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第二章

事件後

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誘拐犯の手下が用意していた馬に乗り、俺たちはコルトン家へと向かっていた。

別に、アカネとウルヴァンには軍に報告に行ってもらっていた。

レインは
「こ・・怖かったですわ。ユージさん、ありがとう。ありがとうございました。」
と体をひっつけてくる。

不謹慎ながらレインのダイナマイトボディを背中に感じる。
馬の操作をあやまりそうだ。

コルトン家につくと、お父さん、お母さんがやってきていた。
「よ‥よくやってくれた!ユージ君!君には感謝してもしたりないね!」
と大喜びだ。

「いや、今回はウルヴァンというものが精神操作で賊の拠点を見つけてくれたり無力化してくれたので・・。」

詳細を説明する。

「ああ、ああ、わかった五万ベルムだね。君たち全員に払おうじゃないか!」

またお金が増えそうだ。なんか急にリッチになってきたな。

話していると、アカネ、ウルヴァンが軍の人を連れてきてコルトン家にやってきた。

軍の人がお父さんに説明する。
「コルトン様、今回は大変でしたね。賊の正体はこれからおいおい吐かせますが・・街のマフィアで間違いないでしょう。しかし、今度このようなことがあった場合、軍に任せていただきたい。」

この世界では軍が警察も兼ねている。いささかメンツをつぶされたように感じているのだろうか。

それにしても、マフィアか・・なんか急に遠い世界の出来事に感じてきた。

レインはまだガタガタ震えている。
いつも気丈なレインでも今回は怖かったのだろう。

「レイン、もう心配することはない。これからはこんなことがないように警備の人数を見直し、質もあげるからね。」
とお父さんが慰める。

「はい・・はい、いえ、もう大丈夫ですわ。」

それにしても、結界の発生源はどこだったのだろう?それらしきものはなかったのだが。

俺がアカネに疑問を話していると、

「ああいった部屋には壁に結界の呪文が塗りこめられていることがあるわ。魔石に呪文を封じるのと違って簡単に見つからないからね。」
と説明してくれた。

「まぁ、屋敷全体を覆うような広域結界でなくてたすかったなぁ?さすがにその場合は俺様でもどうしようもないからなぁ?」
ウルヴァンが言う。

「ウルヴァン、今回は助かった。約束通りコルトン家から五万ベルム支払われるから。」

「ハッ!そりゃあありがてぇな!まぁ今回はいい金儲けになったぜ!」

「ウルヴァン君と言ったね。君には今すぐ支払おう。」
お父さんが出てきてウルヴァンにお金を渡す。

「いただくぜ。まぁまた金になる話があったら助けてやらねぇこともねぇ。気が向いたらな!」
ウルヴァンはお金を受け取るとさっさと出ていった。

今回は本当にウルヴァンのおかげで拠点の特定、警備の無力化など大いに役立ってもらった。

アカネは
「ちょっと悔しいけど、こういった仕事は本当に頼りになるわね。。アイツは・・」
と複雑そうな顔をしている。

俺たちもレインを休めるため、早々にコルトン家を辞した。

帰りはコルトン家の馬車で送ってもらうことになった。

「ねぇ、ユージ。またコールを使ったんでしょう?今度は誰を呼び出したの?」
とアカネが聞いてくる。

「ああ、加藤段蔵っていう凄腕の忍者だ。忍者っていうのは・・・」
と説明すると、

「ああ、草ね。シノビでしょ?忘れたの?ここローム王国はニホンの影響を受けてるって。」

そういやそうだった。

「それにしてもシノビまで呼び出せるなんて・・あなたのコールって本当に汎用性が高いわね。」
と感心される。

「まぁ3分しかもたないけどね。」
と答えたが、実はコール時間が少し伸びてきているのを感じていた。

学園にきてからもコールの練習をしていたが、実戦で使い続けたことにより体が慣れてきたのかもしれない。

「ボスキラーだけじゃなく、潜入にも使えるなんてね。パーティを組むなら役立つスキルだわ。」

「パーティーを組むならその前のモンスターや配下を一掃する必要があるな。俺は長時間の戦いが苦手だから。アカネがいてくれると頼もしいんだけど。」

「仕方ないわね。その時は組んであげるわよ。」

ありがたいお言葉をいただいた。

アカネとならいろんな局面に対応できそうだ。

あとはヒーラーとしてアイリス、壁役としてアイズだろうか。

今回は役立ってくれたがウルヴァンは性格上、パーティーなんか興味なさそうだな。一人で戦えそうだし。

俺たちはそんなことを話しながら帰路についた。

――――――――

翌日、登校すると、レインが元気にやってきていた。

「あの・・そのユージさん、昨日は本当にありがとうございました。改めてお礼を申し上げますわ。」
と顔を赤らめてレインがお礼を言う。

「いや、昨日はみんなの力だから。俺だけじゃないよ。」

「それでもあなたが部屋に飛び込んできたとき私・・」
とそこまで言って

「な・・なんでもございませんわ!」
と去ってしまった。

席に着くと
「ユージ君、また活躍だったね。」
アイリスが後ろの席から話しかけてくる。

アイリスは侵入作戦の性格上、危険だったので参加していなかった。

「まぁ、なんとかうまく行って助かったよ。あ、このことはあまり広めないほうがいいかもしれない。」

「うん。そうだね。レインちゃんの心の傷もあるもんね。」

「アイリスも気を付けたほうがいい。ああいう奴らはきっとアイリスみたいな立場の人間を狙うはずだから。」

「私は大体アカネちゃんと一緒だから大丈夫だと思うけど・・うん、気を付けるね!」
とひまわりのような笑顔を見せて言った。

――――――――

放課後、風魔法研究部に顔を出すと、ウェイ部長に呼ばれた。

「ユージ。昨日は大変だったね。」
やっぱりウェイ部長には伝わってるか。

「まぁ、皆の助けのおかげです。」

「それなんだが・・軍の調べで捕まったマフィアは『蒼狼の会』という組織に属していることがわかった。」

「『蒼狼の会』?」

「ああ、国家を跨ぐ規模の反社会的組織だ。拠点がなかなかつかめず、ボスが誰かもわからない。魔法師も多数在籍していて、テロなどがある場合はまずこの組織が関与している場合が多い。ご老公も頭を悩めている。」

・・本願寺との長い戦いを乗り越えた信長さまも苦労しているのか。よっぽどの組織だな。

「今までの戦いでとらえた者から情報は引き出せないんですか?」

「それが完全に情報が分散化されていてね。組織の下の者をとらえても上のことはほとんどわからないんだ。」

「『蒼狼の会』?」
アカネが目ざとく聞きつけて話に入ってきた。

「それは・・私の敵よ!お父様の邪魔をして失脚させた組織よ!」
アカネが激昂している。

「ああ、ローゼンデール公は『蒼狼の会』と絡みがあったんだったね・・そう、その組織が今回の誘拐事件の黒幕だ。」
ウェイ部長が神妙な顔で言う。

「『蒼狼の会』は様々な資金源を持っている。今回は規模が小さかったが、コルトン家の資産を奪う算段だったんだろう。」

十億ベルムが小さい額なのか。恐ろしい組織だな。

「まぁ、学生でいるうちはそんなに気にすることはないさ。今もギルドや軍が血眼になって組織の全貌を探っている。」

資産家や政治家が狙われそうだな。

「ただ、『蒼狼の会』は予想もつかない場所にまで入り込んでいる。この学園にももしかすると今回のように触手を伸ばすかもしれない。」

気を付けておいたほうが良さそうだ。

ウェイ部長が立ち去ると、

「絶対に許さない・・あいつらだけは・・」
と怒りを抑えきれないようにアカネがつぶやいている。

よっぽどのことがあったんだろう。

「あの組織には手を出さないほうが賢明だ。」
『蒼狼の会』という言葉が聞こえたのか、フレンダが来て言った。

「私の家の道場でも組織の者が入り込んでいたことがあった。結局そいつが姿を消すまで正体はわからなかったがね。」
更に続けて、
「恐ろしい手練れだった。私でも太刀打ちできず、父上と互角に近い腕前だった。あのようなものが多数いるらしい。武術の腕だけをもってしても恐るべき組織だ。」

武術まで精通しているのか。

これから出会うことがないことを祈ろう。

「私も父上に聞いたことがあるよ?貴族の家だったら一度は聞いたことがあるんじゃないかな?」
アイリスが言う。

上流階級では公然の事実なのかもしれないな。

「さぁ、みんなそろそろ練習だ!」
ウェイ部長の掛け声で皆、思い思いに練習を始めた。

――――――――

アルバイトにて

「ほい、注文上がったよ!」

俺は今日はホールを担当していた。

「はい!お待たせしました!ピザとスパゲッティです!」

忙しく駆け回る。

なぜか今日に限ってお客さんが大入りだ。

それでも徐々に客足が少なくなる時間帯がある。

「あら、混んでる?」
アカネがアイリスとアイズを連れてやってきた。

「ああ、大丈夫、今ちょっと落ち着いたところだ。」

「じゃあ、私はコーヒーで。アイリスとアイズは?」

「私はパスタにしようかな?この前美味しそうだったし。」

「僕はピザ。」

「はーい、ちょっと待っててね!」
注文を受けたハンナ先輩が答える。

俺はホールが落ち着いてきたので厨房に入った。

だいぶ慣れてきたパスタを茹で始め、同時にピザを作り始める。

十数分後

「はい、パスタ、ピザあがりました、ハンナ先輩!」

「はーい、今行きまーす。」

ふぃーひと段落かな・・

ふと店の入り口を見ると、見慣れない男たちが入ってきた。

「ああ、すみません、店長に話があるのですが・・急ぎの用です。」

「?お父さんですか?少々お待ちください。」
ハンナ先輩がダムド父さんを呼びに来た。

「お父さん、お客様よ?」

「え?なんだ開店中に。後にしてもらえないのか?」

「なんか急ぎの用事みたいだよ。」

「仕方ないな。ちょっと話してくる。ユージ君、ちょっと厨房を頼む。」

「はい、わかりました。」

――――――――

しばらくして。

「ダメだダメだ。そんな話は聞けないよ!」
とダムド父さんの声が聞こえてきた。

「しかし、よくお考え下さい。これは相場の倍以上の金額ですよ?」

「この店は子供みたいなもんなんだ!売るなんてできないよ!」

「・・・ふぅ、仕方ありません。今日のところは出直しましょう。」

「何度来たって同じだよ!」

どうしたんだろう?

珍しくカッカした顔でダムド父さんが厨房に戻ってきた。

「何かあったんですか?」

「ああ、大したことじゃないけどね・・奴ら、この店を売れと言ってきたのさ。」

「!そうなんですか?それで断ったと・・」

「ああ、当然だ!いくら金積まれようと明け渡す気はないからね。」

メグ母さんがやってきて
「最近、ここいらの店を買い上げてる連中がいるらしいよ。同じ連中かねぇ?」
と言った。

地上げのようなものだろうか?

「お父さん大丈夫だったの?」
ハンナ先輩が心配そうにやってきた。

「ああ、何も心配するな!この店は僕が守って見せる!」
と頼もしくうけおった。

・・ちょっと心配だな。

日本だったら地上げの連中の中でも悪い部類は嫌がらせなどをしてくると聞いたことがある。大丈夫だろうか?
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