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第三章

キース

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その日も学園では普通に授業が行われていた。

授業は午後に入り、魔術や武術などの実地授業を行っている。

ふと、空から風が巻き起こり、何かが下りてきた。

何だあれは?人?

禍々しいオーラをまとい、褐色の肌、背には黒い羽根が生えている
頭からは角が生えている。

「我は『蒼狼の会』のハートレイ!」

『蒼狼の会』!

しかし、なんだ、あれは?
人間には思えない。

生徒も先生方も慌てて校庭にあつまる。

ふとみるとキースが傍にいた。

「あちゃぁ・・きちゃったか・・」



キース?

「我は魔人なり!今よりこの場所は我々がいただく!」

そういうとなにか魔力を練り始めた。

「なんだ貴様は!!」
先生方が飛び出して魔法を放つ。

「フッ無駄なことを・・。魔力障壁!!」

魔法がなんらかの壁にはじかれる。

するとウルヴァンが学校に来ていたのか、外に出る。

「なんだぁ?怪しい奴がきてやがるなぁ・・メンタルブレイク!」

ウルヴァンの精神攻撃なら!

すると・・それも形の見えない障壁にはじかれる。

「な・・なんだぁ??」
さすがのウルヴァンも驚く。

その後も生徒たちや先生方が魔法を放つがことごとく見えない障壁にはじかれていた。

「フッ・・おろかなことを。我の魔力障壁を人間ごときの魔法で破れると思ったか!」
ハートレイが自信満々に言う。

「ありゃあ、魔族の魔力障壁だ。魔法で破るのは難しい。物理系の攻撃しか通用しない。空間系を使う魔族だな。」
キースがそんなことを言う。

キース?いったい何を言っているんだ?

「これより、この学園を結界に封じ込ませてもらう!おぬしらは人質だ!」
ハートレイはそういうと何か唱えだし、それと共に魔術の空間が学園を覆い始める。

「よう・・ハートレイ・・だったか?魔族と人間の間の停戦協定を知らねぇのか?」
なんとキースが校舎外に出てハートレイに話しかける。

「!なんだ貴様は?我の邪魔をするか?。」

「ああ、邪魔させてもらう!それで悪いが結界は破らせてもらうぜ?」
キースはそういうと雷魔法を空間に向けて放つ。

今まで見たこともないような威力の雷閃だ。

そして、パチンッと音がして空を覆いつつあった結界がはじける。

「クッ!なんだ貴様は・・!」

「これでも俺の母校なんでな。ニャハハ!」
笑い方はいつものキースだがなにかすごみが漂っている。

キースはこっちを向くと、
「悪いな、ユージ。もう少し今までのままでいたかったが・・そうもいかなくなっちまった。」

いうやいなや、キースの体が膨れ上がっていく。
頭には角が生え、髪が伸び、翼が出現する。

「お前は・・いや、あなた様は!」

「私は雷神。雷神トール。『蒼狼の会』に与する魔族よ。私を相手に戦ってみるか?」

「クッ!なぜ魔族の幹部のあなた様が・・」

「ここの学園には魔力値の高い魔素が存在している、また、魔力値の高い生徒もな。いずれおぬし等が奪いにくることを見越して王が私を派遣していたのよ。」

キース?どうなってるんだ一体??

今や驚きで声も出ない。あのチャラ男のキースが・・。
今や20代後半とも思えるその風体、全身が褐色になり、二メートルくらいあるその背丈。
そして角に背中に生えた禍々しい翼。

何より雰囲気が俺の知るキースと一変していた。

「クッあなたがここにいようとは!だが簡単に引き下がるわけにもいかぬ!」

ハートレイはそう言うとキースに向かって雷閃を放つ。

「ふ、甘いな。この雷神に雷魔法とはな。」

何とキースは雷閃を手ではじいてしまった。

「ぐっ!ならばこれはどうだ?」
今度は熱線がキースに向かう。

「魔力寮壁!」

目に見えない壁がキースを包み、熱線を無効化する。

「ならば・・じ、重力魔法!」

キースの周囲を空間が覆い始める。

凝縮コンデンス!」

空間が収縮し、キースの体を押しつぶそうとする。」

「甘いわ!」

なんとキースは気合一発、空間を破砕してしまった。

「ぐ・・トール殿がいるとは・・致し方ない。この場は引かせていただく!だが『蒼狼の会』に所属する魔族は私だけではないぞ!」

「ハートレイよ。我々はこの学園を監視対象としている。常に警戒を怠ってはおらん。『蒼狼の会』に伝えておけ。来るなら全力で来いとな。」

魔族は悔しそうに踵を返すと飛び去っていった。

「キース・・いや・・トール様・・?」
俺が恐る恐る話しかけると、

「いや、キースでいい。ユージ今まで隠していて悪かった。」
と言うと、雷神姿のまま、ニャハッと笑った。

「おっとこの姿のままじゃ話しにくいな。」
と言うと見る見るもとの姿に戻っていく。

「キース君・・いや、トール様・・」
見るとロイド学園長が来ていた。

「ああ、学園長よ。騒がしくしてすまん。なにせ学園に溶け込むには生徒の姿が一番だったのでな。」

「いえ。ご事情はお察しいたします。この度はわが学園をお守りいただきありがとうございました。」

「礼には及ばん。これはわが王からの命令であるからな。一部のはねっかえりの魔族が『蒼狼の会』に所属していることは王もご存じだ。そのため、私を差し向けていたのよ。何せこの学園は魔素量が濃い。魔族にとってはおいしい場所であるからな」

キース、いやトール様と呼ぶべきか?トールはそういうと、
「何より王は現在の人間族との停戦協定を守りたいと仰せである。そのために重要拠点と思われる場所には私のように魔族が派遣されているのよ。」

「キ、キース・・」
俺が恐る恐る近づく。

「ああ、ユージ。悪い。俺は魔族なんだ。雷神トールという。一応魔族の幹部をやっている。」

いつものニャハハと笑うキースはどこにもいなかった。

「キ、キース君・・」
アイリスがいつの間にかそばに来ていた。

「おお、アイリスちゃん。こんな姿だけど、アイリスちゃんへの思いは変わらないからな!」
キース、いやトールはそういうと笑った。

――――――――

その後。

キースと学園長の話し合いがもたれ、キースは引き続き学園の守護にあたることになった。

食堂にて俺たちはキースを囲んだ。

「キース一体・・」

「ああ。悪い。魔王様からできるだけ人間の世界に溶け込むように言われててな。」

「あの姿は一体どうしたの?」
アカネが聞く。

「ああ、あれが俺の本来の姿なんだ。人間体のままでも戦えるが・・魔族相手には本来の姿の方がビビらせられるからな。」

「キースすごい魔力だった・・。僕でも及ばないくらい。」
アイズが珍しく驚いている。

そうか!そういえば以前キースは授業で雷閃で的を破壊したことがあったな・・。それに休みの度に姿を消していた・・。

「ああ、そうだ。あれはちょっと加減を間違えて力を抑えきれなかったんだ。休みの度にいなかったのは魔王様に報告にあがっていたのさ。」

「じゃあ、貴族と言うのは・・。」

「ニャハハ!それはあながち嘘でもないな!もっとも貴族と言っても魔族の貴族だが。」
といってキースは笑う。

「じゃあ・・俺たちはこのままキースと一緒にいられるのか?」

「ああ。ロイド学園長の許可ももらったしな。だが、これからは少し隠していた力を開放することになるな。まずは学園の結界作りだな。」

・・そうか。一緒にいられるなら良かった。

「そういえば、ユージ。王はお前に興味があるみたいだったぜ。数々の武功を人間の身であげてきた転移者に話が聞きたいらしい。」

え?俺に興味?

「いや、それはかまわないけど・・俺なんかがあっていい人なのか?」

「まぁ普通は人間には会うなんてことはないけどな。まぁ転移者と言うこともあって興味があるんだろう。そのうち折を見て機会を作るからお会いしてくれ。」

また偉い人と会うのか・・
それにしても魔王と言えば世界を滅ぼすような人類の敵とイメージがあったが、この世界ではだいぶ様子が異なるな。

「魔王さまもかつては人間と戦争をしたけどな。しかし、戦いの中で人間の持つ優しさや思いやりと言った部分に触れてだいぶ考えを改めたようだぜ。」

そうだったのか。

「まぁ魔王様はお忙しい方だからそうちょくちょく会うわけにもいかないがな。そのうちだ。そのうち。」
キースはそう言って笑った。

「ところで、魔族の幹部ってキース以外にもいるのか?」

「ああ、俺意外にも何人かいるな。もっとも皆世界中を飛び回ってるから滅多に会うことはないんだが。」

「キース・・いえ、トール様とお呼びしたほうがいいのかしら。」
アカネが恐る恐る尋ねる。

「今まで通りキースでいいよ。アカネちゃん。トール様なんて呼ばれるとせっかく慣れてきた学園生活なのに、肩がこっちまう。」
キースが笑う。

「その・・ええ、じゃあキース。結界ってどうやって張るの?」

「基本的には以前遠征、アイズが現れた時だな。あの時に先生方が張ったものと同じだ。だが今度は俺の魔力を込めてより強力な結界を張る。魔力量が一定値の者、この学園に招かれざる者についてははじく結果を張るつもりだ。」

「魔力量が高い生徒は大丈夫なの?」
アイリスが聞く。

「ああ、そこについてはロイド学園長とも話し合った。生徒や先生方には魔力付与した許可証を発行し、その許可証を持つものは通れる仕組みだ。」

「!あ、あと魔力障壁についてなんだけど!」
アカネは相変わらず魔法に興味津々だ。

「ああ、あれは自分の魔力を練って、それをもとに障壁を張るのさ。イメージは壁だな。慣れるまでは時間がかかるが慣れたら一瞬でできる。また一方向だけじゃなく自分の周囲に張り巡らすことも可能だ。まぁ空間魔法の応用だな。『魔力』障壁というだけあって、魔法をはじくことができる。」

「すごいのね・・」
アカネが感嘆する。

「まぁ魔族には使えるものも多いが。あとはエルフなんかも得意らしいな。」

「今度教えてほしいわ!」
アカネが身を乗り出す。

「ああ、構わないよ。魔職障壁はそんなに難しいもんじゃない。要は自分の魔力を固定し、空間魔法で周囲に張り巡らせるだけだからね。ただ、注意してほしいのは、物理攻撃やドラゴンの息吹ブレスなんかには効果が薄い。あれは魔法ってよりドラゴンの固有能力だからな。」

「なるほどね・・。でも魔法を防げるだけでも大きいわ・・。」

「ああ、それから、俺は生徒じゃなく嘱託の先生みたいな立場になることになった。まぁ実年齢は300歳くらいだから今さら生徒ってわけにもいかなくなったんだ。」

それは仕方ないか。あの姿を見たら、今さら生徒ってわけにもいかないだろうし。

――――――――

その後、キースをめぐる状況は一変した。
特に女生徒が。

「きゃあ!キース様!」
「素敵!」「こちらを見てくださいませ!」

どうもキースの魔族の姿が一部の女生徒に刺さったようだ。

まぁ確かに魔族姿のキースはなんというか、ダークな魅力に溢れた大人って感じだったからな。

当のキースは
「・・うーんありがたいけど・・困るな。魔族と人間じゃ違い過ぎるし・・」
などと困っていた。

俺はBクラスに行くと、

「なぁなぁ、キースってあのチャラ男だろ?あんなすげぇ奴だったんだな!」
とダースが早速食いついてきた。

「ああ、どうも魔王様に派遣されてこの学園を守るためにいたようだな。」

「くーかっこいいぜ!人知れず学園を守る魔族ってかぁ?」
ダースの琴線にも触れたようだ。

「でも本当に素敵でしたわ。先生方がいくら魔法を放っても通用しなかった魔族を一蹴するだなんて・・。」
レインまでそんなことを言う。

まぁ強いものに憧れるのは人間共通の心理だからな。

「あの者・・武術の心得もあるようだな。立ち振る舞いに隙がなかった。今まで気づかなったことが悔やまれるほどだ。」
フレンダがそんな感想をもらす。

まぁ、それだけキースがうまく溶け込んでいたんだろう。

席に戻ると、アイリスがつんつんしてきた。
「ねぇ、キース君ってこれからどうなっちゃうのかなぁ?いきなり学園からいなくなったりしないのかな?」

「ああ、今のところ、ここの守護を任されてるみたいだから大丈夫じゃないか?最も魔王様や魔族の仲間に何かあったら行かないわけにはいかないだろうけど。」

「そうだよね・・ずっといてくれるといいな・・」

俺もそう思うよ。
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