダユウ、ダース、ポール、ハウストはそれぞれ同じ馬車に乗り込んだ。男くさい馬車の中でアイリスとサンダユウの美貌が一服の清涼剤だ。

「いやぁ、サンダユウちゃんが入ってくれて助かったなぁ。美少女二人と修学旅行なんてありがたいぜ!」
ダースが言う。

「私はにん・・ゴホン、ここの班に魅力を感じたものですから。」
任務って言いかけたな。

「私は楽しみだよ?このメンバーなら楽しい旅行になりそう!」
アイリスが微笑む。

「うう・・アイリスちゃんはいつも女神だなぁ・・」
ポールが大柄の体でうるうるしている。

「このメンツなら旅行先で新たな出会いを探す必要もないな・・」
ハウストがブツブツ言っているのが聞こえた。
ナンパでもするつもりだったのだろうか。
さすが俊敏なハウストだ・・と変なところで感心してしまった。

「と・・ところでさ、サンダユウちゃんって普段あまり話さないけどいつも何をしてるの?」
ダースが聞く。

「私は学業以外はにん・・その、家で勉強しています。」

「そうなんだ~あれ?でもサンダユウちゃんも良く授業休むよね?」
ハウストが目ざとく聞いてきた。

「その・・体が弱いものですから。」

「うう・・病弱な美少女・・それもまたイイ!」
ポールは色々なところにツボがありそうだな。

サンダユウはまさか自分が話題になると思ってなかったのか、困った顔をこちらに向けている。

何か助け舟を出した方がいいかな?いや、でも俺が何かいったら薮蛇だな。なぜか俺がいない時にサンダユウもいないことに気づかれそうだし。

「サンダユウちゃん、その髪型に会ってるよね!」
ポールがサンダユウのツインテールを褒める。

「この方が動きやすいものですから。」

「そうなんだ~でもきっと髪を下ろしたサンダユウちゃんも可愛いと思うなぁ!」

「考えておきましょう・・」

サンダユウが髪を下ろしたら・・普通に黒髪ロングだな。和風美女に様変わりだ。

「ところで、フレンダたちはどこの班なんだ?」
ハウストがお気に入りのフレンダの班を気にしてるようだ。

「フレンダならレインやエリスたちと一緒の班じゃなかったか?」
俺が言うと、

「くーそっちの班もなかなかだなぁ・・・アクシデントでレインの体に密着したりして・・」
ポールが言う。

「おいおい、何言ってんだ。こっちには学園の女神がいるんだぜ?どこの班にも負けやしねーよ!」
とアイリスを指さしてダースが言う。

「あはは・・ありがとう。でもレインちゃん達の班も楽しそうだよね?」

フレンダがいるからお堅い雰囲気になってそうだけどな・・と思ったが言わないことにした。

ちなみに席は散々もめたが俺の両隣にアイリスとサンダユウが座って向かいにポール、ダース、ハウストが座っている。
サンダユウは単に任務の必要上、アイリスはがっついている男より俺を選んでくれたのかな?一応好意を寄せてくれてるわけだしな。

といいう訳で俺は両手に花で時々香ってくるいい匂いを楽しんでいた。言うことなしだな。

「なぁユージ・・そろそろ席交代しねぇか?こっちは男くさいんだよ。」
ダースが心底飽き飽きしたように言う。

「俺は構わないけど。」
俺が言うと、
「あ、失礼ですが私はユージ殿のお隣で。」
「あはは、私もこのままがいいかなぁ・・」
と二人に断られてしまった。

「けっ!いいなぁ伯爵様はモテモテでよお?」
おっとちょっと昔のダースに戻ってきたぞ。

「悪い。まぁまた機会があると思うから我慢してくれ。」

「仕方ねぇなぁ!」
ダースは諦めたようだ。

そんな感じで馬車は進んでいく。

俺達はなんだかんだゲームに興じたりしてそれなりに楽しい時間を過ごしていた。

いよいよキョートについた。

・・・

「おお・・すげぇ・・」
ダースが感嘆の声をあげる。

街並みは木造、どれもこれも歴史を感じさせる建造物だ。
パンフレットによると金閣寺、銀閣寺まで再現されているようだ。

皆馬車を降りると思い思いに体を伸ばしたり深呼吸したりしている。
俺もさすがに十時間の馬車旅は疲れた。

「さぁ皆さん、まずはホテルにて手続きを済ませてしまいましょう。班ごとに固まってください~」
マーティン先生が言う。
班ごとってもしかしてアイリスやサンダユウと同室なのだろうか・・ちょっとワクワクすっぞ。

・・と思ったが何のことはない。当然男女別で俺はダースと二人部屋になった。
さすがにポールやハウストとはあまり接点がないから、ダースとでお願いしたのだ。

「おいおい、ユージとかよ!色気ねぇなぁ!」
「まぁそう言うなよ。お互い様なんだからさ。それに女性同室ってありえないだろう?」
「まぁな・・」

俺達はいたしかたなくしばらく雑談をすると下に食事に降りて行った。

食事は信長様のこだわりが現れているのか京風の薄味料理だった。
信長様も濃い味が好きだったはずだが、京都の再現にこだわったのかな。

同じ班のアイリス、サンダユウ、ポール、ハウストも一緒だ。
「ねぇ、なんか独特の味だね?」
アイリスが言う。
「僕は量が多ければいい。」
まぁアイズはそうだろうな。
男連中は特にこだわりも見せず料理をがっついている。量があればいいんだろうな。その辺はアイズと一緒だ。

ふと気づくとアカネの班が目についた。龍翔にアカネに・・なんかイケメンがいる。アカネと親しそうに話している。アカネも時折笑顔を見せている。
・・なんかもやもやするな。

俺の視線に気づいたのか、アイリスが教えてくれた。
「ああ、あの人はロビン・アーサー君だよ。確か大貴族の御曹司でヴァレンティ家と同様にロームの名をもらっているはずだよ。」

イケメンで更に大貴族の御曹司か・・うーん・・

「確か魔術や勉強も出来てSクラスでもトップクラスらしいよ?」
おいおい。完璧超人じゃないか。ウェイ部長もかなりだけど。ロビン君は同じクラスだしなぁ。見ているとアカネの肩に手をかけたりしている。アカネも嫌がっていない。微笑んでいる。珍しいな・・あのアカネが・・

おっといけない。こんな事考えてちゃまずいよな。
俺は慌てて食事を食べ終わると部屋に戻ることにした。

ダースが一緒に付いてきた。
「おいおい、みたかよ?あのロビンがアカネちゃんと仲良さそうに話してたぜ?」
「ああ、見た。」
「ちっ妬けるよなぁ?そう言えばあの二人、以前ちょっと噂になったことがあるんだよな・・」

マジか!噂にまで上るほどの仲だったのか・・アカネは俺を好きじゃなかったのかなぁ・・ただ友人として好きとか・・

ああ、もやもやする!
「ダース!ちょっと早いけど先に風呂いってくる!」
「お?なんだ?俺もいくぜ?」
なんだかんだダースは付き合いがいいよな。

俺達は二人で浴場に降りて行った。
浴場も和風で統一されていてヒノキ風呂みたいなものが用意されていた。

男女は完璧に仕切られており、以前のように覗くなんてことは出来なさそうだ。
俺は覗いてないけど。

すると、ポールにハウストも風呂にやってきた。

「おう!ダースにユージじゃねえか!お前らも今風呂か?」
ポールが話しかけてきた。
「ああ、特に部屋にいてもやることねぇしなぁ・・」
ダースが答える。
「ここは氷竜国の風呂と違って覗く隙はなさそうだな・・」
目ざといハウストが早速風呂の物色を始める。

「前に痛い目にあっただろう?今回は諦めた方がいいんじゃないか?」
俺が一応注意しておくと、
「いや!覗きは男の夢だ!」
と珍しくハウストが興奮して言う。
まぁ、俺も男だ。気持ちはわかるがここはさすがに天井までびっちり壁があるから無理だろうなぁ。

しかし、話し声は聞こえてきた。
「ねぇねぇアカネ!ロビン君といい雰囲気だったじゃない?」
Sクラスの女子か。ちょうどアカネ達も風呂だったんだな。
「やめてよ。そんなんじゃないってば!ロビン君は格好いいけどそれだけだから。」
アカネの声が聞こえてきた。格好いいとは思ってるのか。

「でもさ、もったいないよ?あのルックスにアーサー家の御曹司だよ?もし一緒になったりしたら将来大安泰!」

「そうね・・」

「アカネの夢の家の再興も簡単じゃない?」

「そうかもね。」

なんだアカネも全くその気がないわけじゃなさそうだな。

俺は早々に風呂をあがると部屋に戻った。
胸にもやもやしたものを抱えて。

翌日。
俺達は各仏閣や景勝地などを巡る日程になっていた。
ふと土産物屋を除くとアカネとロビンが仲良さげに土産物を見ていた。

またか・・

わかってる。この気持ちはやきもちなんだろう。中身はおっさんでもこういう気持ちは変わることはない。俺は思わずアカネに声をかけていた。
「アカネ」
「わ!びっくりした!ユージじゃない?どうしたの?」

「ずいぶん仲良さそうだな。」

「え?ロビン君の事?ええ、仲いいわよ。」

「ちょっといいか?」

俺はアカネを少し離れた場所に連れ出した。

「その・・アカネはあのロビンの事、好きなのか?」

「はぁ?何言ってるの?」

「だって昨日から仲良さげじゃないか。」

「変な事言わないで。もう行くわよ。皆待ってるんだから。」
というとアカネはさっさと自分の班に戻ってしまった。

はぁ・・なんかみじめな気分だ。

「ユージ君、どうしたの?」
アイリスが話しかけてきた。

「いや、ちょっとな・・」

「あのロビン君の事?アカネと仲良いよね。」

「そうみたいだな。」

「なんか元気ないね・・大丈夫?」
アイリスが心配そうに覗き込んでくる。
アイリスは優しいな。

サンダユウが何か察したのか俺のそばに来て言う。
「ユージ殿、心の乱れは隙を作ります。お気をつけて。」
ああ、そうなんだろうな・・
でもこのもやもやした気持ちが俺を押さえつける。

俺達は仏閣に土産物巡りと当初のスケジュールをこなしていた。
金閣寺に来た時。

再びアカネとロビンが親し気にしているのを見た。
今度はロビンがアカネの腰に手を回している。

おいおい・・

俺は見ないことにして自分の班と共に無言で仏閣巡りを続けた。

「おいおい、ユージ。なんか元気ねぇなぁ?大丈夫か?」
ダースが話しかけてくる。

「ああ、なんでもない。ちょっと体調が悪いだけだ。」

「本当かぁ?」

「ああ、心配かけてすまない。」

「ならいいけどよ?本当に体調悪いなら宿舎で休んでた方がいいぜ?」

俺はふとそうしようかな、と思った。

「悪い、先に戻って休んでるわ。」

「ああ、わかった。後のことは心配いらないぜ?アイリスちゃんとサンダユウちゃんは俺達がばっちりエスコートするからな?」

「ああ、頼む。」

俺は先生に断ると一人宿舎に戻っていった。

一人でベッドに横になる。宿舎は和風だが生徒に割り振られた部屋は洋風になっていてきちんとベッドがおかれている。

こんなに心が乱されるとはな・・今までアカネに対してこういう気持ちを持ったことがなかったので俺は黒い感情が湧き上がってくるのを抑えきれなかった。
俺は・・アカネをどう思ってるんだろう・・今まで自分の気持ちが良くわかってなかったけど・・

それにしてもロビンって奴、アカネの肩に手を置いたり腰に手を回したり・・アカネも嫌そうじゃなかった。普段のアカネならはねのけてそうなものだ。

俺は鬱々とした気持ちを抱えてベッドでゴロゴロしていた。

一日中そんな気持ちを抱えてゴロゴロしていた。
こればっかりはいくらホーンテッドと言えど何もできないな。

夕方になると皆が帰ってきたのかざわざわという声が聞こえてきた。
今は誰とも会いたくないな・・

すると、ふとドアがノックされた。
「私だよ?ユージ君大丈夫?」
アイリスだった。

「ああ、どうぞ。入ってくれ。」

「みんなまだ街を見て回るみたい。やっぱり珍しいんだろうね。」

「アイリスは良かったのか?」

「私はちょっとユージ君が心配になって早く帰ってきちゃった。」
えへへとアイリスが笑う。

今はアイリスの笑顔がありがたい。

「それで、体調はどう?ヒールかける?」

「いや、もう大丈夫だ。」

「きっと・・ヒールじゃ直せないものだよね?アカネとロビン君のことでしょう?」
アイリスは鋭いな。

「あの二人、一年次生の時からずっとSクラスだから仲がいいのは不思議じゃないんだけど、ちょっと親し過ぎかもね。」

「なんか付き合ってたって噂があるとか?」

「あくまで噂だけどね。二人は付き合ってないと思うよ。さすがに私には報告してくるだろうし。」

「そうだよな・・」
アカネとアイリスは小等部からの幼なじみで親友だ。さすがにアイリスには報告するだろう。

「でもアカネはなんとも思ってなくてもロビン君が熱心にアカネにアプローチしてたって噂は聞いたことがあるかな・・」

そうなのか。でもあのイケメンに大貴族の御曹司だ。迫られて嫌な顔する女子もいないだろう。

「ユージ君。」
アイリスが俺の顔を覗き込んできた。アイリスの綺麗な瞳が俺の目の前にある。

「私はユージ君の味方だからね?それだけは忘れないで?」

「うん・・わかった。ありがとうアイリス。」

「じゃあ私は行くね?また様子をみに来ちゃうかも。」

「ああ・・いや、せっかくの修学旅行だ。アイリスも楽しんでくれよ。」

「ユージ君が楽しんでくれないと私も楽しくないよ?明日は一緒に回ろうね!」
と笑顔でアイリスは去っていった。

俺は少し気が楽になっていた。アイリスのおかげだな。
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