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第三章

追試

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「ユージ君。このままだと進級できないよ・・。下のクラスに降格どころか、下手したら退学かも・・。」
職員室に呼び出されて行くと、マーティン先生にいきなり言われた。

「この前のテストの結果もひどいもんだったし・・。何とかしないといけないよ・・。」
眼鏡をクイッとあげながら先生が言う。

最近は武術やコールの訓練ばかりで疲れ切って授業をサボったり寝たりしていたからなぁ・・。

「な・・何とかなりませんか?」

せっかく、ルースやベルフェが送り込んでくれた学園だ。この世界で生きていくためにまだまだ学びたいことはあるし・・。退学は避けたい。

「うん。僕の方で学園長と話をしてね・・。君には功績もたくさんあることだし、追試で規定点を超えればいいことになった。」

「あ、ありがとうございます!」

「追試は来週だ。それまで準備しておくようにね・・。」

先生はそう言うと俺の肩をポンポンと叩く。

・・まずいなぁ・・はっきり言って戦いよりピンチだ。

――――――――

俺は食堂でその話をアカネ、アイリス、アイズにしてみた。

「あら、じゃあ私が教えてあげるわよ。」
アカネがあっさりと請け負ってくれた。

「うん。私も勉強だったら教えられるよ?歴史は特に自信あるんだ!」
とアイリスも言ってくれる。

「ありがとう・・。正直言ってどうしようか困ってたんだ。」

「ふふ、戦いには勇敢に向かっていくのにね。勉強はダメじゃ本末転倒ね。」
アカネが笑う。

「僕も教えてほしい。」
アイズが体を乗り出す。

「僕、補習でだいぶ成績あがったけどまだベンキョー苦手。教えて。」

「ああ、じゃあまとめて面倒見るわよ!」
アカネが男前に請け負ってくれた。

――――――――

俺たちは結局アカネの家で勉強会をすることになった。
アイリスのヴァレンティ家では大仰すぎて勉強が手につかないし、俺の狭い寮というわけにもいかず・・結局、消去法でアカネの家になったのだ。

アイリス、アイズとアカネの家につく。
立派なお屋敷じゃないか・・
没落貴族とはいえ貴族は貴族か。

ノック数回ですぐパタパタという足音が聞こえてきた。

「みんないらっしゃーい!」
アカネの自宅用のラフな格好。ちょっと新鮮だなぁ・・

「最近アカネの家来てなかったから久々だね~」
とにこやかに入っていくアイリス

「お邪魔します」「します」
と俺とアイズ。

「あ、こちら母上とお爺様、お婆様よ。」

そこにはおっとりした美人のお母さんがいた。
「うふふ。サヤ・ローゼンデールと申します。いつもお話は聞いておりますわ。ユージさん、ご活躍のようですわね?」
やっぱりアカネのお母さんだな。美人だ。

「母上!もう余計なことは言わないでください!」

「だって・・この度新しい領地をいただくことになったのもユージさんのおかげだって・・。お金もたくさんいただいているようですし、感謝しておりますのよ?」

「いや、それはアカネの実力です。僕はたまたまアカネを連れて行っただけです。」

「あらあら。ではそういうことにしておきましょう。うふふ。」
お母さんははんなりと笑った。

「やぁ、儂はイワオ・ローゼンデール。ローゼンデール家の領地を取り仕切っておる。皆よろしく!今後ともアカネと仲良くしてやってくれたまえ!」
おじいさんは、白髪、白髭のロマンスグレーだ。ダンディだなぁ・・。

ローゼンデール家も領地をすべて取られたわけじゃなさそうだ。

「カナデ・ローゼンデールです。みなさんお若くていいわねぇ・・」
上品そうなおばあさんが挨拶をしてくれる。
緋色の髪だ。
アカネの髪はおばあさんの遺伝だろうか?

「イワオ様、カナデ様、サヤ様。お久しぶりです。今日はよろしくお願いしますね?」
アイリスが挨拶をする。

「あら、アイリスさんもいらしてくれたのね。まぁ美人になって・・殿方が放っておかないでしょう?」
おばあさんがそんなある意味鋭いことを言う。

「あ、あはは・・そんなことはないです・・。」
アイリスが微妙な顔で笑う。

学園の女神が照れている。

「わはは!家内は人を見る目は確かだからな!領地経営にも助けてもらっておる!」
おじいさんが豪快に笑う。

「おほほ。アイリスさんは昔から器量よしでしたからねぇ。今後も成長が楽しみねぇ。」
おばあさんが言う。

「いえいえ・・アカネちゃんも美人ですし・・私も友人として鼻が高いんです。」
アイリスがアカネを持ち上げる。

「まぁ、二人は二大美神と呼ばれてますし・・。」
と、俺がうっかりコメントすると、

「もう、ユージ!余計な事言わないで!」
アカネのお叱りを受けてしまった。

「僕アイズ。よろしく。」

「あら、氷竜族のお姫さまね。お話はうかがっておりますわ。」
お母さんんがにこやかに対応する。

「もう、いいでしょう、お爺様、お婆様、母上。みんな行くわよ!」
アカネが話を打ち切る。

「あとは妹がいるんだけど、人見知りであまり部屋から出たがらないの。」

妹がいたのか。

それにしても、結構家でも俺たちのことを話してるんだな・・少し意外だ。

――――――――

アカネの部屋はあまり女の子っぽくなくシンプルだった。

棚には魔術の本が所狭しと並べられている。

ここでアカネが寝起きしているのか・・。

ちょっと得した気分になってしまった。

「さぁ、じゃあさっさと始めるわよ。」
アカネが教科書を持ってくる。

「ユージ君は何が苦手なの?」
アイリスが聞いてくる。

「うーん・・特に言語と歴史が苦手だな・・。俺の知識じゃ対応できないし・・。」

「じゃあ、歴史は私が教えるね!」
アイリスが教科書を開いて横に座る。
アイリスの金髪がふわっと頬をかすめる。
俺は匂いフェチらしい。アイリスのいい匂いが鼻をかすめる。

うーん。ちょっと緊張するな。

「僕は長く生きてるから、歴史は少しわかる。」

「じゃあ、まずは基本からいきましょう!」
アカネがアイズの隣に行って教え始める。

・・しばらくして。

「アイズ、あなた、やればできるじゃない!」
アカネがアイズの出した答案用紙を見て感想を述べる。

「うん。最近は補習でも褒められる。」

アイズは地頭は良かったのか。
なんだかおいてかれた気分だ。

「ふふ、じゃあユージ君も負けないように頑張らないとね?」
アイリスが言う。

「ああ、歴史は記憶作業だから覚えることが多くて大変なんだ。何せ俺のいた世界と違うから・・。」

「歴史はその背景をストーリーで覚えたほうがわかりやすいよ?じゃあ次は中世をやってみようか?」
アイリスはものわかりの悪い俺にも親切に教えてくれていた。

教え方がいいのか、徐々にわかってくる。
だんだん思って来たのは人間の歴史はどこもそう変わらない、ということだ。

ただ、ここには魔族やら魔獣やら非人間系の人種が多いからそれで混乱してしまう。

「うん、だいぶコツをつかんできたね?じゃああとは戦争の歴史を覚えてみようか?」

ふむふむ。魔族戦争に領土拡張、縮小・・エルフとの関わり・・だんだん覚えてきた。

「あとは自習できるかな?じゃあちょっとテストしてみようか?」
とアイリスは言うと俺が勉強している間に作っていたテストを渡してきた。

・・奮闘することしばし。

「うん!結構できたね?あとは自分で勉強したら追試は大丈夫じゃないかな?」

良かった。

俺はフーッと一息ついていると、

「皆さん、お茶が入りましたよ?少しお休みになってはいかが?」
とアカネのお母さんがお茶を持ってきてくれた。

「母上!ありがとうございます。みんなちょっと一休みしましょ。」
アカネがお母さんからお茶や菓子などを受け取って持ってきてくれた。

「それでどうですの?皆さんのお勉強は?」
お母さんが聞く。

「ええ、アイズはもうほとんど大丈夫ですね。ユージは・・あともう一歩ってところかしら。」
アカネがコメントする。

「あはは・・お恥ずかしい・・」
俺がはにかんでいると、

「うん、僕氷竜族でも教育受けてたから。」
とアイズが自慢げにいう。

基本的なところは知ってたということか。補習では人間特有の勉強をしていたんだろう。

「あらあら、じゃあユージさんはもう少し頑張らないといけませんね?」
とお母さんに言われてしまった。

「は・・はい。頑張ります・・。」

「じゃあそろそろ次に行くわよ!ユージ、今度は私が 教えるからね!」
アカネ先生が言う。

「はい・・よろしくお願いします。」

・・・

「いい、ユージ。言語はまずは文法と単語よ!とにかくこれを頭に叩き込みなさい!」

アカネの教え方はなかなかスパルタだった。

次から次へと文法と単語を教科書から拾い出しては覚えこまされる。

・・でも徐々にわかってきたぞ。
俺ももう結構こちらにいるんだ。ルースにも教えてもらっていたし。

「そう!やればできるじゃない!その調子よ!」
アカネが身を乗り出して教えてくれる。

よし、もう少し頑張ろう。

――――――――

後日。

「うん。これなら大丈夫だろう。お疲れ様。ユージ君。」
俺の追試を担当したマーティン先生が答案を見て言った。

ふぅ・・一安心だ。

そんな感じでアカネ、アイリスの助けもあり、俺はなんとか追試に受かることができた。

食堂にて、
「アカネ、アイリス、今回は本当に助かった。ありがとう。」

「まぁユージには世話になってるしね。このくらいはお安い御用よ。」
「あはは。受かって何よりだよ。良かったね?ユージ君。」
アカネとアイリスがそれぞれ言ってくれた。

「僕もベンキョーになった。ありがとう。」
アイズが言う。

「アイズはもともと基礎ができてたからね。あまり教えることがなかったわ。」
アカネが感想を述べる。

「ちょっとベンキョーが楽しくなった。」
アイズが珍しいことを言う。

「それは何よりだわ。アイズはもともと戦闘力は高いし・・そのうち上のクラスにあがれるかもね?」
アカネがそう褒めると・・

「でも、僕、国に帰らなくちゃいけなくなった。」

・・は?
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