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第一章

ドラゴン

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「「「「「うわぁぁぁあ!ドラゴンだぁぁ!!」」」」」

生徒たちは完全にパニックになっていた。

ドラゴンはその小山のような巨体を伏せたままじっと動かずに顔を伏せている。

結界はドラゴンの魔力によって破られたようだ。
その破られた結界からゴブリンが侵入してきたのか。

パニックになった生徒は
「弓部隊、矢を放てぇ!!」
先生の指示も待たずに攻撃を開始する。

魔力強化された矢が次々とドラゴンに向け放たれる。

「あ、おい!お前ら、ちょっと待て!」
ヘルメス先生の指示も届かない。

「相手は白竜だ!炎弾雷弾はなてぇ!!」

次々に炎魔法が飛ぶ。ドラゴンはさすがに鬱陶しくなったのかゆっくりとその顔をあげ巨体を動かし始めた。

「水系魔術を使えるものは氷で壁を張れ!氷の息吹ブレスがくるぞ!」

「く、仕方ない。氷壁を作れるものは一列に前に出よ!横に並んで攻撃を通すな!!」
ヘルメス先生の指示が飛び出した。
「火魔術師、雷魔術師は呪文を放て!弓部隊、可能なものは炎を付与した矢を放て!」

様々な攻撃がドラゴンに向かって飛んでいく。

ドラゴンはさすがに物量攻撃に怒りを感じたのかその口を開き、こちらを睥睨した。
ゆっくりとその巨体を起こし・・

口をこちらに向けた。
魔力がその真っ赤な口に集約されていくのがわかる。

『グォォォォォォン!』

息吹ブレスが放たれる!

一気に氷点下になったような周囲の空気。
周囲の森全体を振るわすような衝動。

そして・・
氷壁を作ったものは半数ほどが吹き飛ばされていた。

「くっ!残った水系魔術師は引き続き氷壁だ!空間魔法を使えるものはドラゴンの周囲に空間を張れ!重力魔法を使えるものは押しつぶせ!」

先生方も各壁や攻撃に参加している。

しかしドラゴンの息吹ブレスを目の当たりにした生徒たちは明らかに恐慌に陥っていた。

ヒールを使える生徒は必死で吹き飛ばされた生徒の手当てを行っている。

引き続き、息吹ブレスが放たれる。

今度は残った生徒のうち7割ほどが吹き飛ばされ、残っているものは先生方と、主にSクラスの生徒だけとなっていった。

ふと周囲を見渡してみるとアカネは炎弾をひっきりなしに撃ち、アイリスは救護に回って懸命にヒールをかけているのが見えた。キースの姿が見当たらない。吹き飛ばされたのだろうか?

「くっ!重力強化グラビトロン・ダウン!」
先生が唱えた魔術で竜の動きが止まる。

『グァァ?』
ドラゴンはその長い首を地面に押し付けられているようだ。
この体制なら息吹ブレスは打てないだろう。

「剣槍部隊突撃せよ!」
その声を聞き、今まで待機していた剣槍部隊がバラバラと突撃する。

『グォォォン!』
何とその中でも首が徐々に上がっていき、重力魔法を破ろうとしている。

「!この機を逃すな!」
ヘルメス先生が更に指示を出し、自らも槍を持ち突撃する。

剣槍部隊の攻撃はそれぞれ炎や雷などを付与した攻撃で行われた。が、一撃もその固い竜鏻を貫くことができない。

俺も剣を持って攻撃するものの、はじかれてしまいダメージを与えることができない。

貫くことができたヘルメス先生など一部の攻撃もあったが、なんとダメージを受けたそばから自己修復してしまう。

「クッ!いったん距離を取れ!」
ヘルメス先生の指示で剣槍部隊はいったん氷の壁の中に撤退する。

そのうちついにドラゴンがその長い首を起こし、重力魔法を破っていく。

息吹ブレスを打たすな!重力魔法を使えるものはもう一度放て!」
その声に次々と追加の重力魔法が放たれる。

いったん起き上がりかけた首が再び地面に押し付けられるかと思ったとき、

『ガァァァ!』
とドラゴンが今度は負けんとばかり、腕の力も使い自分を立たせてゆく。

今しかないかもしれない。

「アカネ!」
俺は火魔術を放ち続けているアカネに駆け寄り、こう言った。

「風魔法でも爆風でもいい!俺を奴の顔面まで飛ばしてくれ!」

アカネは
「何か考えがあるのね!わかったわ!」

と。俺は頼むと同時にドラゴンへ向けてダッシュ。

「おい!一人じゃ危険だ!!下がれ!!」
という声を背に、ドラゴンのそばまで辿り着く。

同時にアカネが
突風ウインドウ・ブラスト!」と呪文を放つ。

俺の周囲に猛烈な突風が吹きあがる。
その風にのり、一気にドラゴンの頭部そばまで舞い上がると、
瞬間、ホーンテッドを抜き放つ。
『コール!斎藤一!!』
ホーンテッドが光を放ち日本刀の形に変化する・

晩年においてさえ、竹刀で一瞬のうちに缶を突き破り、その缶は揺れることなく竹刀が貫通したとされる斎藤一の突きなら!

そして・・あの場所なら!

俺は湧き上がる力を感じながら 体中のバネを振り絞りその一点を照準にとらえる。

そこは・・どの生物も弱点となる目だ!

「うぉぉぉぉぉ!!」

ザシュッ!!

突きは見事にドラゴンの左目をえぐり貫いていた。

『グォォォォォォン!!』
ドラゴンは目から血を噴き出しながら、悲痛な叫びをあげて身をよじらせる。

・・・足りなかったか???あと一撃くらわすか???

すると・・・

どんどんドラゴンが収縮していき・・

・・・
・・









「いったぁいなぁ、もう・・」
そこには銀髪の小柄な美少女が目を押さえて座っていた。

「なにするんだよ・・僕は鱗干ししてただけだったのに・・・」
と表情のない顔で言う。

鱗干しって・・・
・・・甲羅干しみたいなもんか?

「ここはお気に入りの場所だったのに・・20年前は全然人間族いなかったのに・・」

・・お気に入りの場所?
こっちはただ人間の勝手で結界なんか張って好き放題してたってこと?

・・なんか申し訳ない気になってきた。

「ところで・・」
氷竜だった少女が言う。

「お兄さん強いね・・僕は氷竜族のアイズ。」

あれ?なんか友好的?

「あ、ああ、よろしく。俺はユージ」

「ユージか・・僕、負けたの初めてだよ・・一族の中じゃ強いって自信があったんだけどな・・一応氷竜族の姫だし。」

お姫様だったのか!

「あの・・その、目は大丈夫ですか?」
思わず敬語になってしまう。

「ん?ああ、さっき突かれた目・・多分十日もすれば元通りになる・・逆鱗突かれてたら死んじゃってたかもしれないけど。」
と首をさすりながら言う。相変わらず無表情だ。

逆鱗か・・。思わないではなかったが、場所がわからなかった。
しかし目を突かれて十日で復活とは・・なんつー回復力。竜人族恐るべし。

「それより、竜人は自分に勝った相手に従うしきたりがある・・だからこれからユージについていく。」

ハァ?

従うってメイドさんみたいなこと?

そこで面白そうに見守っていたアカネが
「いいじゃないユージ?面倒見てあげたら?」
などと怪しい笑みをうかべながら言う。

「あ、君は火たくさんぶつけてきた女の子だね。君の火が一番痛かったよ・・」

「光栄ね」

あれ、若干バチバチになってる?

「これでも僕130歳くらいだから。細かくは覚えてないけど。年上だよ!竜人族は大体人間族の10倍は生きるから。まぁ人間に換算したら同い年くらいだけど・・」

アイズの見た目は小学生から中学生ってところだ。
「いや、同い年ってことはないだろう?」
と思わず突っ込みを入れる。

あ・・・・コール使ったタイムリミットだ。
力が抜けてその場に尻もちをつく。

「ちょっとユージ大丈夫?」
アカネが心配そうに駆け寄ってきた。

「ああ、大丈夫。気を失うようなことはなさそうだから・・。」
と何とか自分で立ち上がる。

そこでヘルメス先生が入ってきた。
「えぇ、そのアイズ君?君があの氷竜??」

「そうだよ。竜人族は人にもなれるからね・・」

「そして、これからこちらの人間の世界で暮らすと・・そういうことなのかな?」

「僕・・しきたりには従う性格なんだ。」

――――――――

その後、残っていたゴブリンを先生方が撃退し、とりあえず皆で手分けして、けが人の治療を終えた。幸い死者はおらず、ひどい凍傷の者もヒールをきちんと掛け続ければ何日かで直せるということが判明した。

しかし数百人を相手取ってあの圧倒的な破壊力を持つドラゴンをどうすべきか・・。

先生方の緊急会議の末、とりあえず魔術学園に連れて行って学園長を交え、協議することになった。
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