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第五章

ラファエルとの戦い

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俺はアイズから飛び降りると、
「コール!宮本武蔵!」
と叫ぶ。
更なる力が湧き上がってくる。引き出し切れていなかったのか、今までのコールとは段違いの力の上昇を感じた。

体が軽い。そして力がみなぎっている。今なら何時間でも戦えそうだ。

そして敵をひるませるためにあえて周囲の敵を薙ぎ払った。
あるものは首を飛ばされ、あるものは胸を貫かれ、あるものは胴を真っ二つに切り裂かれていた。

「さがれ!無駄な死傷者を出すな!」
と叫ぶ。

敵がひるみ、一歩二歩と下がっていく。
敵は遠巻きから魔法弾を放ってきたがそれもすべて打ち落とす。

「貴様ぁ!どうしてここに・・貴様はラファエル様の『デス』を喰らったはず・・」
本陣からパスカルが飛び出してくる。

「よう。久しぶりだな。前回は世話になった。」

「貴様・・何があった・・?蘇ったのか?」

「ああ、どうやらそうらしい。」

「なんと不思議なこともあるものよ・・。良かろう!今度こそこのパスカルが地獄に送ってやろう!」

パスカルはそういうと大刀を振り下ろしてきた。

・・遅い。

なぜかあれだけ強烈だったパスカルの攻撃が遅く感じる。

俺はホーンテッドを片手で上にあげるとパスカルの攻撃を上にはじきかえしていた。

「な・・片手だとぉ?」

「どうも俺は新しい力を得たようだ。今のお前じゃ俺の相手にはならない。」

「どの口がものを言う!」

今度はパスカルは両手を握りなおすと横薙ぎに胴を払ってきた。

俺は再び片手で剣を縦にして受け止める。

「なんだと・・俺の全力の一撃を・・」

「ああ、威力はわかる。実際風圧やスピードはたいしたもんだが・・今の俺には通用しない。」

「貴様・・一体何があった?」

「俺もよくわかっていないんだが・・どうやら星の力を与えられたらしい。」

「星の力だと?そんな話は聞いたこともない。なめるな!」

パスカルは再び大上段から切り下ろしてきた。

今度は軽くバックステップしてかわす。

「く・・力だけではないな・・その速度・・」

「ああ、全てにおいてもうお前は俺の敵じゃない。」

「だが・・引くわけにはいかん!」

パスカルはそう言うと全力の突きを繰り出してきた。

俺はそれを指でつまむ。

「なん・・だと・・?」

「ふぅ・・できるかと思ったがどうやら可能なようだ。」

「き・・貴様ぁ!」

「パスカルよ。お前は強い男だったが・・もうここまでだ。」

俺はホーンテッドを握りしめるとパスカルに突っ込む。

そして中段から手を切り落とした。

「ぐあああ!」

「もうあきらめろ。敵とはいえ、むやみに人を殺したくはない。」

「ひ・・引けるかぁ!」

その時、ようやく集まってきた兵たちが、
「「「パスカル様をお守りしろぉ!」」」
と間に入ってきた。兵たちはパスカルを抱えて逃げていく。
俺はあえて逃げる兵を追わなかった。

そして新たな兵たちがヤケクソ気味な表情で俺を囲んできた。
仕方ない。ここを越えなければラファエルのもとへたどり着けない。

俺は
「うぉぉぉぉ!!」
と気合を入れると周囲の十人ほどを薙ぎ払った。

剣は既に伸長エクステンションでその距離を伸ばしてある。

「な・・なんだこいつはぁ?」
兵たちが驚きに目を見張る。

「今度はこっちからいくぞ!はぁぁぁあ!」
俺は兵たちに突っ込み片っ端から切り飛ばした。

兵たちはなすすべもなく、やられている。

百人ほども斬っただろうか。
「「「ひ・・ひぃぃぃ化け物だぁ!」」」
兵たちが逃げ始めた。

さて・・ラファエルは・・ここか?

俺はパスカルが守っていた洞穴の穴の前に足を運んだ。

すると・・

「貴様・・大事な兵たちを・・パスカルまで・・よくもやりおったな!」
とラファエルがその姿を現した。

「やっとお出ましか。待ってたぞ。」

「貴様・・確かに我が『デス』で死んだはず・・」

「パスカルにも言ったが、星の力とやらでよみがえったんだ。」

「星の力だと・・?不可思議なことをいう・・。そんなものを持っているとしたら我が『蒼狼の会』天元大師様様だけだ!」

「その天元大師様はどうかしらないが、とにかく俺はここにいる。さぁ、この前の借りを返させてもらうぞ。」

「く・・『カース』!」

早速ラファエル得意の呪いが飛んでくる。
しかし・・
なるほどな・・黒い霧のようなものが見える。これが呪いの正体か。

俺は剣を一振りすると黒い霧を風圧で薙ぎ払った。

「な・・なんだと・・?」

「もうお前の技は通用しない。試してみるか?」

「言われずとも!喰らえ!『デス』!」

黒い閃光が俺に放たれる。胸や頭に狙いを定めているようだ。
俺はあえて何もせずに打たれるままにまかせていた。
するとホーンテッドが光り、『デス』の閃光をはじいていく。

「な・・なにぃ??」

「これで終わりか?王を裏切った罪、そして多数の兵の命を奪った罪、そして、俺の命を奪い大事な人たちを悲しませた罪!思い知れ!」

「く・・まだだ!私が呪いだけだと思うなよ?元魔族幹部の力を見せてくれる!」
ラファエルはそういうと、
「雷閃!」
と雷魔法を飛ばしてきた。

俺は軽く剣ではじく。

「く・・まだだ!雷閃!炎弾!氷弾!」
俺はそのことごとくを手でたたき落とした。

「なん・・だとう・・素手で・・魔法をたたき落とすなんてことが・・」

「今の俺にはできるのさ。さぁラファエル。最後の時だ。何か言い残すことはあるか?」

「ぐっ調子に乗るな!フレイムストーム!」
おっとこんな技まで使えるのか。
だが・・
俺は剣を一振りすると嵐を消し飛ばしていた。

「貴様・・」

「せめて楽に殺してやる。覚悟を決めろ。」

「く・・」

「いくぞ!でやぁぁあ!」

俺は踏み込むとラファエルの心臓に深く剣を突き入れた。

「ガハッ!」

「もう終わりだラファエル。お望みなら首を斬り飛ばしてやるが。」

「ぐ・・その必要は・・ない・・私はもう終わりだ・・もう少しで永遠の生を・・得たものを・・」

「その永遠の命とはなんなんだ?最後に聞かせてくれないか。」

「私ごときが知るものか・・天元大師様のお力だ・・グボッ・・『蒼狼の会』・・永遠なれ!」
ラファエルはそう言うとついにこと切れた。

ふぅ、色々あったがついにやったか。

ラファエルの兵たちはラファエルが倒れたことを見ると
「「「わぁぁぁ!あの化け物にラファエル様がやられたぁあ!」」」
と次々に逃げ去っていった。

俺はもう追うつもりもない。

アカネがアイズの背に乗っておりてきた。
「ユージ・・やったわね・・」

「ああ・・色々あったが・・余計な死傷者を出さなくて済んだようだ。」

「ふふっあなたって本当に変な人ね。敵の兵の心配してる場合じゃあないでしょ?」

それもそうだな。

「いや、やっぱり敵と言えどできるだけ命を奪いたくない。もしかすると無理やりラファエルに連れてこられただけかもしれないんだ。」

「そうね・・あの逃げっぷりを見ると忠誠心はさほどでもなさそうね・・」

「ユージすごく強かった。僕びっくり。」
アイズが珍しく驚いている。

「ああ、何か不思議な気分だ。何かとんでもない力が宿った気がするな。」

「ユージなら大丈夫よ。その力を悪いことに使ったりしないわ。私は信じてる。」
「ありがとう。アカネ。俺もそう心がけるようにする。」
ちょっと甘い雰囲気になった俺たちをアイズが不思議そうに見ている。

そして、アイリスがエリスに乗って降りてきた。
「ユージ君すごかったね!あのパスカルって人、ラファエル、そしてたくさんの兵たちまで・・」

「ああ、今回は不思議と全く負ける気はしなかったな。自分でも不思議だけど。」

「さすがユージ様ですわ!」
エリスは無邪気に喜んでいる。
まぁ今までの俺の苦戦ぶりを知らなかったらそういう感想になるんだろうな。

「まぁとりあえず、敵の首領は倒した。帰るとするか。魔王城に。」

俺達は再びアイズ、エリスに乗り込むと飛び立っていった。

――――――――

魔王城についた。

「「「おお、お帰りになったぞ!」」」
兵たちが駆け出してくる。

念のため、城門を固め、敵の襲撃に備えていたようだ。

「ユージ、どうだ?」
キースが真っ先に聞いてきた。

「ああ、ラファエルは打ち取ったよ。パスカルは逃がしてしまったけど。ただ片腕は切り落とした。」

「おお!そうか・・あのラファエルを・・よくやってくれた!王がお待ちかねだ!拝謁の間へ来てくれ!」

俺達は拝謁の間へ向かった。

「この度はよくやってくれた!あのラファエルを討つとは・・ユージ殿は名誉騎士に恥じない男のようだのう。」

「はは、いや、今回は様々な不思議な力を借りまして・・」

「兵もたくさん失ったが・・その功には報いなければならんな!死をも乗り越えたユージ殿だ・・なまはんかな褒美では割りに合わんだろうが・・」

「今回は友人たち皆の力も大きく、褒美をいただけるのであれば是非全員にお願いいたします。」

「おうおう、そうだのう・・はて、何が良いか・・おう!そうじゃ!儂の特殊能力で魔力の底上げを行おう!」

「魔王様は魔力の大幅な上昇を与える力を持っているのだ。俺を含め、魔族の幹部はほとんど魔王様の力の恩恵を授かっている。」

魔力の底上げか・・俺の頼りない魔力でもまともになるのだろうか。

「ではそれぞれ儂の前に来るがよい。」

俺は魔王の前に進み出た。

「ではいくぞ。はぁぁぁぁ・・!」

額に手をかざして魔王が何かを唱え始める。
すると額から力が吹き込まれてくるのがわかった。

「ふぅ・・・よし、これで今までの魔力値が大幅にあがったはずじゃ。では次の者、ここへ。」

「はい。よろしくお願いします。」
アカネが進み出る。

「よしいくぞ・・ぬぅぅん・・」

アカネも魔力を授かったようだ。

「ユージ、これすごいわ・・今までと比べ物にならないくらいの力の上昇を感じる・・」
アカネは元々魔力に優れていただけにその力の上昇を感じやすいのだろう。

「では次はお主じゃな。ここに参るがよい。」

「はい、お願いします。」
アイリスが進み出る。

「ほう・・この力は・・ヒーラーか。ではゆくぞ。はぁぁぁぁ!」

「!ありがとうございます!これは・・今までのものと全然違う!」

「僕も。」
アイズが前に進み出る。

「私もお願いいたしますわ。」
エリスも前に出る。

「申し訳ないが竜人族には魔力をわけたあえることはできんのじゃ。元々力を持っておるしのう。属性攻撃と魔法は異なるものなんじゃ。」

「えー残念ですわ。」
「うん残念。」

「ふぅ・・こんなもんじゃな・・魔力を上昇させるのは儂も力を使うのよ。ここまでとさせてくれい。」

魔王は力を使い果たしたようにぐったりとしていた。

「いえ・・ありがとうございました!これで僕も人並み以上に魔法が使えるようになりそうです。」
俺が礼を言うと、

「ふふ、ユージ殿は元々魔力の才には恵まれておらんようだのう。そういったものは魔力上昇もまた少なくなるのじゃ。しかし、そこのアカネ殿アイリス殿には十分に力が行き渡ったはずじゃ。」

「ええ!明らかに力の上昇を感じます!」
「私も・・ありがとうございます。」
アカネ、アイリスがそれぞれ礼を言う。

「ふふ・・良かったな。魔王様の力を授かるのは並大抵のことではないんだぞ?」
キースが笑う。

「いやいや、この程度、礼になるかどうかわからんがのう。とにかくご苦労であった。ゆっくり休んで帰還にそなえるがいい。」
魔王が俺たちの体調を気遣ってくれる。

しかし・・俺はいまだコールの力を感じていた。

コールの持続時間もおおはばに上昇しているみたいだな。

「ありがとうございました。ではこれでさがらせていただきます。」
俺がいうと、

「おうそうじゃ。今回の事もあったことだし、この機会にローム王国とは正式に国交を結びたい。できるかのう?」

「・・はい。僕は王族に伝手があるので可能かと思います。」

「是非頼む。今までは停戦協定のみでお互いに不干渉であったが・・今回の件で国同士手を取り合うことの大事さを思い知ったからのう。」

「わかりました。善処いたします。」

「うむ。頼む。」

「あ・・あの魔王様!我が雷竜国とも国交を結んでいただけないでしょうか?」

「おう、そなたは雷竜族の姫であったのう。そうじゃな。今回のことで思い知った。雷竜族とも氷竜族とも国交を結ぶとしよう。」

「ありがとうございます!」
良かったな、エリス、目的は達せられたようだ。

アイズはよくわかってなさそうだ。

「氷竜族、雷竜族には使いを出しておこう。アイズ殿もエリス殿も王家の姫であったな。では王に伝えておいてくれい。」

「はい!承りましたわ!」
「はい。伝えておく。手紙で。」

「では今後は互いの国同士、助け合っていこうぞ!」

「どうぞよろしくお願いします。」
俺は皆を代表して礼を言った。

俺達はそこで王の前をさがった。

――――――――

「ユージ!それにしてもすごかったわね!ラファエルやパスカルだけじゃなく・・兵たちもなぎ倒してたじゃない!」
アカネが部屋への移動中、そう話しかけてきた。

「ああ・・今回は全く負ける気がしなかった。いつものように時間切れということも感じなかったしな・・自分でも何がどうなったのか不思議なんだ。」

「あはは・・ユージ君が死んじゃった時は目の前が真っ暗になったけど、こんな結果になるなんてね?」
アイリスが言う。

「ユージはもともと強い。今回もっと強くなってた。」
アイズがコメントする。

うーん・・今までとは強さの次元が違うんだよなぁ・・自分でもよくわからないんだけど。

「私は初めて見ましたもの!お見事な戦いぶりでしたわ!」
エリスが興奮したように言ってくる。

「ああ、でもいつもはあんな簡単じゃないんだ。今回は・・そう星の力とやらを借りることができたみたいだから。」

「雷竜族との国交も結んでいただけましたし、いうことなしですわ!」

「そうだな。魔族との国交はきっと互いに助けになるだろうな。ドラゴンは魔法がないし、魔族は属性攻撃がないしな。」

「それだけじゃありませんわ。互いに足りないものを融通しあって、流通も活発化させたいですわ。」

「うん。そういうこともできるだろうな。とにかく、いい結果になって良かった。」

俺達はそれぞれの部屋に戻っていった。

・・・

コンコン

ノックの音がする。アカネか?

「ユージ君。私だよ?」
アイリスの声が聞こえてきた。

「ああ、開いてるよ。入ってくれ。」

「お邪魔します。」

アイリスがネグリジェの姿で入ってきた。

「どうした?アイリス?」

「その・・あのね・・今回私、ユージ君が死んだときに気づいたことがあるの・・」

「?」

「ユージ君が亡くなって私、世界が滅亡したような絶望を味わったの!それで・・気づいたの・・」

「何をだ?」

「私・・ユージ君が好き・・」



「アイリス・・」

「ああ、もちろん、アカネもいるし、すぐにどうこうって訳じゃないんだけど・・この気持ちを伝えたかったの。」

「そうか・・ありがとう、アイリス。」

「ユージ君!」

アイリスが抱きついてきた!
アイリスの金髪からいい匂いがただよう。そしてアイリスの胸のふくらみが俺の体に伝わってきた。

「あ・・アイリス・・」

「あ・・ごめんね?抑えきれなくなっちゃって・・」

「いや、俺は全然かまわないけど・・」

「ふふ・・このことはアカネには内緒だよ?」

「ああ、わかった。」

「じゃあ、おやすみなさい。」

アイリスは去っていった。

うーん、学校の二大美神とこんなことになるとは・・

俺は興奮して中々ねつけなかった。

――――――――

翌日。

俺達は魔王城の前で帰る準備をしていた。
王を始め、主だったものが見送りに来てくれた。

「この度は本当に世話になった。今後はお互いに助け合って発展してゆこうぞ。」

「はい。お互いに。」

「うむ。どうか今後ともよろしく頼む。」

「では、魔王様、私もこれで学園に戻ります。どうかご健勝で。」
キースが挨拶をする。

「うむ。お主には今後ローム王国とのかけ橋にもなってもらわねばならぬ。よろしく頼むぞ。トールよ。」

「は、尽力いたします。」

「ユージ殿。改めてこの度の事、礼を言う。我が国を救ってくれたこと、このルシフェル決して忘れん。」

「いや、僕はできることをしただけですから。」

俺は王様と挨拶をかわすとヒポグリフに乗り、言った
「それじゃあみな、帰ろう!ローム王国へ!」
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