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第一章

メンタルブレイカー

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「というわけでユージ君、君にその子の世話をまかせる」
ロイド学園長はにこやかに俺に告げた。

えええええ?

隣ではアイズが当然といった感じで無表情に立っている。

「し・・しかし学園長、ドラゴンですよ!僕どうすればいいのかさっぱりわかりません!」

「そこのアイズ君によると食事も他の生活も人間のもので問題ないそうだ」

そうはいっても・・

「うん。僕はユージについていく。」
アイズが確定事項のように言う。

「しかしドラゴンを倒すとはのう・・君の評価もだいぶ改めなきゃならんな!・・あ、勲章などは残念ながら、今回は学園内の事故で進めたから出ないんだ。本来なら王都から勲章が出てもおかしくない功績なんだけどね。まぁ生徒間の噂はおさえられんが。」

「いや、勲章なんかはどうでもいいんですけどね・・」
俺はため息をついて答えた。

「とにかく、アイズ君のことは君に任せたから。あ、それと一応アイズ君にも学年の生徒になってもらうことになった。」

「ええ!」
いや、確かに中学生でもおかしくはない・・のか?ドラゴンが学校に通うってどうなんだ?
しかしおおらかだなぁ魔術学園。

「うん。僕頑張ってベンキョーする。人間のガッコーにも興味あったし。」
と無表情にアイズが答える。

「というわけでアイズ君には君と同じクラスに入ってもらう。面倒を見てやってくれ。さすがに一人にするわけにもいかん。あ、そうそう、住む場所についてだが、君の寮に入寮してもらう。まぁよろしく頼むよ。」

・・はあ・・

「残念ながらアイズ君は女の子だし、同室というわけにはいかなくてね・・まぁ仲良くやってくれたまぇ」

「ユージのそばにいれないの?寂しい」
「大丈夫だよ。特別に隣の部屋に入れるように手配したから」
と穏やかにロイド学園長が答える。

と・・隣? プライバシーもへったくれもないな・・

――――――――

昼食時。

「それで?クラスから住む場所までユージがそばで面倒見ることになったわけ?」
と俺のそばを離れないアイズを若干睨みながらアカネが言う。

アイズは大量の皿を持ってきてがっついている。
ドラゴンは大食家なのだろうか。

「うん。僕ユージと一緒。どこでもついていく。」
とアイズがしれっと問題発言をする。

ちなみにアイズが俺にやられた左目に眼帯を巻いている。

小柄な銀髪美少女、眼帯付き、といった風情で早くも一部でマニアックなファンがついているようだ。
さすがに欠損部位はヒールでも直せないらしく、ドラゴンの再生力で直るのを待つしかない。

「な・・なんか大変なことになってるんだね・・。大丈夫ユージ君?」
とアイリスが気遣ってくれる。

普通に優しいままなのはアイリスだけだな・・ぐすん。

「まぁまぁ、ユージも面倒見る奴ができればもっとシャンとするかもだしな!」
とキースが言う。お前に言われたくない。

「ってかキース、俺たちがアイズと戦ってるときどこにいたんだよ?」

「ああ、ちょっと物陰で隠れてビビってた!ニャハハ!」
堂々と言うな・・

――――――――

教室へ向かう廊下で。

「よう、お前かぁ?ユージってのは?」
と声をかけられた。
制服を着崩したチンピラ風の男。

「そうだけど・・?」

「ヒャハハ、お前、ドラゴン撃退したらしいじゃねーか!ちょっと興味があってよ!」

この男は見おぼえないな。

「ああ、俺野外ハンティングに参加しなかったんだよ。かったるいしなぁ。」

「えと・・ところで君は・・」

「ああ、俺はウルヴァンってんだ。ウルヴァン・カーティス。Sクラスだ。」

「ウルヴァン君か。俺に何か用?」

「いやぁ、大した事じゃねーよ。放課後、ちと俺としねーか?」

オハナシねぇ・・やな予感しかしない。

「悪いんだけど、ちょっと用事があるから・・」

「お?断んのか?俺はお前の都合がいい日まで何日だって待てるぜ?」

「いや、ごめん。そろそろ授業だから・・」
俺はなんとかウルヴァンを振り切り教室に逃げる。

「待ってるからなァ!!」
離れても声が追っかけてくる・・。

ヤバいオーラがビンビンしてた。
あまり関わり合いたくない相手だな・・

とりあえず今日は裏門から帰ることにしよう。

――――――――

「ウルヴァン?ああ、一位よ、Sクラスの」
翌日の食堂でアカネはあっさりと答えた。

「その、昨日こんなことがあってさ・・」
と昨日ウルヴァンに絡まれたことを伝えると、

「・・・やっかいな奴に目を付けられたわね・・・」
とさすがのアカネが考え込む素振りを見せる。

「あいつは一言で言って天才よ。授業は滅多に出てこないし決して素行が良いとは言えないけど、試験になると常にトップ。魔術も主なものは大体習得してるわ。それもすべてハイレベルでね。先生方もその実力で多少のことは目をつぶるってるってスタンスを取っているわ。」

万能型か。しかも周囲から自由をえている

「やっぱり貴族の教育とかを幼いころから受けてるとか・・?」

「いいえ、ウルヴァンは噂だけどスラムの出身よ。確か幼少時にその才能を見込まれてある機関にエリート教育をほどこされたと聞いているわ」

「スラム出身?荒事に慣れていそうだな・・」

「それだけじゃなく、あいつはレア魔術持ちなのよ。私たちはメンタルブレイカーと呼んでいるわ。」

メンタルブレイカー??

「一言で言って相手の精神のもろい部分にダメージ与えて精神的にダウンさせる魔術ね。闇に属するらしいけど、詳しくは知られてないの」

俺が最も苦手とする相手かもしれない。
メンタル豆腐の俺にとってはきつそうな相手だ。

「あいつは蛇のように執念深いわよ。気を付けてね。」

果たして逃げ切れるものなんだろうか?
まさか学園内で仕掛けてくることはないだろうと思うけど。

一応魔術学園内では授業で使う場合や決闘などの場合を除いて魔術の使用を禁じられている。でもあいつがそんなことに縛られるだろうか・・。

「大丈夫。ユージは僕が守る」
リスのように口いっぱいに食べ物を詰め込みながらアイズが言う。

うーん、どうなることやら・・

――――――――

その日の放課後。

俺は裏門からアイズと一緒に帰路についていた。

アイズは授業についてくため、連日放課後補習の嵐を受けていたが、今日は補習がなく、一緒に帰っていたのだ。

本人は意外と人間の勉強を楽しんでいるようだ。

やっぱりこういう時は心強いかもしれない。

寮が見えてきた。

何もなさそうだな・・・良かった・・・

と、

「よう、待ちかねたぜ!」
ウルヴァンが立っていた。

げ・・・ウルヴァン。確かに執念深いな。

「感謝してくれよ!俺がこんなとこまで出張るなんてめったにねぇんだからよ!ギャハハ!」

ならば素直に諦めてほしい。

ホーンテッドは常に身に着けるようにしている。いざというときは・・

「どんだけやれるか楽しみにしてたんだぜぇ!ドラゴンハンターさんよ!」
ウルヴァンが一歩足を進める。

「させない・・」
アイズが俺の前に立つ。

「ユージに手は出させない。僕が相手になる・・」

「ああ?なんだお前は??ああ、そのオーラ・・お前が撃退されたっつー竜人族かぁ?」

戦闘センスも抜群のようだ。一瞬でアイズの正体を見抜く。

「お前にも興味はあるが今はお呼びじゃねぇんだよ。下がってな駄竜!」

アイズは下がらない。
手をウルヴァンに向け。冷気を撃とうとすると・・

『サウンド・スリープ』
とウルヴァンが呪文をと唱える。

!!

アイズは一瞬で倒れてしまった。

「竜人族は精神耐性も高いがなァ、俺の術の前じゃ誰でも一緒なんだよ!」

俺は慌ててアイズに駆け寄ると、どうやら強制的に眠らされているらしい。少しホッとする。

「どういうつもりだ?」
俺は改めてウルヴァンに向き直る

「ああ?だから言っただろう?お前に興味があるんだってよ!さぁ、魔術でも武術でもいいからかかってこいよ!ギャハハ!!」

俺はホーンテッドを抜き、構える。

「ああ?なんだそりゃ?変な剣持ってやがるな??」

「悪いけど少し痛い目にあってもらう!」

「コール・・」
と俺が唱えかけると

精神破壊メンタルブレイク

!!

俺は一瞬で倒れ落ちていた。

――――――――

その後、

寮に住んでいる生徒が俺とアイズを見つけ、寮に運び込んでくれたらしい。

アイズも俺も3日ほど起き上がれなかった。
なんてこった・・・今までの努力が全く通用しなかった。

目が覚めると、寮母さんが
「ああ、やっと目が覚めたんだねぇ!良かったよ。あんたの友達が何回もお見舞いに来たよ」
アカネ、アイリス、キース達が来てくれたらしい。

「俺は・・」
あの時、一瞬何が起きたのかわからなかった。心の中を様々にまさぐられ、心を爆発させられたような感覚。抵抗もへったくれもない。

恐ろしい術を使う奴がいたもんだ。どんなに頑健な体でも、魔術に通じていても、あるいは強力な武器を持っていたとしても関係ない。一瞬で物理的な障壁に関係なく、心そのものに作用する。防ぐ手立てなどあるのだろうか?

俺はベッドに横わたりながら考え込んでいた。

――――――――

復調した翌日、

アカネとアイリスがFクラスの教室まできた。

「ユージ、大丈夫?」
「ああ、何とか・・それにしてもあいつは何なんだ?恐ろしい術だったよ」

「僕も何されたのかわからなかった。ドラゴンの防御力、役に立たなかった・・ユージ守れなかった・・」
とアイズが言う。

いや、アイズのせいじゃない。

アカネは少し言いにくそうに、
「それでもあなた達、まだ手加減されたのよ。あいつにケンカ売った街のチンピラは1年以上病院で目を覚まさないらしいわよ。廃人になった人もいるっていう噂よ」

ゾッとした。

「精神汚染系は使う人が限られてるのもあって、ヒーラーでも対応しきれないの。何度もユージ君やアイズちゃんにかけてみたんだけど、効果なくて・・。助けになれなくてごめんね?」
とアイリスが言う。

ヒールかけ続けてくれてたのか。もしかしたらその効果で三日で済んだのかもしれないし。

「いや、全くアイリスのせいじゃないし。ありがとう頑張ってくれて。」

「それにしても、俺たちが寮にいったときはユージもアイズも死んだように動かなかったぜ。死んじまったのかと何回も脈確認しちまった・・・」
キースが言う。みなに心配かけたな。

「みな心配かけてごめんな。もう大丈夫だから」

「あいつは一度倒した相手には興味なくすから、もう手を出してこないはずよ。今日も学園にきてないけど・・こちらから手を出さなければ、ね」
とアカネが言う。確か、俺に興味を持ったようだったからとか言ってたな。今回あまりにもあっさり俺が倒されたことで興味をなくしただろうな。

そのうち授業が始まる時間になりアカネとアイリスはそれぞれ自分の教室に戻っていった。

――――――――

あれからウルヴァンが仕掛けてくることはなく、その姿を見ることもなかった。
アカネの言う通り興味を失ったようだ。

しかし、俺は考え込んでいた。
自分の最ももろい部分・・心。俺はここを乗り越えないとこの世界でも日本と同じように生きているのか死んでいるのかわからないような人間になるのでないか、と。

俺はある決心をしていた。

――――――――

定期試験も終わり、もうすぐ長期休暇というある日。

昼飯を食いながら、俺は自分の気持ちを皆に話していた。

「村に帰ろうかと思うんだ。」
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